第1話 『魔法の研究を開始する』

 

 前世の記憶が持った俺が最優先でしなくてはいけないことは――食事事情の改善だった。


 いや。前世の記憶から美味い物を食べようというのではなく、院長に援助金を横領されて餓死寸前の状況をなんとかしようという話だ。


「つまり、院長が国の金で私腹を肥やしているのは明らかなんだから、それを頂いてしまおうというわけだ」


 俺は孤児院に居る他の孤児達を仲間に引き込んで計画を説明した。


「で、でも、そんなことをしたら凄く怒られるんじゃ……」


「その時は全員で院長と戦えば良い」


 院長は歳上の男だが明らかに運動不足で太りすぎなので10人以上で武器を持って戦えば間違いなく勝てるだろう。


「そ、そんなことをして孤児院を追い出されたらどうするの?」


「それは絶対にない」


 この孤児院に援助金が出ているのは、ここに必要数の孤児が居るからであり、孤児を追い出すような真似をすれば援助金は減らされるか、下手をすれば取り止めになる。


 あの私腹を肥やすようなデブに今更真面目に働く甲斐性があるわけもなく、是が非でも援助金の継続は望む筈だ。


 そういう訳で俺達は院長が隠し持っていると思われる金や装飾品を手に入れるべく行動を起こした。






 結論から言えば俺達の食事事情は少しだけ改善された。


 いきなり大金を手に入れても仕方ないのでコッソリと小銭を持ち出して町で食い物を買っただけだが、それだけでも俺達の空腹は少しだけ満たされた。


 いずれ院長にバレるだろうが、その時は計画通り全員で戦えば良い。


 こちら戦力になるのは5~14歳までの子供だけだが、それなりに人数が居るので負けはしないだろう。




 ◇◇◇




 前世の知識を使って知識チートで成り上がるのも一興ではあるが、俺は魔法について考える。


 例の儀式でいう魔法の資質なしというのは魔力がないという意味ではなく、魔法使いとして最低限の魔力量に達していないという意味だった。


 あれから【魔力感知】と【魔力操作】を心掛けて体内の魔力で色々試してみたわけだが、個人の魔力量の限界は生まれ持った資質に大きく左右されるという非情な現実があった。


 儀式で判明するのは最大魔力量の判定であり、低い順から……。




【低】【小】【中】【大】【高】




 の5つの段階で判定される。


 魔法使いとして資質ありと判断されるのは【大】と【高】であり、それ以外は資質なしと判断される。


 俺は、この内では【中】の判定を受けており、必ずしも魔法が使えないわけではないという基準なのだが、専用の施設に入れるのはあくまで【大】か【高】のみ。


 分かりやすく判別するのであれば【E】【D】【C】【B】【A】というアルファベッドに置き換えて【A】と【B】が合格で、俺は【C】の判定ということだ。


 更に俺の魔力は【属性変換】に対して致命的な欠陥がある。


 この世界の魔法というのは魔力を燃料として各属性に変換することで成立している。


 要するに魔力という燃料を【火】【水】【土】【風】のどれかに変換して使用するのが魔法であり、【属性変換】に致命的な欠陥を持つ俺が魔法使いになる道はないと言われたのに等しい。


 というか実際に言われた。


 別に魔力のまま魔法を使えば良いと思ったのだが、問題になるのは魔力から属性に変換する際の【変換効率】だった。


 一般的な魔法使いが魔力[1]から【属性変換】して得られる出力は[10]になる。


 歴代最高の魔法使いの【変換効率】だと[27]という記録が残っているらしい。


 つまり、【属性変換】が出来ない俺が純粋な魔力で魔法を使う場合、通常の魔法使いの10倍以上の魔力量がないと話にならないということだ。


 だが俺の最大魔力量は【中】と判定されているわけで、そりゃ使い物にならないと判断されるわけだ。


 俺は【魔力感知】やら【魔力操作】の訓練として体内の魔力を認識したり動かしたりを試行錯誤しているわけだが、これも世間の魔法使いとしては無意味な行為だった。


 この世界の魔法使いにとって魔力とは【属性魔法】を使うためのガソリンみたいなものであり、認識したり動かしたりする必要はない。


 そりゃ車を動かすのに態々燃料タンクに入っているガソリンを手動でかき回す必要はないわな。


 正直、物凄くガッカリした。




 ◇◇◇




 小金をくすねていたことが院長にバレた。


「こぉのクソガキどもがぁっ!」


 予想通り院長は劣化の如く怒り狂ったが、食料のお陰で俺達の栄養状態は少しだけ改善されており、更に全員で木の棒で武装したお陰で院長を打倒することが出来た。


「き、貴様らぁっ! 私にこんなことをしてただで済むと思っているのかぁっ!」


「国から出ている援助金を横領している奴が偉そうなことを言うな」


「っ!」


 どの道、こいつには騒ぎを大きくすると横領がバレる可能性がある訳だから出来ることは多くない。


 バレて困るのは俺達ではなく、こいつなのだから。


 まぁ、孤児で子供の俺達に役人に訴えるという手段は使えないし、このデブなら役人に賄賂を掴ませて取り込んでいるという可能性も考えられるが――騒ぎを起こして本格的に調査に入られるのは避けたい筈。


