第8話 『迷宮にお宝を探しに行く』

 

「そういえば、お前の名前は?」


 エルフ少女の母親を治療の為に俺の【収納魔法アイテムボックス】に放り込んで治療を開始してから、そういえばエルフ少女の名前を聞いていなかったことを思い出したので聞いてみる。


「ふふん。人に名前を尋ねる時は自分から名乗るのが礼儀なんだよ」


「そういう屁理屈は良いから、はよ名乗れ。母親放り出すぞ」


「ご、ごめんなさい。私はイセリアです」


 母親が大丈夫と分かった途端に調子に乗り始めたエルフ少女――イセリアに少し脅しを掛けてから名前を聞き出した。


「母親の名前は?」


「……セリーナです」


「なるほど」


 それがエルフっぽいのかはいまいち判断が付かなかったが、【地図魔法マップ】に表示されたマーカーにイセリアと表記しておくのも忘れない。


「それじゃ俺は……」


「お、お兄さんの名前も教えてください!」


 そろそろ宿に帰ろうと思ったのだがイセリアに叫ばれて、そういえば名乗っていないことを思い出した。


「俺はニコラスだ。18歳、冒険者だ」


「はい。ニコラスさん、お母さんを……よろしくお願いします」


「……善処はする」


 一応時間の止まった空間に隔離してあるので死ぬことはないし、魔力で法則を書き換えるという治療方法なので大丈夫だとは思うのだが――なにしろ初めての試みなので確信を持って成功するとは言い難い。


 それを込みで実験をしているわけだから失敗しても文句を言われる筋合いはないが、セリーナは超絶美人エルフなので出来れば成功して欲しいと思う。


(完治しても流石に連れて帰るというわけにはいかないから王都にも拠点を作って管理を任せるのが良いかもな)


 少々呑気な話だが、俺はもうセリーナを手に入れた気になっていたのだった。






 セリーナをGETする為には娘であるイセリアもセットで確保した方が印象が良いだろうという打算でイセリアを宿に連れ帰ったら――ギルドマスターのおっさんに怒られた。


「私がギルド本部でチクチク文句を言われながら君のことを誤魔化す為に奔走していたというのに、君は一体何をやっているのですか?」


「……サーセン」


 俺としても別にふざけているわけではないが、それでも迷惑を掛けたみたいなので一応は謝っておいた。


「君の言葉遣いが時々特殊なのは今更だとしても……流石にその子がエルフということを加味しても少々幼すぎませんか?」


「別にエロいことするために連れてきたわけじゃないし」


「……そうなのですか?」


 俺のエロ方面でのギルドマスターの信用度が高すぎる。


 流石の俺でも10歳未満の子供に手を出すほど餓えていない。


「そういえばイセリアは何歳だっけ?」


 考えてみればイセリアはエルフなので、見た目より実は年上でしたということを警戒して聞いてみた。


「私は今9歳ですけど」


「そっか。そうだよな」


 どうやらエルフも成人までは普通に成長するタイプだったようだ。


(というかイセリアってエルフなのか?)


 母親のセリーナは間違いなくエルフだと思うが、もしも父親が人間だったならハーフエルフということに……。


「一応言っておきますけど両親が他種族同士だったとしても混血は生まれてきませんよ。生まれてくる子は両親の種族の内のどっちかで生まれてきます」


「そ、そうなんだ」


 ギルドマスターに説明されて思わず感心してしまった。


「まぁ、世の中には例外中の例外というのもあって、過去には混血として耳が人間とエルフの大きさの中間というハーフが生まれたという報告もありますけど……滅多にない話ですよ」


