第6話 『オーク殲滅戦と恋人さんごっこ』

 

 オークロードの討伐後、俺はこっそり町に帰ってきて、こっそりギルドマスターにオークロードの死体とジェネラルの死体20体を預けてきた。


「あははぁ~。もうAランクどころかSランクでも良い気がしてきましたよ、私は」


 自分でやれって言ったくせに、本人は現実逃避してたけど。


 ついでに28000以上のオークが1ヶ月ほどでやってくる可能性を示唆しておく。


「……どうやって徒歩で1ヶ月掛かる距離から日帰りで行って帰って来られるんですかねぇ。不思議ですねぇ~」


「詮索しないって契約を忘れんな」


「いえいえ。凄く単純な疑問が思わず口から飛び出てしまっただけですよぉ」


 まぁ、飛行魔法や転移魔法ってどう考えても反則以外の何物でもないので分からないでもないけど。


 俺が1番反則だと思っているのはコンだけどな。


 自分で作っておいてなんだけど、この子便利すぎ。


「それじゃ俺は帰るぞ」


「あ。ついでなので明日からオークの間引きをお願いします。流石に28000のオークが流れてきたら詰みますので」


「……冒険者にやらせろよ」


「だから冒険者に依頼しているじゃないですか」


「……気が向いたらな」


「お願いしますね♪」


 面の皮の厚いおっさんだ。






 後日、俺にギルドから報酬として白金貨10枚が支払われた。


 本当はオークロードの討伐なら白金貨200枚はくだらない仕事らしいが、この冒険者ギルドではこれが精一杯らしい。


 残りは借りということでお茶を濁された。




 ◇◇◇




 アイーシャの仕事はまだ決まらない。


 本人的には精力的に頑張っているつもりのようだが、雇ってくれそうなところというのは露骨に身体を要求されたり借金を背負わせようとしたりと悪質なところだけらしい。


「……疲れました」


 お陰で流石のアイーシャも気力の限界で俺に弱音を零していた。


「今日だけで良いですから、恋人みたいに優しく慰めてください」


 おまけに俺に対して妙な欲求をしてきた。


 本気で疲れているようだ。


「今日は特別だからな」


「あっ♡」


 とりあえず俺の考える恋人的な行為ということで啄むようなキスから初めて情熱的なキスへ移行し、その後丹念な愛撫を繰り返してアイーシャが我慢しきれなくなるまで可愛がってから――ベッドの上に押し倒した。






「わたくしをメロメロに惚れさせて、どうしようというのですか?」


「お前がやれと言ったんだろうが」


「……ここまで優しくすることないじゃないですか。勘違いしてしまったらどうするつもりですか?」


 どうやら俺がアイーシャに施した行為は彼女の弱点にクリティカルヒットしてしまったらしい。


「ぐすっ……本当に、どうしてくれるんですか」


「…………」


 考えてみれば夫を亡くし、息子と離ればなれで、おまけに散々盗賊に凌辱されたわけだから平気なわけがなかったのだ。


「……責任とって下さいよぉ」


「…………」


 とりあえず裸のままポロポロと涙を零し始めたアイーシャを抱きしめて、背中を撫でて慰めることにした。






 どうやら俺は対応を間違えてしまったらしい。


 今日も今日とてオークの間引きに出かけようとしたのだが……。


「……行かないでください」


 部屋を出ようとしたらアイーシャに服の裾を掴まれて上目使いで哀願された。


 そりゃ、もう瞳をウルウルと潤ませて全身で『わたくし、寂しいの』とでも表現しているようで、女の匂いをプンプン漂わせていた。


「あんっ♡」


 その余りの色香に惑わされて、仕事をサボってアイーシャに貪りついたとして誰が俺を責められるだろうか?


 いや。普通に自分でもダメダメだと思うのだが……。


「あっ♡ あっ♡ あぅっ♡」


 常時俺を誘惑しながら喘ぎまくるアイーシャを見ていたらどうでも良くなってしまった。






 結果として俺は『昼間から盛ってんじゃねぇ!』と宿屋の主人から苦情を出され、更にオークの討伐をサボったことでギルドマスターからも苦情を出された。


 だが1度喰らいついたアイーシャはすっぽんの如くまったく離してくれる気はないようで、延々と搾り尽くされた。


 どうやらアイーシャという女は1度懐くと、とことんまで愛情を向けてくるようになる情熱的な女だったらしい。


(むぅ……魔力を精力に変換出来る魔法でも開発しようかなぁ)