「ちぃっ! 生意気なクソガキがぁっ!」


 院長は吐き捨てるように叫んで不機嫌そうに自室へと帰っていった。


 どうして、あんな奴が孤児院の院長なのか至極疑問だ。






 ともあれ俺が前世の記憶を思い出してから既に2年が経過して俺は7歳になっていた。


 この2年の変化として、【魔力感知】や【魔力操作】の練習のお陰か、俺は魔力を目で視認出来るようになっていた。


 敢えて名付けるなら【魔力視】というところだろう。


 魔力を視認し、その色や形を判別することが出来る。


 ちなみに俺自身の魔力の色は白。


 他の人間の魔力を見ると赤、青、黄、緑の4種類なので、俺が【属性変換】に致命的な欠陥を持つというのはこれが原因かもしれない。


 恐らく赤は火、青は水、黄は土、緑は風に適した魔力という区分になるのだろうが、白の俺は無属性になるのだと思う。


 一応、調べてみたが赤い魔力を持つからと言って火の魔法しか使えないという制限はなかった。


 但し、【属性変換】の際の【変換効率】は適した属性以外は悪くなるし、逆に適した色は得意な魔法になるようだ。


 そして肝心の白なのだが、これが何をどうしようとも属性に変換することが出来ない純粋な魔力ということになる。


 またまたガッカリだ。






 だが、ここで諦めたら試合は終了なので出来ることを確認してみる。


 この2年、【魔力感知】と【魔力操作】を練習してきたので大分体内の魔力をコントロール出来るようになったし、更に【魔力視】を習得出来たので魔力の動きを確認しながら練習出来るようになったので効率は上がっている。


 で。肝心の魔力で魔法を使おうという試みなのだが、この魔力ってば身体の外に出した瞬間に霧散して消えてしまうことが分かった。


 どうやら魔力というものは体外に出した瞬間に術者の制御を離れてしまうという特性を持っているらしく、身体の外で維持するのが非常に難しい。


 普通の魔法使いは詠唱によって魔力を身体の外に出すのと同時に【属性変換】を行うために問題にならないらしいが俺には致命的だ。


「なんとか身体の外で魔力を維持出来るように練習しないと」


 身体の外でも魔力の制御を手放さないようにするために訓練ということで【魔力制御】の訓練としておいた。




 ◇◇◇




 院長は相変わらず援助金を着服しているが、なんとか餓死しない程度の食料を確保することは出来ていた。


 偉い人が視察にでも来てくれれば良いが、こんな汚い孤児院に好き好んで視察に来るような物好きは居なかった。


 どうやら金は出してやるから後は自分達でどうにかしろという方針らしい。


 この国の上の方にも余り期待は持てそうにない。






【魔力制御】の練習を始めて3年が経過した。


 なんとか身体の外で魔力を維持出来るようになり、ピンポン玉程度の大きさの魔力球を指先に維持することが出来るようになった。


 これを2つ3つと増やしていき、【魔力操作】の訓練の一環として3つの球体を環になるようにクルクル回す練習をするようになった。


 これが意外と暇潰しには向いていて、今では高速で回転させて本当に環のように見えるくらい高速回転を維持出来るようになった。


 で。試しに出来た環を近所の森の木に押し当ててみたのだが、チェーンソーもかくやという勢いで木が削れていって俺自身が驚いた。


 まぁ、確かに高速で回転しているんだから可能な話かもしれないが、それでも物理法則とかどうなっているのかと叫びたくなった。


 だって俺は別に魔力の環を固定しているわけじゃないのに、その場に留まって木を削り続けたのだから。


(そもそも、どうやって指先に浮いているのかが疑問だよな)


 色々な疑問がわいてくるが、それは脇に置いておいて――この環は武器として有効だと再認識する。


(出来ればもうちょっと攻撃に適した形にして、更に遠くまで飛ばせるようになれば言うことはないな)


