第2話 『冒険者のテンプレなんて早々起こらない』

 

 異世界転生者ニコラス。15歳。


 孤児院を出た俺は今日から冒険者として活動していくつもりだったのだが、当然のように俺は着の身着のままで装備なんて1つも持っていない。


 おまけに無一文だ。


 普通、孤児院を出た子供には院長から準備金としていくらか渡されるのが普通なのだが……。


(あの院長だからなぁ)


 10年近くも院長と敵対してきた俺の旅立ちなので、冗談抜きで無一文で追い出された。


 お陰で冒険者になれるかどうかすら疑問になってきた。






 15歳になった俺の身長は160センチ弱。体型は痩せ型――というか食事は満足に取れなかったので普通に痩せている。


 着ている服は間違っても上等とは言えない普段着。


 その格好で冒険者ギルドの門をくぐれば、そりゃ訝しげな視線を向けられるわな。


「いらっしゃいませ。本日はどのような御用件でしょうか?」


 それでも受付の職員は丁寧な態度と言葉遣いで対応してくれた。


 20代前半くらいの金髪碧眼の美人さんだ。


「正規登録をお願いします」


 正式に冒険者になるためには15歳という年齢制限があるが、12歳以上なら仮登録という形で冒険者ギルドの雑用を引き受けて賃金を稼ぐことが出来る。


 俺や孤児院の同期達も12歳で仮登録をして小銭を稼いでいた口だ。


「畏まりました。登録料に銀貨1枚が必要になりますが大丈夫でしょうか?」


「うっ……金はないんだけど、なんとかならない?」


 仮登録の時は無料だったが正規登録の場合は有料だったようだ。


「それでは後の依頼料から天引きしていく形になりますが、よろしいでしょうか?」


「……お願いします」


 冒険者1日目でいきなり借金を背負うことになってしまった。


「それでは、こちらの用紙に必要事項を記入してください。文字は書けますか?」


「大丈夫」


 この世界の住人の大半は字を書けないし読むことも出来ないが、俺は孤児院の本を呼んで独学ではあるが勉強していたので読み書きは問題ない。


 というか元日本人として読み書きくらいは出来るべきと頑張った。


 まぁ、用紙に書くことは名前と年齢、それに特技くらいだ。


(名前はニコラス。年齢は15歳。特技は……魔法(仮)と)


 それらを書き込んで受付嬢に提出した。


「えっと……この魔法(仮)とはなんでしょうか?」


「独学で魔法の勉強をしたから、世間一般の魔法とは違うかもしれない」


「ああ、そういう。わかりました」


 受付嬢は妙に納得した顔で頷いて手続きを続ける。


 そうして全ての手続きが終わったのか、俺に木製のカードを差し出してきた。


「こちらが冒険者ギルドのギルドカードになります。ニコラスさんのランクはFランクになりますので頑張ってランクを上げてくださいね」


「……どうも」


 とりあえず受け取って眺める。


 特徴的なのは大半のスペースを占める【F】という文字。


 裏には俺の個人情報が書きこんであるが、必要なのは俺がFランクですよということがわかりやすく示せることだろう。


 ちなみに仮登録の時は例外なくGランクで、どんなに頑張ってもランクが上がることはなかった。


 ともあれ、登録は出来たので依頼書の張ってある掲示板の前に移動する。


 早々に稼がなければ冗談抜きで無一文で飯抜きになってしまう。


「ふむ」


 こういう場合、新人に意地悪なベテランが絡んでくるのがテンプレなのだが、今の時間帯は人が少ないのか絡んでくる奴は居なかった。


 そうして早速依頼の確認をしてみるのだが……。


(ろくな依頼がないなぁ)


 俺はFランクなので受けられる依頼が少ないということもあるが、それ以前に時間帯の問題で目ぼしい依頼は取られた後の余りものなのだろう。


 残っているのは常時依頼として張られた【薬草採取】【ゴブリン退治】【地下道の大ネズミ退治】など。


 後は面倒なお届け物の依頼とか、引越しの手伝い、屋根の修理など。


(移動は【推進力場フォース・ドライブ】があるし、【監視魔法サテライト】で上から位置を確認すれば道に迷うこともないから……お届け物にしておくか)