「ふぅ~ん」


 俺はイセリアの耳を確認してみるが普通サイズのエルフ耳だったのでエルフということになるのだろう。


「それじゃ俺は出掛けてくるけど、イセリアはさっさと風呂に入って寝ておけ」


「え? あの……何処に行くんですか?」


「……聞くな」


 ともあれギルドマスターの説教が終わったので俺はイセリアを部屋に残して――娼館に出掛けることにした。


 事前に情報を集めて獣人専用の娼館の場所もチェックしていたので、その夜は思う存分ワンワンニャンニャンプレイを楽しむことが出来た。


 王都に用事で来たらまた来ようと思う。


 というか明日の夜も来ようと思った。




 ◇◇◇




《マスター、現在の隔離対象の修正項目に修正困難な箇所を発見しました。修正するならば次の薬品を集めてください》


「おうふ」


 犬耳と猫耳のお姉さんとたっぷりと遊んだ翌朝、俺はコンから報告を受けて思わず頭を抱えてしまった。


 そこにはエリクシルとか万能薬とか、普通のお店では売っていないラインナップが並んでいたのだ。


「コンさんや。これらの薬があれば俺達が治療しなくてもセリーナは完治するのと違いますか?」


《その可能性は47%あります》


「これらがあっても47%なのかい。どんだけセリーナの症状は悪いんだよ」


 冗談抜きで俺と出会わなければ昨日の内に死亡していた可能性が極高だ。


「しかし俺にはこんな高価な……というか伝説的な薬を手に入れる伝手はないぞ」


《それでは隔離対象の修正は困難です》


「むぅ」


 とりあえずギルドマスターに相談してみるか。






「ああ。それなら王都の付近にある【迷宮ダンジョン】に潜ってみてはどうですか?」


 相談したらそう言われた。


「王都なのに【迷宮ダンジョン】なんてあるんだ」


「勿論、厳重に管理された【迷宮ダンジョン】で万が一にも中から魔物が溢れ出したりしないように常に間引きされていますが、現在に至っても最下層まで到達した者はいないと言われるくらい深い【迷宮ダンジョン】ですよ」


 俺は余り詳しくなかったので【迷宮ダンジョン】について聞いてみたのだが、誰が、いつ、どうやって作ったのは不明で、中は迷路になっていて階層が深くなればなるほど強い魔物が現れるそうだ。


 更に【迷宮ダンジョン】の中は地上とは法則が異なるそうで、【迷宮ダンジョン】の中で倒した魔物は即座に【迷宮ダンジョン】に吸収されて魔石と呼ばれる魔力が篭った石だけが残される。


 この魔石をギルドに持っていくと、その大きさや純度によっては高値で買い取ってもらえるそうだ。


「私が記憶している限りでは第40階層付近で出現する宝箱からエリクシルや万能薬が手に入ったという記録が残っているそうです。どうしても欲しいというなら挑戦してみては如何でしょうか?」


「手に入れてきたらどうするつもりだ?」


「余った分だけでも情報料として安値で譲ってくださいね♪」


「……余ったらな」


 本当に面の皮の厚いおっさんだよ。






 そういうわけで俺はセリーナを助ける為に【迷宮ダンジョン】に潜ることになってしまった。


「コン、一時的にセリーナの治療を中断して魔力処理領域を解放しろ」


《イエス、マスター。隔離対象の修正を一時中断します》


 流石にセリーナの治療で大量の魔力処理領域を使いながら【迷宮ダンジョン】攻略は現実的じゃないので、セリーナを【収納魔法アイテムボックス】の中に隔離したまま治療を中断して【迷宮ダンジョン】を攻略することにした。




 ◇◇◇




迷宮ダンジョン】に潜る準備に2日を掛けた。


 俺の【収納魔法アイテムボックス】には食料や水などは大量に入っているのだが、それでも万が一の為に追加で買い込んで入れておく。


 更に薬品類も今ある金で買えるだけ買い込んでおいた。






 で。いよいよ【迷宮ダンジョン】に潜ることになったのだが……。


「ようこそ探索者ギルドへ。紹介状はお持ちでしょうか?」


「……これを」


 俺は勿論知らなかったのだが【迷宮ダンジョン】に潜る際には冒険者ではなく探索者になる必要があるらしい。


 ギルドも異なっていて、冒険者が【迷宮ダンジョン】に入る為に探索者になるには信用出来る保証人の紹介状が必要だった。


 うん。俺は勿論ギルドマスターに紹介状を書いてもらったのだが……。


(この借りは高くつきそうだなぁ)


