第5話 『オークロード討伐戦』

 

 俺が住んでいるリセの町は辺境にあるだけあって、そこそこ人情のある人間が住んではいるのだが……。


「うぅ……また雇ってもらえませんでした」


 その分、余所者には少々当たりがきついところがある。


 町に商売しに来る商人に対してなら兎も角、余所者が町で働こうと思ったら顔馴染みになってからじゃないと雇ってもくれない。


 そういう辺境の町の洗礼を受けたアイーシャは職を得るのに失敗して肩を落として帰って来るのが最近の日課となっていた。


 頑張りは評価がするが、今の彼女に必要なのはガッツではなく町に馴染む時間なのだ。


「別に追い出したりしないから、じっくり時間を掛けて下準備した方が良いぞ」


「分かってはいるのですが、何もしていないと落ち着かなくて」


 流石貧乏貴族家に嫁いできた女だけあって怠惰は敵らしい。


「固いなぁ。体はこんなに柔らかいのに」


「んぅっ♡」


 抱き寄せて、そのメロンの如きおっぱいを揉み解すと直ぐに素直に反応する。


 盗賊に散々陵辱された影響か、本人が想像している以上に身体が敏感になっているらしい。


 本人の話では陵辱されている時は反応出来ないほど疲れて果てていたし、最終的には快楽なんて微塵も感じていなかったようだが――陵辱に耐えた身体はしっかりと開発されていたようだ。


 盗賊のお下がりみたいな部分はムカつくが、それはそれとしてアイーシャの身体は素晴らしい。


 身体だけの関係で愛情はないのか? と問われれば身体の関係を持ったので情は沸いているが愛情まで育つかどうかは未知数というところ。


 少なくとも今のアイーシャに俺が自分から秘密を暴露する気はないし、共に人生を歩んでいこうなんてことも考えていない。


 アイーシャ本人が最終的にどう判断するかは分からないが、彼女は現在俺に自分の身体という対価を支払って安全な生活を買っている段階だ。


 俺も今はそれ以上踏み越える気はないし、アイーシャもそれは望んでいないだろう。


 寧ろ、アイーシャとしては町で基盤を作って、ある程度安定したら息子のカルロスを探そうと思っている節がある。


 旦那は間違いなく盗賊に殺されたのを目撃したらしいが、息子が殺された場面は見ていないのだから。


 現在は、その準備を整えている――以前の前提条件を揃えているところか。


「あ……はぁ♡」


 だから俺との情事を拒まないどころか積極的に快楽を受け入れる方針のようだ。


 世話になっている俺を怒らせても良いことなどないし、気に入られていた方が何かと優遇されると知っているからだ。


 避妊だけは哀願してまでお願いしてきたのが良い証拠だろう。


 この世界には都合の良い避妊具などないので、確実に避妊する為には魔法の避妊薬が必要になる。


 結構なお値段がするので無一文のアイーシャには買えないしね。


 ちなみに盗賊に陵辱されていた時は民間療法のような避妊をしていたらしい。


 本当に効果があるのか知らないが結構な期間陵辱されていたアイーシャが妊娠していないのは確認しているので効果はあったのかもしれない。


「~~~っ♡」


 まぁ、要するに俺は遠慮なく未亡人となったアイーシャの中に出せるわけだ。




 ◇◇◇




 前回の盗賊退治で功績ポイントはそれなりに溜まったのか、俺の冒険者カードが失効してしまう危機は去った。


 お陰で【地図魔法マップ】の開発に従事したいところなのだが……。


「ニコラスさん、今度はこの依頼をお願いします♪」


「……へい」


 ライラさんがポンポン依頼を持ってくるので研究開発している暇がない。


 どうやら盗賊退治で功績ポイントが思った以上に溜まったので、早めにCランクに上げてしまおうという腹らしい。


「Cランクに上がれば遺跡の調査依頼とか受けられますし、報酬がとっても高いんですよ♪」


「……俺って未だにライラさんの担当の中で1番の出世株なんですか?」


「…………」


 あれから3年も経ったのにライラさんが担当している冒険者に有望な奴がいないらしい。


「ニコラスさんが想像している以上に冒険者っていうのはランクが上がらないものなんですよ。特に私が担当している人は何故か出世欲が低くて皆Eランクで満足してしまう人ばかりでして」


「……冒険者?」


 冒険しなくても冒険者と呼ぶのだろうか?