 時刻は既に昼過ぎ。


 今から町の外に出るのは危険なので、町の中で完結する依頼としてお届け物を選んだ。






推進力場フォース・ドライブ】を応用して俺は地面をスケートのように滑るようにして移動していく。


 勿論、十分にスピードは抑えているのだが歩いたり走ったりするよりも遥かに速く移動することが出来る。


 おまけに上から【監視魔法サテライト】で監視しているので道順を間違えることもない。


 結果、急いでも2時間は掛かるといわれた依頼を30分で終わらせることが出来た。


「は、早いですね」


 依頼の完了を受付嬢に報告すると驚かれたが、ちゃんと依頼主からのサインを貰って来ているので苦情を出されることはなかった。


 ともあれ、これで銅貨8枚を得ることが出来たので今夜は餓えて眠れないということはないだろう。


 まぁ、銅貨8枚じゃ宿にも泊まれないので今夜は路上で夜を明かすことになりそうだけど。


 ちなみに、この世界の貨幣の価値は……。



【銭貨】:1円。

【鉄貨】:10円。

【銅貨】:100円。

【大銅貨】:1000円。

【銀貨】:1万円。

【大銀貨】:10万円。

【金貨】:100万円。

【大金貨】:1000万円。

【白金貨】:1億円。



 という感じになっている。


 つまり、このお届け物の報酬は日本円に換算すれば、たったの800円ということになるが、それは物価の違いがあるだけなので、この世界の価値観としては十分な報酬ということになる。


 兎も角、明日の備えて適当な食料でも買い込んで明日に備えることにしよう。




 ◇◇◇




 翌日。


 俺は早朝から冒険者ギルドへと向かい、張りたての依頼書を見に行ったのだが……。


(こりゃ、駄目だわ)


 思った以上に混んでいたので、常時依頼の【薬草採取】を受けることにした。


 この常時依頼というのは受付に依頼を受ける報告をしなくても、現物を持ってくれば依頼達成扱いになるので受けるのが簡単だ。


 しかも薬草が生えているという町の外の森にはゴブリンも生息しているので、ついでに狩れば良い稼ぎになる。


 昨日は文無しだったので諦めたが、今日は銅貨が数枚残っているので安いパンでも買って森に出かけることにした。


 ちなみに、この世界では安い黒パンなら鉄貨1枚で買えたりするので銅貨数枚で十分一日分の食料が賄える。


 俺は残りの金で適当な袋を買って町の外へと出ることにした。






 ゴブリン退治が普通に依頼に出ているのでわかると思うが、この世界には魔物が存在する。


 そして人類と魔物は互いに生存権を競って争いあう関係なので、人類はこの世界――この惑星全てを掌握していない。


 というか現在の人類の生存圏は全体の3割といったところだ。


 そのため未開地の開拓が急務ということになり、俺が住んでいるサイリア王国のマラーゲット地方というのは辺境という扱いになっており、隣接するのは魔物が支配する未開の領域ということになる。