 入る前からテンションは駄々下がりだった。






 そうして諸々の手続きを終えた俺は不気味な門を潜って【迷宮ダンジョン】の中に足を踏み入れた。


「ここが【迷宮ダンジョン】か」


 感じた感想は意外と広く、意外と明るいということだ。


 一応、探索者ギルドで【迷宮ダンジョン】の話はある程度聞いてきた。


迷宮ダンジョン】は人間を餌にしているので、中に誘いこむ為に色々と人間に都合の良い作りになっているそうだ。


 広くて歩きやすい通路とか、光源なしでも活動出来そうな明るさとか、そういうもので人間を誘い込んで――魔物に襲わせる。


 そうして死亡した人間は【迷宮ダンジョン】に吸収されて【迷宮ダンジョン】の栄養になる。


 一説には【迷宮ダンジョン】を巨大な魔物に例える学者もいたとかなんとか。


「ふぅ~む。魔物に例えられるだけあって、そこら中に魔力の流れが確認出来るな」


《マスター、この魔力の流れなら龍脈の代用に使えそうです》


「ほぉ。それはグッドニュースだな」


 つまり、この魔力の流れを利用して転移魔法を発動させることが可能というわけだ。


 セリーナの治療に必要な薬品類を手に入れたなら、さっさと転移で脱出してオサバラ出来そうだ。


「それじゃ……行くか」


 俺は少しだけ気合を入れて【迷宮ダンジョン】の攻略を開始した。




 ◇◇◇




 第1階層~第10階層までは問題なく攻略出来た。


 俺は飛行魔法を使って進みながらコンに【魔戦輪リング・スラッシャー】の制御を任せていたので大変だったという意識は欠片も沸かなかった。


 倒した魔物が落とした魔石はコンの制御によって【収納魔法アイテムボックス】に自動で入れられるので止まる必要もなく順調に進めた。


 事前に聞いていた通り【迷宮ダンジョン】は10階層ごとにボスが出現する広い部屋が存在するそうだが、第10階層の広間にいる筈のボスは残念ながらお留守だった。


 当たり前だが【迷宮ダンジョン】を攻略しようと挑んでいるのは俺だけではなく、先行した探索者によってボスが倒されてしまうと階層の深さにもよるが約1週間は復活しないそうだ。






 第11階層~第20階層は罠が設置される頻度が増えてきた。


 迂闊に発動させると鉄の槍が敷き詰められた落とし穴に落とされたり、毒塗りの矢が飛んできたりするのだが……。


(わかりやすっ)


迷宮ダンジョン】に設置してある罠は例外なく魔力仕掛けなので俺の【魔力視】で見ると丸分かりなので引っかかる方が難しいくらいだった。


 あ。第20階層のボスも既に倒されていたので素通り出来たよ。






 第21階層~第30階層になると大勢いた探索者の数が減って魔物の出現頻度が高くなった。


 正確には探索者の数が少ないので間引きされていない魔物が増えたというべきか。


 一応、教えてもらった現在の最高到達階層は第48階層という話だったし、まだまだ探索者はいなくならないだろうが、人の目が少なくなるということは性質の悪い輩も増えるということだ。


「へへっ。1人で【迷宮ダンジョン】に潜るとは少しばかり用心が足りないなぁ、坊や」


「…………」


 例えば通路をふさいで俺を取り囲んだこいつらのように。


「金目の物を出せば命だけは勘弁してやっても良いぞ」


「は?」


 山にいる奴は山賊、海にいる奴は海賊だから、【迷宮ダンジョン】に出る奴は迷賊と呼ばれているらしいのだが、そいつら――ではなく俺の脅迫文を聞いて迷賊達が呆気に取られていた。