「そういう訳でニコラスさんには是非頑張って欲しいんですよ♪」


「俺は金に余裕が出来たから魔法の研究とかしたいんですけど」


「頑張って欲しいんですよ!」


「……分かりましたよ」


 ライラさんに涙目で懇願されて俺は渋々依頼を受けることにした。






 今回の依頼は森の奥で発見された豚面の魔物――オークの集落の討伐依頼。


 ギルド経由での依頼なので勿論、俺1人に対しての依頼ではなく他のパーティと共同で行う仕事だ。


(ライラさんは俺に冒険者の横の繋がりを作らせたいみたいだな)


 仲間を集めてパーティを組むというところまではいかないが、実力のある冒険者と顔見知りくらいにはなっておけという意図がありそうだ。


 そういう訳で俺は今20人近い冒険者と一緒に森の中を行軍中だった。


(この人数で集落を潰せって話なら、オークの数は思ったより少ないのかもな)


 流石に100匹を超えるオークを20人で潰せとか無茶な話は出ないだろう。


「オークの数ってどのくらいなのかな?」


「ギルドで偵察も出しているだろうし、この人数で討伐しろってんだから20匹前後……多くても30匹ってとこじゃね?」


 行軍中、仲良くなった歳の近そうな男に聞いてみるが大体俺の予想と変わらない答えが返ってきた。


 勿論、俺は【監視魔法サテライト】で上から偵察もしているのだが、この森って無駄に広いし、【監視魔法サテライト】の監視範囲にオークの集落など見当たらない。


 まぁ、元々森のような遮蔽物のある場所だと使いにくい魔法なんだけど。


 同じ理由で望遠魔法も余り役に立たない。


(なんか、順調にフラグを立てている気がするな)


 これは集落を見つけたら大量のオークが出るパターンですわ。






 そうして森の中を3日ほど行軍して見つけたオークの集落は……。


(あれ?)


 フラグを立てた割には普通に20匹ちょっとくらいの集落だった。


(俺が予想したからフラグブレイクしちゃったのかな?)


 まぁ、無駄に苦労せずに済みそうだし、これはこれで良いんだけど。


「それでは事前に決めておいたとおりの役割分担で討伐を開始する」


 今回の討伐隊のリーダーの掛け声によってオークの集落討伐が開始された。






 俺は勿論、後方から【魔戦輪リング・スラッシャー】を使っての援護になる。


監視魔法サテライト】から送られてくる映像を頼りにピンチになりそうな奴を助けていくという方針だ。


 その行程は順調に進み、オークの数が半減した頃になっても冒険者の中に死者や重傷者は出ていない。


 このまま押し切れると思ったのだが……。




「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!」




 突然の雄叫びで周囲の空気がビリビリと振るえ、俺の周囲にいた数人が戦意を喪失して腰を抜かして座り込んでしまった。


「ちぃっ! 上位種が居たか!」


 リーダーが舌打ちしながら視線を雄叫びを上げたオーク――普通のオークよりも一回り巨体で、硬そうな赤銅色の肌をしたオークに向ける。


「ハイオーク……いや、まさかオークジェネラルかっ!」


(えぇ~)


 なんか物凄く嫌な単語が聞こえたんですけど。


 俺も、この世界で冒険者をやって数年が経過しているので魔物の特性みたいなのはある程度判っている。


 そしてオークジェネラルというのは王の親衛隊――つまりオークの王であるオークロードが存在しているという証明なのだ。


 発見した集落が思ったよりも小規模だったのは、オークロードを頂点としたオーク軍団の一部隊に過ぎなかったからということになってしまう。


 本当にオークロードがいるというならオークの総数は最低でも数百――下手をすれば数千から数万にまで跳ね上がってしまう。


 流石に万単位というのは国家規模の滅亡の危機なので早々あることじゃないが、この集落が末端だとすれば数千というのはありえるかもしれない。


「グォオォッ!」


 まぁ、その辺は俺が考えるようなことじゃないし、今はジェネラルを始末する方が先か。


 ジェネラルはクソ重そうな槍を振り回して討伐隊のリーダーと切り結んでいるが、まだオークも残っているし雄叫びで戦意喪失した奴も少なくない。


(まずは頭を潰すか)


 戦意喪失した冒険者の面倒をコンに任せ、俺はジェネラルに向けて【魔戦輪リング・スラッシャー】を放つ。


「ッ!」


 ジェネラルは魔物なのだから魔力を可視出来る可能性も考えていたが、なんの抵抗も出来ないまま両腕を切り落とされた。


(魔物でも魔力の扱いに長けているわけじゃないのか)


 ジェネラルに興味をなくして俺は即座に首を切り落とした。


「大丈夫ですか? リーダー」


「お、おう……助かった」


 疲労困憊で肩で息をしているリーダーは素直に俺に礼を言ってくる。


 思っていた以上に危なかったようだ。


 というかオークジェネラルをものともしないって、やっぱり【魔戦輪リング・スラッシャー】って強いんじゃないかな?