 この町の近辺は大分開拓が進み森も魔物の討伐が進んではいるものの繁殖力の強いゴブリンは大量に残っているし、ちょっと深い場所に入れば強い魔物だってゴロゴロ出てくる。


 とはいえ、よほど運が悪くなければゴブリン以外の魔物に遭遇することはないので気楽に薬草を探すことにした。






監視魔法サテライト】で薬草を探し、偶に襲ってくるゴブリンを【魔戦輪リング・スラッシャー】で瞬殺する。


 ゴブリンは最弱の魔物だが、群れる生き物なので2匹以上からは難易度が上がっていく。


 まぁ、【魔戦輪リング・スラッシャー】なら瞬殺出来るし、仮に近付かれてもコンによる【魔戦輪リング・スラッシャー】の自動迎撃が出来るので問題ない。


 ちなみにコンの位置なのだが、大抵は俺の頭か肩に座っている。


 魔力で作った身体なので重さは感じないし、その気になれば【推進力場フォース・ドライブ】で飛べるので俺からはぐれる心配はない。


 俺は袋いっぱいになるまで薬草を採取し、ゴブリンを狩って帰った。


 ちなみに魔物にはそれぞれ討伐証明部位というものがあって、ゴブリンの場合は左耳になっている。


 薬草とゴブリンの耳を一緒に入れるわけにはいかないので袋は2つ持ってきたのだが、どちらもいっぱいになってしまった。






 冒険者ギルドに持って帰ったら薬草は銅貨1枚、ゴブリンの耳も銅貨1枚で買い取ってくれた。


 沢山あったので職員には驚かれたが、両方合わせても大銅貨2枚と銅貨8枚にしかならなかった。


 借金してしまった銀貨が遠い。


 その日は安い宿の大部屋に泊まって安物の黒パンを齧って寝た。




 ◇◇◇




 冒険者生活5日目。


「おめでとうございます。ニコラスさんは功績ポイントが溜まったのでEランクに昇格になりました!」


「あ、ども」


 毎日、【薬草採取】と【ゴブリン退治】ばかりやっていたら、いつの間にか昇格条件を満たしていたようでEランクに昇格した。


 冒険者カードも木製から鉄製に変更された。


 ちなみに功績ポイントとは冒険者ギルドにどれだけ貢献したかのポイントで、これを上げることでランクが上がっていくようだ。


 俺はあっさりとEランクに上がれたが、Dランク以上になるためには試験が必要だった筈。


 ともあれ、折角EランクになったのだからEランクで受けられる依頼を探そう。






 で。俺は結局、今日も薬草を探してゴブリンを狩っている。


 だって早朝の依頼争奪戦に参加する気にもなれないし、楽に稼ごうと思ったら薬草探しながらゴブリンを狩るのが1番なんだもん。


 あ。ちなみに登録時の銀貨1枚の借金は昨日返すことが出来た。


 というか、昨日返したからこそ今朝にEランクの昇格を告げられたのだと思う。


 借金状態ではランクは上がらないシステムなのかもしれない。




 ◇◇◇




 冒険者生活10日目。


 今日は妙にゴブリンとの遭遇率が高い気がする。


 偶然かとも思ったが、森を進んだ一角で森が途切れて広場になっていた。


「ゴブブゥッ!」


「ゴブゥ!」


 そして、そこはゴブリンの集落だった。


監視魔法サテライト】を通してゴブリンの集落を観察してみたのだが、どう見ても150匹以上居る。


 最近ゴブリンとの遭遇率が高かったのは、この集落が出来ていたからか。


「……狩るか」


 特に脅威は感じなかったので狩ることにした。


 敵の数が多いので【魔戦輪リング・スラッシャー】の数を4つまで増やして防御はいつも通りコンに2つでお願いする。


 そして蹂躙が始まった。






魔戦輪リング・スラッシャー】の前でゴブリンは正しく雑魚だった。


 寧ろ、狩った後の左耳を切り取る作業の方が遥かに面倒だったくらいだ。


 ちなみに平地だからゴブリンは雑魚なのであって、洞窟などで群れと遭遇すると難易度が劇的に上がると言われている。


 どっちにしても、俺は洞窟の中までゴブリンを追いかけて行きたいとは思わないけどな。


 だからというわけではないが問題は……。


「こひゅぅ~……こひゅぅ~……」


 ゴブリンの苗床にされて目から完全に光の消え去った、この女。


 見た目から17~18歳くらいだと思うのだが、長期間ゴブリンに陵辱され続けたのかやつれて正確な年齢が分からない。


 しかも、丁度ゴブリンを産み落とす場面に遭遇してしまい、かなり衝撃的な場面を目撃する羽目になった。


 あ。勿論生まれたゴブリンは瞬殺した。


 とりあえず、手持ちの毛布に包んで町に連れ帰ることにした。






 当たり前のように問題になった。


 身体は勿論だが、顔も隠してギルドに入ったので彼女の個人情報は漏れていないと思うが、受付で事情を話したら彼女は治療室へと連れて行かれ、俺は別室で話を聞かれることになった。


 そこで俺はゴブリンの集落を見つけたこと、集落のゴブリンを全滅させたこと、その後の捜索で彼女を発見したことなどを報告した。


「150匹ですかっ! その数なら上位種も混ざっていたと思いますが……」


「ああ。なんかデカいの混ざってたね」


「何匹くらい居ましたか?」


「……さぁ?」


 全部瞬殺だったので態々数など数えていなかったので答えようがなかった。


「一応、全部の左耳は取ってきたんだけど」


「あ、はい。それはこちらで確認しておきます」


 それから集落の場所を聞かれ、その後調査隊が集落を調べるために出発することになったようだ。






 で。数日後にその調査隊が帰って来たのだが……。


「通常のゴブリンが約100匹、上位種のホブゴブリンが約30匹、更に上位種のゴブリンシャーマンが10匹、ゴブリンジェネラルが10匹、そしてゴブリンロードが1匹でした」