 思わずそんなことを考えてしまうくらいアイーシャさんは魔性の女だったよ。


 ある程度基盤が出来たら王都にでも出て一旗揚げるつもりだったのに、この調子ではアイーシャから離れられるか疑問に思えてきた。




 ◇◇◇




 残念ながら魔力を精力に変換する魔法は不可能だったが、その副産物として環境適応魔法が開発出来た。


 考えてみれば俺の飛行魔法である【推進力場フォース・ドライブ】だって俺の身体を魔力に包み込むことによって、その範囲の法則を書き換える魔法なのだから、その応用で魔力で包み込んだ俺の身体に暑さや寒さといった気温の変化を遮断するくらいどうということもなかった。






 とまぁ、息抜きに魔法の開発は順調なのだが、逆にオークの間引きの方は全く上手くいっていない。


 そもそもの話、どうしてオークが28000匹以上にまで膨れ上がったのかという問題をギルドマスターに聞かされた。


 本来、オークというのはゴブリンと同様に雄だけの種族だ。


 それ故に、繁殖には他種族の雌――人間の女性などが浚われて苗床にされたりするのだが、その方法では流石に28000匹まで増えたりはしない。


 その秘密がオークロードが誕生した場合にのみ生まれてくるオーククィーンの存在だ。


 このオーククィーンはオークロードと交わった際に、非常に珍しいことにオークの雌――オークレディを産み落とす。


 そのオークレディが通常のオークと交わると、異常と言える繁殖力でオークを産み落とすらしい。


 これがオークが28000匹もの数に増殖した原因だった。


 で。俺は気付かなかったのだがオークロードと一緒にジェネラルを狩った時にオーククィーンも【収納魔法アイテムボックス】に詰め込んでギルドマスターに提出していたらしい。


 結果として、これ以上オークレディが増えるという事態は防げたのだが、既に誕生してしまったオークレディはどうしようもない。


 今もオークと交わって、せっせとオークの量産に励んでいることだろう。


 そういう話を聞かされた俺に出された指令は、間引きしたオークの死体を野放しにせずに回収してくることだった。


 オークロードが居た時は森の野生動物などを根こそぎ狩って兵站としていたオーク達だが、オークロードが倒れたことで食料の調達が困難になっていた。


 だが、そこで俺がオークを討伐して死体を残したままにしておくと、オーク達が共食いして逆に増える可能性もある。


 食料さえなければ餓死するオークも多くいる筈なので、俺の【収納魔法アイテムボックス】の中には大量のオークの死体が詰め込まれることになってしまった。


 一応、ギルドマスターの方で資金に余裕が出来次第買い取ってくれることになっているのだが、俺の【収納魔法アイテムボックス】に入っているオークの数を考えれば全部買い取りが終わるのはいつになるやらって話だ。


 ちなみにオークの肉は上流社会の人間――つまり貴族達とっては高級食材扱いらしい。


 俺としては最悪の場合、人間の女性を苗床にして人間から生まれてくる魔物を食う気にはまったくなれないのだが、その肉は豚肉よりも上品な味がして上位貴族にとってはオークを食えることがステータスになるそうだ。


 まぁ、どこの世界でも上流階級の食事にはゲテモノが含まれるということなのだろう。


 ギルドマスターも新鮮なオークの肉ということで、解体して王都へと流していると聞いているが――流石に数百~数千の数は一気に捌けないらしい。






 そんなわけで俺は今日も今日とて上空の安全地帯からオークの集団に向かって【魔戦輪リング・スラッシャー】で攻撃してスパスパと首を刈っていた。


 なんというか『オークを狩るだけの簡単なお仕事です』って感じだ。


 実際、俺は1日に数百匹――下手をすれば千匹に届きそうな数のオークを狩っているが、まだまだ間引きは終わりそうにない。


 どうやらオークレディは順調にオークを増産しているらしい。






「……飽きた」


 そういうわけで俺はオーク狩りに辟易してギルドマスターに愚痴を漏らしていた。


「そう言われても君以外にオークの居場所を知る人はいないですし、短時間で移動出来る手段を持っているのも君だけです。君に頑張ってもらわないと町の安全を確保出来ないのですよ」