 そんなことを思いつつ、俺は残りのオークを討伐すべく【魔戦輪リング・スラッシャー】を周囲に放っていた。


 ちなみに周囲の冒険者達は俺の【魔戦輪リング・スラッシャー】を風魔法か何かだと思っているようだ。


 確かに視認出来なくて切れ味は鋭いけど、普通の風魔法はここまで自在に操れたりしないのだが。




 ◇◇◇




 数日掛けて町へ帰還し、今回のことを報告したら当然のように冒険者ギルドは騒然となった。


 そりゃオークロードが出現した可能性を示唆されれば誰だってそうなるだろう。


 普通に考えて町を捨てて避難するレベルの案件だ。


 ここまで開拓の進んだ町を捨てるのは痛手だが、それでも相手がオークロードともなれば国規模で討伐隊を組む必要があるのだから。


 で。当然ながら町の住人全員が避難するという方向で話は進んでいたのだが……。


「ニコラスさん、ギルドマスターがお呼びですよ」


「……なんで?」


 何故か俺はライラさんからギルドマスターに呼ばれているという報告を受けていた。


「それはオークジェネラルを倒したのがニコラスさんだからじゃないですか?」


「……だと良いけど」


 嫌な予感を感じつつも俺はギルドに2階に上がってギルドマスターの部屋へと案内される。


 そうして初めて向かい合ったギルドマスターは想像とは違い人の良さそうな中年の男だったのだが……。


「君に頼みたい特殊依頼があります」


 俺はギルドマスターの話よりも、ギルドマスターの隣に立っている男――盗賊退治の時に俺が盗賊の首を提出した為、俺の【収納魔法アイテムボックス】の存在を知っていると思われる男が同席していることの方が気になっていた。


「そんなに睨まなくても君の秘密を探ろうなんて思っていませんよ」


「どうだか」


 そりゃ俺だって、どんなに質実剛健な性格をしていようとも――否、性格をしているからこそ信用出来る筋には話を通されて暗黙の了解で秘密にされているだろうとは思っていたが、この状況で呼びだされるということは嫌な予感しかしない。


「まぁ、君にどんなことが出来て、何処まで出来るのかは私だって分からない訳ですが、それでも今回のことで君が単独でオークジェネラルを討伐出来る実力があることは明白になったわけです」


「ジェネラルくらい俺じゃなくても討伐出来る奴はいるだろう?」


「……だと良かったのですがねぇ」


 ギルドマスターは深く嘆息した。


「ジェネラルと1対1で戦っていた討伐隊のリーダーがいたでしょう?」


「ああ」


「彼は我がギルドで唯一のBランク冒険者なのです」


「…………へ?」


「しかも、もう少しでAランクに届くのではないかと期待されているBランク上位という実力の冒険者だったのですよ」


「…………」


「もう分かるとは思いますが、そんな彼でさえジェネラルには防戦一方で、君が助けなければ死んでいたと証言しています。君の本当の実力はAランク以上ということになってしまいますねぇ」


「え~っと……冒険者のランクは功績によって左右されるから、サボっている俺はAランクに相応しくないと思うけど」


「そういう建前は今はいらないです」


「……そっすか」


 やべぇ。


 あのリーダーがそんな実力者だとは想像もしていなかったぞ。


 というかBランク上位でジェネラルも倒せないのかよ。


 冒険者弱ぇ~。


「で。君に頼みたいのはオークロードが本当にいるのかどうかを確認して来てもらいたいのです」


「ジェネラルがいたんだから……いるんじゃないのか?」


「いるかもしれない、いるだろう、ではなく確実にいるかいないかを知りたいのです。ここまで開拓が進んだ町を避難させるのですから少しでも曖昧な情報に踊らされるわけにはいかないのですよ」