「ゴブリンって色々居るんだなぁ」


「そういう問題じゃありませんよぉっ!」


 何故か俺は受付のお姉さんに怒られた。


「この数と種類、普通なら冒険者ギルドで討伐隊が組まれるレベルですよっ! なにシレッと1人で討伐しているんですかぁっ!」


「え~っと……ごめんなさい?」


「……別にニコラスさんが悪いと言っているわけではありません」


 受付嬢さんは何故か深く溜息を吐いて肩を落とした。


「というかニコラスさんって強かったんですね。まさかゴブリン150匹以上を相手にして無傷で全滅させられる腕前とは思っていませんでした」


「今まで比較したことがないから正直、基準が分からないんだよね。俺って強いのか?」


「……多分、強いと思います」


 俺って実は強かったらしい。


 いや。【魔戦輪リング・スラッシャー】を開発した時点で実は凄くね? って思ってはいたんだけどね。


 ちなみに、この受付嬢さんはライラさんと言って22歳のお姉さんだった。


 さっき自己紹介されて初めて名前を知ったよ。


 そして、これも初めて知ったのだが俺の担当受付嬢だったらしい。


 いや。担当と言っても俺1人を相手にするのではなく、タイミングが合えば彼女が担当するという制度で、俺以外にも彼女が担当している冒険者は複数いるらしい。


 まぁ、冒険者1人に対して1人の受付嬢を付けていたら、いくら人員がいても足りなくなるし当たり前だね。


「それで今回の報酬なのですが……」


 ゴブリンの討伐報酬で大銀貨3枚、集落を潰した報酬で大銀貨5枚、苗床にされていた冒険者を救ったことで金貨1枚が支払われるらしい。


「あの人、冒険者だったんだ」


「3人でパーティを組んでいた冒険者で、1ヶ月前から行方不明になっていました。集落からは残り2人の遺品と思わしきものが見つかっていますし、パーティで森に入った時にゴブリンに捕らえられたのだと思います」


「……なるほど」


 逆に言えば、彼女が捕まって苗床にされたからゴブリンがあれほどまで増殖していたわけだ。


 この1ヶ月の間に彼女が何匹のゴブリンを産み落としたのかは――考えない方が良さそうだった。


「それと、今回のことでニコラスさんの功績ポイントが溜まったのでDランクの昇格試験を受けることが出来るようになりました」


「早くね?」


「……それだけ今回の功績は大きかったということです」


 まさか2週間弱でDランクの昇格試験を受けることになるとは俺も予想外だった。






 ともあれ、やっとまともな金が入ってきたので今まで一泊大銅貨1枚の雑魚寝部屋から宿を移して、更に必要と思える必需品を買い揃えることにした。


 ぶっちゃけ着の身着のままで風呂にも入れなかったので辟易していたところだ。


 という訳で着替えを数着とそれを入れるために大き目の鞄。


 武器――は余り必要ないかもしれないが一応ダガーを買っておく。


 鎧――は邪魔になるので雨露を凌げそうなマントだけ買っておく。


 後は保存の効きそうな食料、治療に使える各種薬品、野営のために必要な道具類。


「必要な物に厳選したつもりだが、それでも結構な量になるな」


 こうなると見た目以上に容量がある【魔法の鞄マジック・バッグ】みたいなのが欲しいのだが……。


「そういうのは伝説的な冒険者や高位貴族なんかが持っているかもしれませんが、お金を出せば手に入る代物ではないと思いますよ」


 担当受付嬢のライラさんに聞いてみたのだが、容易に手に入る代物ではないらしい。


(でも一応存在はしているんだな)


 どうやって手に入れるのか知らないので今度調べてみることにしよう。




 ◇◇◇




 Dランクの昇格試験まで数日あるというので、俺は金があるので依頼を受けることなく魔法の研究をすることにした。


 今まで余裕がなかったので利用することがなかったが冒険者ギルドには大きな書庫があって、そこに魔法書の類も揃っているという。


 無論、観覧するのに料金が掛かるのだが、俺はその料金を支払って書庫の魔法書を読ませてもらうことにした。


(……大半は属性魔法に関する記述だな)


 分かっていたことだが殆どは属性魔法に関する魔法書だったので俺が読んでも意味がない。


 だが少数ながら俺の興味を惹く魔法書もあった。


「ほぉ」


 その1つは魔力の質を換える方法。


 これがあれば【推進力場フォース・ドライブ】使用時に魔力を透明にして周囲の様子を目視で確認出来るようになるかもしれない。


 え? 今まで【推進力場フォース・ドライブ】で移動している時はどうしていたのかって?


 勿論、頭上に【監視魔法サテライト】を設置して上から周囲を確認して移動していたのだ。


 俺の白い魔力で全身を包んだ場合、外を見ることなど出来ないし。


 ともあれ魔力の質を換えて透明にする方法を研究することになった。




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