「もう良いじゃん。俺、頑張ったよ? 多分、オーク8000匹以上狩ったよ。ここから先は冒険者に遠征させれば良いじゃん」


 正直、自分でもどうかと思うほど俺はウダウダ言って駄々を捏ねていた。


「報告から逆算して、オークのいる森の奥まで踏み込む為には最低でもCランク以上の冒険者が200人は必要になるのですが」


 この町の冒険者の数は800人ほどで、内訳はFランクが300人、Eランクが250人、Dランクが200人、Cランクが50人、Bランクが1人らしい。


「俺はDランクなんだけどぉ~?」


「君が望むならAランクに昇格出来るように推薦状を出しておきますが?」


「……いらね」


 貴族に目を付けられて厄介ごとになる未来しか見えなかったので断っておいた。


「君の功績を国に報告すれば貴族にだってなれると思うのですが、どうしてそこまで権力を忌避するのですか?」


「権力は必要だと思っているよ。いざという時に発言力を得る為には権力を持つのが1番だしな」


「それなら……」


「だが貴族になるのはお断りだ」


「……何故ですか?」


「貴族になるってことは国に仕えるってことだろ? そうなったら俺より爵位の高い連中から便利に顎で使われることになる」


 貴族になった時点で自動的に国に仕えることを了承したことになり、色々と便利な魔法を持っている俺は引っ張りだこで扱き使われることになる。


「それは逆に言えば、更に功績を上げて爵位を上げれば済む問題では?」


「はっ。現実問題として俺が貴族になったとして、どの程度の爵位が貰えるって言うんだ?」


「それは……現実的に考えれば騎士爵か士爵、君の功績なら準男爵というところでしょうか」


「全部、1代貴族だろう? 成り上がりの冒険者なんかに見下されてたまるかって貴族が山程居るんだから、俺がどれだけ功績を上げようと爵位が上がるのを防ごうと動く筈さ」


「…………」


「なんだよ?」


「いえ。君は孤児院の出身と聞いていたのですが、意外と現実が見えているのですね」


「小賢しい小僧で悪かったな」


 ともあれ、そういう理由で俺は貴族には関わりたくないし、貴族にもなりたいとは思っていなかった。


「そういうわけで、これ以上しんどい労働は御免だ」


「そう言わずに。この町には君の出身の孤児院もあるのですよ?」


「院長が国からの援助金を横領して好き勝手にしている孤児院に義理なんてねぇよ」


「……それが本当なら重大な違反行為ですよ?」


「誰も視察にも来ないし、孤児院の子供に訴えるコネなんてないし、どうにでもなると思っているんだろうさ」


「…………」


 俺の発言は思ったより重大な話だったようだ。


「私が一筆書いて、孤児院を視察するように要請を出しておきましょう」


「この町の監査官なら院長に買収されているから意味はないけどな」


「……王都に申請しておきます」


「あっそ」


 既に孤児院から出た身である俺からすれば今更の話だが、あの院長に意趣返し出来るのなら止める理由はなかった。






 結局、話をうやむやにされてオークの間引きを断れていなかったということに気付いたのは宿に帰ってアイーシャを相手に頑張っている最中のことだった。




 ◇◇◇




「金も十分確保出来たし宿暮らしも飽きたから、そろそろ家でも買おうと思うんだが……」


「わたくしをメイドとして雇ってくださいませっ!」


「……別に良いけど」


 家を買う計画を話したらアイーシャが真っ先に話に乗って就職を希望してきた。


 正直、メイドを雇うような大きな家を買うつもりはないのだが、アイーシャが俺の身の回りの世話をしてくれるというなら雇っても構わないだろう。


 今までと何が変わるわけでもないし。






 ギルドマスターの紹介状を見せて俺が不動産屋から買ったのは、お世辞にも綺麗な家とは言い難かったが、俺とアイーシャが住む分には問題ない大きさの家だった。


 ちなみにお値段は金貨8枚――日本円に換算して約800万円だ。


 これを安いと見るか高いと見るかはそれぞれの価値観に左右されるが、少なくとも俺は良い買い物だったと思う。


 結局、アイーシャに家具や身の回りの必要品を選ばせたら合計で金貨10枚を超えてしまったが、今の俺の財布からすれば微々たる出費と言っても良い。


「ああ。ついでにこれを渡しておく」


「これは?」


 俺がアイーシャに渡したのは金貨を含めた色々な貨幣の入った袋だ。


「……わたくしは愛人ですか?」


「いや。普通に生活費だけど」


「あ」


 アイーシャは愛人料金と勘違いしたようだが、これから生活していく上で必要な物を購入するための資金だ。


 俺の身の回りの世話をしてくれるというのだから、そういうお金は必要になるだろう。


「あの……精一杯お世話をさせていただきますわ」


「ああ、頼んだ」


 自分1人でも生活していける自信はあるが、折角世話をしてくれるというのだから任せてしまおうと思っていた。