「おいおい。まさか、その歳で御同業かよ」


「だが1人で来るとは運が悪かっ……ぷぎょっ?」


 もう面倒なので【魔戦輪リング・スラッシャー】で首刈りを開始することにした。


「ま、魔法? これは……風魔法かへぁっ!」


「待てっ! 金なら……はべぁっ!」


 結局1分と持たずに迷賊達は全滅し、少々面倒だが迷賊の死体が【迷宮ダンジョン】に吸収される前に金目の物を漁ることにした。


「しょぼっ」


 結果、ろくな金にもならずに時間の無駄だった。


 あ。第30階層のボスも不在だったよ。






 第31階層~第40階層は更に探索者を見かける頻度が減り、魔物との遭遇率がグッと上がった。


 その分、大量の魔石が手に入ったし、この階層付近から宝箱を低頻度で見かけるようになった。


 まぁ、入っていたのは俺が使えないような武器とか防具ばかりで肝心の薬品類は見つかっていないのだが。


 第40階層のボスは牛の顔と人間の体を持ったミノタウロス――の強化版だった。


 レッドミノタウロスという名前らしく、その名の通り全身が真っ赤で通常のミノタウロスよりも巨体で腕力と耐久力が厄介な魔物と聞いていたのだが……。


「この魔石は高く売れそうだな」


魔戦輪リング・スラッシャー】で瞬殺したので、どのくらい強いかはよく分からなかった。






 ここまでが俺が【迷宮ダンジョン】攻略1日目の出来事だ。


 たった1日で第40階層を突破というのはハイスピード過ぎると思うが、ギルドマスターが王都での用事を終えて帰るまでにはセリーナを治療して王都に拠点を作っておきたい。


 その為には3日以内に必要な薬品を揃えて【迷宮ダンジョン】を脱出する必要があるのだ。




 ◇◇◇




迷宮ダンジョン】攻略2日目。


 ボスを倒して1週間は安全地帯となった部屋で目を覚ました俺は早速第41階層から攻略を開始する。


 この近辺で出現する宝箱の中に目的の薬品が入っていたと聞いているので期待しているのだが……。


「またか」


 低確率で発見する宝箱から出てくるのは用途不明の鉱石ばかり。


 ひょっとすると何か貴重な宝石や金属の原石なのかもしれないが、俺が欲しいのは薬品類であって鉱石ではない。


 ガッカリしつつも俺は第41階層~第46階層までを順調に踏破。


 そして、その第46階層で――久しぶりに探索者に出会うことになった。






 その探索者達は6人組で、それなりに強そうな装備を身に着けていたのでベテランという言葉が頭に思い浮かんだのだが……。


「もう……良い。俺のことは……ここに置いて行ってくれ」


「駄目よ! 直ぐに上の階層まで戻るから……諦めないで!」


 重戦士と思わしき男が重傷を負っているようで、その男が自分を置いて行けと言うのに対して仲間達が頑なに拒絶しているという場面だった。


 勿論、俺はこんな三文芝居に付き合う義理はないので、さっさと通り過ぎても良かったのだが……。


「あのさ……」


「「「っ!」」」


 ある思惑から声を掛けたら6人中3人が敏感に反応して俺に振り返り武器を向けてきた。


 恐らく前衛と斥候を務めるメンバーだろう。


「……誰?」


「普通に考えて【迷宮ダンジョン】を攻略中の探索者だろう」


 誰何されたので普通に答えたが、彼ら彼女らはいぶかしげに俺を見ている。


「1人でここまで来たというの? 仲間は?」


「質問ばっかりだな」


 俺はやれやれと肩を竦めて見せる。


「逆に聞くが、そいつを治療すれば問題なく先に進めるんじゃないのか?」


「……もう薬も魔法も打ち止めなのよ」


 第46階層まで、まともに攻略してきたというなら手持ちの薬が尽きたという話にも納得だが、回復魔法を使うだけの魔力も残っていないらしい。


(コン、もしも俺の魔力が尽きたとしたら何日くらいで回復すると思う?)


《マスターの魔力が枯渇した場合、回復には3日が必要です》


(なるほどねぇ)


 回復魔法にどのくらいの魔力が必要なのか知らないが、こんな【迷宮ダンジョン】のど真ん中では呑気で魔力が回復しているのを待っているわけにはいかないってことか。


「回復ポーションなら手持ちにあるが……」


「っ! 売って頂戴!」


 背負っていた鞄から取り出すと見せかけて【収納魔法アイテムボックス】からポーションを取り出すと当たり前のように目の色を変えてきた。


 そりゃ大事な仲間の命を救えるかもしれない薬を俺が持っているのだから当然そうなる。


「俺は目的があって【迷宮ダンジョン】に潜っているわけだが……」


「手持ちにある物なら何でも差し出すわ! 好きな物を持って行って頂戴!」


 正直、重戦士が回復出来ていないのでエリクシルは期待していなかったが、それ以外の数種類の薬品は確保出来そうだった。


「OK。交渉成立だ」


 俺はホクホク顔で欲しい薬品と引き換えに手持ちのポーション数個を渡した。


 これで後はエリクシルと万能薬だけだ。


「す、すまない。俺が不甲斐ないばかりに……」


 取引が終わったら、ひょっとしたら襲い掛かってくる可能性も考慮していたのだが、彼らは俺を純粋に命の恩人と見ているのか感謝しても恩を仇で返す気はなさそうだった。


「それじゃな」


「あ」


 俺は先を急ぐ為に挨拶もそこそこに出発することにした。






 第47階層、第48階層、第49階層と攻略を続けるが、やはり宝箱から出てくるのは鉱石ばかりで薬品は出てこない。


 そして遂に第50階層に到着した。


 ボスは、なんと焦げ茶色の鱗をしたドラゴンで、その巨体からは想像出来ない速度での突進攻撃が厄介に――なるのかもしれない。


 ボス部屋って広いから普通に空中から【魔戦輪リング・スラッシャー】で攻撃するだけで倒せてしまったので少し申し訳ないと思う。


「お」


 そうしてボスを倒した後に綺麗に輝く宝箱が出現した。


迷宮ダンジョン】の宝箱というのは【迷宮ダンジョン】の意志で出現しているという説もあったので第50階層を突破した俺への御褒美なのだろうと思ったワクワクしながら宝箱を開けて――虹色の輝く金属が入っていた。


「違げぇよっ! 俺が欲しいのはエリクシルと万能薬なんだよっ!」


 それが喩え【緋緋色金ヒヒイロカネ】と呼ばれる伝説的な金属だったとしても、俺が欲しいのはこれではないのだ。






 結局、俺がエリクシルと万能薬を手に入れることが出来たのは第53階層の攻略中だった。


 まったく苦労をさせてくれるものだ。



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