「……それって、あわよくば俺がオークロードを討伐してくるのを期待した依頼に聞こえるんだけど」


「勿論、オークロードを討伐していただければ報酬は弾みますよ」


「……オークロードを討伐したら集ったオークの統率が消えてオークが好き勝手に暴れまわるんじゃないのか?」


「町単位へ集団で襲い掛かられるよりは散発的にオークを相手にする方が100倍マシですよ」


「……俺の報酬の中に秘密を他に漏らさない、これ以上俺の秘密を詮索しないというのは含まれているのか?」


「勿論です」


「既に他の冒険者ギルドに通達済みだとか、これから秘密を共有しようとかじゃないだろうな?」


「ありませんよ。というか冒険者なら有名になった方が有利だと思うのですが、どうしてそこまで拒絶するのですが?」


「貴族の耳に入ったら、貴族の横行からでも俺を護ってくれるのか?」


「……秘密は守ると誓いましょう」


「文章に明記してもらおうか」


 俺が慎重な理由は、俺の【収納魔法アイテムボックス】だけでも貴族に知られたら強制的に召抱え上げようとするだろうからだ。


 他にも叩かれると大量に埃が出るので貴族に仕えることだけは避けたいというのが本音だった。


(隠れるために透明化魔法でも開発するかなぁ)


 結局オークロードの調査依頼を受ける羽目になってしまい少し現実逃避した。




 ◇◇◇




 飛行魔法でぶっ飛ばせば広大な森を横断することすら数時間で可能なのでオークが大量に集っている場所を発見することは難しくなかった。


 森の中から【監視魔法サテライト】で発見するのは難しくても、空を飛んでいる状態で【監視魔法サテライト】込みの偵察なら森だろうと問題にもならない。


「コン、オークの数を数えられるか?」


 だが見つけたオークの数は森一面を占拠しているような状態で、俺が想定していた数よりも1桁は違って見えた。


《索敵範囲にいるオークの数は凡そ28000匹だと思われます》


「おうふ」


 多くても数千という予想は外れ、万単位の国家事案に化けてしまった。


 町からはかなり距離があるが、それでも進行方向から考えれば1ヶ月もあれば町が襲われることは想像出来てしまう。


「……この中からオークロードを探せるか?」


《索敵します》


 上空数百メートルから望遠魔法と【監視魔法サテライト】で探すが、オークがウジャウジャ群れているのでオークロードとの区別が付きにくい。


 まぁ、28000という数が町の方向へと移動中だという情報だけで住人を避難させるのに十分過ぎる理由だが。


《マスター、オークロードを発見しました》


「マジかぁ~」


 発見しちゃったよ。


 コンの指示通りの場所を望遠魔法で確認すると――確かに他のオークよりも一回りか二回りは巨大なオークがジェネラルに囲まれているのを視認した。


「あれかぁ~。あれに【魔戦輪リング・スラッシャー】が効くかなぁ?」


《高密度の魔力を纏っているようなので魔力を一点に集中されれば防がれる可能性92%です》


「ですよねぇ~」


 俺の目――【魔力視】で見てもオークロードは相当な魔力を持っている。


 あれを魔力防壁にでもされれば【魔戦輪リング・スラッシャー】では傷一つ付けられないだろう。




 逆に言えば集中して魔力防壁を張られる前に奇襲してしまえば良い訳だ。




「グォ?」


 オークロードが異変に気付いた時には俺は既にオークロードの背後に降り立ち【魔戦輪リング・スラッシャー】をオークロードの首に取り付かせて高速で回転しながら首を撥ね飛ばした後だった。


「よし、頂き!」


 ついでに証拠品としてオークロードを【収納魔法アイテムボックス】にボッシュート!


「余裕だったしジェネラルも狩っていくか」


 更にオークロードの周囲に群れていた20程のジェネラルの首を刈り取っていく。


 そうして戦利品を手にホクホク顔をしていると……。


《マスター、オークが8000程マスターに向ってきます。このままだと処理が追いつかなくて圧殺される可能性68%》


「……逃げるか」


 こういう時、広範囲攻撃魔法が欲しいとは思うが【属性変換】の出来ない俺には無理な話だ。


 どうしたって殲滅力が足りない。


(切り札として広範囲攻撃魔法を擬似的に再現出来ないか実験してみるかなぁ)


 そんなことを考えつつ俺は上空に飛び上がって戦線を離脱した。



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