 アイーシャに依存してしまうのは少しだけ危ないと思っているが――その時は別の方法を考えればいい。






 そんな感じで俺は新居を購入して一喜一憂していたわけだが、そんな俺とは裏腹に俺が討伐したオークロードの問題が王都へと報告されて色々な問題を引き起こしていた。


 勿論、ギルドマスターは俺の情報を秘匿したが、それでも色々な意味で不自然な討伐だったのは事実。


「そういうわけで私は王都に召還され、色々と聞かれることになってしまいました」


「そいつは大変だなぁ」


 色々な意味で忙しい筈のギルドマスターが王都に呼び出されるとは御愁傷様だが、それでも俺にとっては他人事だ。


「出来れば君にも一緒に来て欲しいのですが……」


「新居を買ったばかりの俺に無茶を言うなよ」


「君なら短時間で王都と町を往復出来るのではありませんか?」


「……詮索するなよ」


 目の前で見せたわけではないから確証はないだろうが、それでもギルドマスターは俺が飛行魔法や転移魔法を使えることを確信しているようだった。


 まぁ、オーク討伐に毎日のように遠い森の中に出掛けているわけだし、バレていないと思う方が不自然か。


 実際、この町から王都までは直線距離で500キロという話だったので、その気になれば1日で往復出来るだろう。


「王都ってどんなところ?」


「この町とは比較にならないくらい大きくて、人が大勢いて、物資が豊富なところですよ」


「……子供じゃあるまいしメリットだけ知らされて素直に信じるとでも思っていたのか?」


「嘘ではありませんよ?」


 そりゃ嘘は言っていないだろうが、メリットだけ話してデメリットを話していないだけだ。


 嘘は吐いていないが本当のことを言っているわけではないという奴だろう。


「広いということは、それだけ秩序を守るのが大変ってことだし、人が大勢いるってことは、それだけ混乱の度合いも大きいってことだし、物資が大量にあるってことは、それだけ金にがめつい連中が多いってことだな」


「……夢のない意見ですねぇ」


 前世では東京に勤務していたので人が多いことのデメリットは大体想像出来てしまう。


「そもそもの話、俺が同行したらオーク討伐出来る奴がいなくなると思うんだが?」


「君の報告を聞く限り、もう1~2週間放置しても町には辿り着けないでしょうから少しくらいは大丈夫ですよ」


「ちっ」


 実際の話、俺の活躍のお陰でオークは減少傾向になっているし、死体を全て回収しているので餓死するオークも増えてきていた。


 どうやらオークレディは出産の際に大量の食料を必要とするようで、増えるよりも減る方が早くなっていた。


 だから暫く放置しても大丈夫という意見は正しいのだが……。


(アイーシャがなんて言うかなぁ)


 流石にアイーシャを同行させるわけにもいかないので置いていくしかないわけだが、あのアイーシャが素直に留守番している姿が想像出来ないんですけど。


「君の家なら女性の冒険者に護衛依頼を出していくので問題ないと思いますよ」


「…………」


 こっちの事情を把握済みというのがいやらしい。


 そりゃ俺がアイーシャを拾って以来、面倒を見ているのも身体の関係を持っているのも隠していないが、俺とアイーシャの距離感まで把握されているようで気分が悪かった。


 もしもアイーシャを人質に取られたら俺はどうするのか?


 今ならば、まだ見捨てることは出来ると思う。


 アイーシャと身体の関係を持って情は沸いているが、それでも決定的に愛情が育っているわけではないので今ならば見捨てることも可能だ。


 だが今後がどうなるかはわからない。


「……家に帰って少し考えてみる」


「ええ。よく相談して決めると良いと思いますよ」


「…………」


 ギルドマスターの顔面を殴りたくなったことは言うまでもない。






 家に帰ってアイーシャに王都までの護衛依頼を受けるかもしれないと言うと……。


「……行かないでぇ」


 予想通りウルウルと瞳を潤ませながら哀願してきた。


 本気で魔性の女になりつつあるわ。


「アイーシャには俺が留守の間、家を守っていて欲しいんだが……」


「家を?」


 そこでアイーシャは何故か少しだけ考えた。


 本当に少しだけ考えて……。


『……家を守るのってお嫁さんの仕事みたい』


 ポツリと小声で何かを言った。


 いや。バッチリ聞こえていたんだが、なんとなく聞こえないふりをしてしまった。


「わかりました。あなた様のお留守は、このアイーシャがお守りいたします!」


「あ、はい。よろしくお願いします」


 アイーシャが俺を【あなた様】と呼び始めたのは、この時が初めてだった。


 以降、アイーシャが俺の妻らしく振舞うのを止めることは出来なかった。




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