 形状に関しては球体から押しつぶして平たくしたものを3つ高速回転させることで、平たい環にして切れ味を激増させてみた。


「もう少し……小さくても良いな」


 球体をそのまま押しつぶしたので思ったより大きな輪になってしまったので、直径10センチ程度の環になるように調整する。


「チャクラムみたいだな」


 これを自在に制御してスパスパ切れるようになれば凄い武器になるだろう。


 しかも【魔力視】を持つ俺以外には見えない反則武器だ。


「これは結構凄いんじゃないかな」


 俺の魔法使いロードが見えてきた気がする。


「折角だから名前を付けてマジック・スラッシャー……いや、【魔戦輪リング・スラッシャー】と命名しよう」


 ちょっとワクワクするね。






 次は早速、遠くへ飛ばす練習をしてみたのだが……。


「むぅ……微妙」


 俺から約10メートル離れると霧散して消えてしまうことが判明した。


 正確には俺から10メートル離れると、俺が魔力を認識出来なくなるので制御が崩れるということみたいだ。


 とはいえ10メートル以上先にある物を、見ることなく認識し続けるというのも難しい話だ。


「双眼鏡は無理だし、目に望遠機能……って出来るかよ」


 確かに俺は【魔力視】を獲得出来たが、魔力の形を整えて組み合わせてもレンズにすることは出来ない。


 魔力が無色透明なら可能だったのだが、白とはいえ透過出来る薄さじゃない。


「んぅ~……むぅ~……」


 色々と考えて試行錯誤を続けた結果……。






「これだ!」


 作り出した魔力球に俺が【魔力視】を得た際の目と視神経と脳の部分の魔力をリンクさせて第3の目を作り出す。


 これを上空に浮かべて【魔戦輪リング・スラッシャー】を常に認識出来るようにしようと思ったのだが……。


「痛ぅっ……!」


 ちゃんと第3の目として機能するか確認しようと思ったところで猛烈な頭痛に襲われて、作り出した魔力球が霧散して消えた。


「いてて……」


 どうやら本来2つしかない筈の目の3つ目を作ったことで脳に強い負荷が掛かってしまったようだ。


「これは……とてもじゃないが実用出来ない」


 元々【魔戦輪リング・スラッシャー】と併用するつもりで作ったわけだし、同時使用でこれほど負担が掛かるなら実用は現実的じゃない。


 どうしてもと言うなら俺がもう1人必要になるだろう。


「そういえば……」


 孤児院の書庫に数冊しかない魔法書の中に何かそれっぽいことが書かれていた気がする。




 ◇◇◇




 孤児院に書庫なんてある理由は、もしも国のお偉いさんが視察に来た場合に備えてのカモフラージュのためだったが、その少ない魔法書の1冊が俺の役に立ってくれた。


 その内容は【使い魔】召喚の方法。


【使い魔】というと魔女が連れている黒猫をイメージしそうだが、この世界で【使い魔】と言うと術者の無意識を切り離して擬似的な自我を与えた人形を指す。


 この【使い魔】に魔力の制御を任せれば俺の負担は軽くなる筈だ。






 まぁ、その準備に2年もの時間が掛かってしまったが、ようやく準備も終わって【使い魔】を召喚する儀式を始める。


「●●●っ! ●●●●っ! ●●●●●っ!」


 時間を掛けて作り上げた複雑な魔法陣の中心に俺の血と触媒となる人形をおいて魔法言語と呼ばれる呪文を唱えていく。


 ちなみに触媒となる人形は俺の魔力で作った30センチ程度の身長の3頭身のデフォルメ四角人形だ。


 ぶっちゃけ見た目はブリキ人形のようだが、人形を用意するだけの予算がなかったので苦肉の策として用意した。


 そうして全ての儀式は滞りなく進み……。


《マスター、私に名前を付けてください》


「お、おう」


 いきなり機械的に音声で言われて戸惑った。


 そりゃ俺の魔力を制御するために最低限の自我しか与えていないが、まさかここまでぶっきらぼうになるとは思っていなかった。


 魔法陣の中心に座り込んだカクカク人形はそれなりに可愛いのだが。


「そうだな、お前の名前は……コンだ」


《はい。私の名前はコンです》


 ぶっちゃけ制御用なのでコントロールのコンという適当なネーミングだったりする。


 名前的に狐型にした方が良かっただろうか?


「それじゃ状況を報告してくれ」


《イエス、マスター。現在のマスターの魔力処理領域は7%が使用中です》


「ふむ。想定内だな」


 元々【使い魔】の身体を形成する魔力とコンを自律させる為に常時魔力処理能力が使われることは想定内だったので10%以内なら許容内だ。


 これは常時発動している【魔力視】も含めた負荷になる。


「それじゃ目となる魔力球……【監視魔法サテライト】を作るから制御を任せる」


《イエス、マスター》


監視魔法サテライト】と名付けた目となる魔力球を作り出し、その制御をコンに委ねる。


 上空100メートルの位置に浮かび上がった【監視魔法サテライト】から視覚情報が送られてくる。


《現在のマスターの魔力処理領域は9%が使用中です》


「【監視魔法サテライト】単独だと2%か。思ったより軽い処理で済んだな」


 100メートル上空から見下ろした光景の処理だけなので思ったより処理領域は多くなかった。


「続けて【魔戦輪リング・スラッシャー】を作るから形成維持の処理を頼む」


《イエス、マスター》


魔戦輪リング・スラッシャー】を形成する場合の高速回転を自前でやるのは非効率的なので、こっちの処理もコンに一任することにした。


 そうして作り上げた【魔戦輪リング・スラッシャー】を飛ばすが、今回は10メートルで消失することなく、上空の【監視魔法サテライト】の監視範囲内なら何処までも自由自在に飛ばせるようだった。


《現在のマスターの魔力処理領域は14%が使用中です》


「【魔戦輪リング・スラッシャー】1個分の処理で5%か。最大だと18個は作れそうだな」


 流石にそんなに多くは必要ないし、無駄に処理能力を圧迫する必要もないので自動防御にコンに2つ預けて、俺は攻撃用に2個ってところだろう。






 魔力制御の処理をコンに委ねることが出来るようになったことで出来ることの幅が増えた。


「それじゃ、そろそろ魔力が自然に浮かんでいる現象の謎でも解き明かしますかね」


 前々から謎だったのだが、先にやることがあったので後回しになっていた問題を解き明かすことにした。




 ◇◇◇




 この世界で飛行魔法と言うと基本的に2つの種類に分けられる。


 1つ目は風魔法を利用する方法。


 これは全身に風を纏って重力に逆らって飛行するという方法で、この世界の住人が飛行魔法と言われて最初に思いつくものだ。


 2つ目は土魔法の一種である重力魔法を利用する方法。


 こちらは風魔法よりもダイレクトに重力を遮断して無重力状態になり、更に進行方向に向けて重力を掛けることによって加速する飛行魔法だ。


 両者共に重力の楔から解放されることによって空を飛ぶ魔法なのだが、この方法だと当然のように魔力消費が大きいし、処理能力も大幅に削られてしまう。






 で。何故いきなり飛行魔法の話なんてしたのかというと、魔力が浮かぶ現象を解明したら飛行魔法を開発出来てしまったからだ。


 結論から言えば、魔力というのは俺が想像していたよりも遥かに自由なエネルギーだった。


 この世界で魔法と呼ばれる【属性変換】した技術は、正確に言えば【魔術】と呼ぶべきもので、魔法と言うのは俺が使っているような魔力を利用したものが正しい。


 呼んで字の如く【魔力によって世界の法則を書き換えるもの】である。


 つまり魔力という自由なエネルギーは世界に当然のように君臨する物理法則に縛られないのだ。


 魔力は重力の影響を受けないし、魔力はどんな速度で移動しても風の影響を受けないし、音を超える速度で動いても音の壁に激突しない。


 その法則に従うと、俺が――つまり人間が魔力を全身に纏うと、自由自在に空を飛ぶことが出来るのだ。


《現在のマスターの魔力処理領域は17%が使用中です》


 おまけに全身に魔力を纏って空を飛んでも掛かる負担は僅か10%程度。


 勿論、移動する速度によって掛かる負担は増大していくので、音速を超えて移動しようとすれば30%以上の負荷が掛かる。


 逆に言えば音速を超えるような速度を出しても30%程度しか使わないということだ。


 俺はこのオリジナル飛行魔法に【推進力場フォース・ドライブ】と名付けた。






 いやぁ~。この魔力という自由なエネルギーを解析するのは大変だった。


 結局、丸3年も掛かってしまったし俺も今年で15歳なので孤児院を出て行かなくてはいけない。


 まぁ、あのデブ院長の顔をこれ以上見なくて済むということで清々するが、残された子供達が少しだけ心配になる。


 主に俺が居なくなってから横行するであろう院長の横暴に対してだ。


 だが、それは残された子供達が解決している問題であって、これから出て行く俺がどうこうするべき問題じゃない。






 とりあえず町に出て――冒険者にでもなってみようかな。




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