【異世界に転生したんだが魔法が使えないと言われたのでメロンを収穫してみる】

@kmsr

【ニコラスはメロンを収穫する】

プロローグ 『はじまりは前世を思い出すことから』


 遠山昴、享年26歳。


 死因は――恐らく人身事故だったと思う。


 会社からの帰りに電車を待っている時、疲れてウトウトしていたのは憶えているのだが、背後から衝撃を感じて浮遊感と落下感を感じた次の瞬間、眩しい光と共に凄い衝撃を感じて――そこから先の記憶がない。


 恐らく混み合っていたので背後から強く押し出されて到着寸前だった電車の前に投げ出されたのだろうと思う。






 ともあれ俺は26歳という若さで死亡し、次に気付いたら5歳児になっていた。


 何を言っているのかわからないと思うが、言っている俺もわからない。


 だが確かに俺は5歳児になっていて、しかも5歳になるまでの記憶がしっかりと俺の中に存在していたのだ。


 まぁ、より正確に言うならば5歳児になった俺が死に掛けたことで、26歳で死亡した遠山昴の記憶を思い出したという方が正しい。


 未だに混乱する思考の中で、これらを繋ぎ合せて考えれば……。


(遠山昴が死んで転生した姿が今の俺ってことになる……のか?)


 そう考えるのが一番自然な気がした。


 そうなると問題なのは今はいつで、ここはどこなのかということなのだが……。


(俺……いや、僕の名前はニコラス。苗字に当たるファミリーネームはない。何故ならば……僕は孤児だから)


 ニコラスの思考で考えると現状はこんな感じだった。


 孤児なので鏡なんてまともに見たことはないが、髪は茶髪で目は焦げ茶色だと聞いている。


 ちなみにニコラスが知る限りの現在地を思い出してみると、ここはサイリア王国のマラーゲット地方ということになる。


 そして、俺の現在の住居はリセの町にある孤児院だ。


(何処だよっ!)


 少なくとも日本じゃないというのは間違いないと思う。


 そして今は神聖歴427年。


(もはや、ここが地球かどうかも疑わしい!)


 どうやら俺は異世界に転生してしまったようだ。






 未だに納得出来ていないし色々混乱している最中ではあるが、ともあれ現状を確認しなくては話にならない。


 孤児である俺は当然のように孤児院で育ったのだが、余りの空腹に耐えかねて近くの森に食べ物を探しに出かけた。


 そして見つけた木の実を取ろうと木に登って――足を滑らせて頭から地面に叩きつけられたショックで前世の記憶を取り戻した。


 こうして前世の記憶を取り戻して、しかも異世界に転生したというならばアレをやらないわけにはいくまい。




「ステータス・オープン!」




 俺は意気揚々と大声で叫んで――叫んで――叫んで――森の中に俺の声が虚しく木霊した。


「……知ってた」


 うん。わかってた。


 そんな都合の良いことが起こるわけがないということくらい知ってたよ。


 でも、異世界に転生したなら1度はやっておかないと様式美に反するというか、なんかポリシーに反する何かがあるのだ。


「……腹減った」


 元々空腹過ぎて森に食べ物を探しに来たわけだから俺は未だに空腹のままだ。


「というか、あの院長明らかに援助金を着服しているだろうが!」


 俺と同様に子供達は空腹で食べるものや着るものにまで困っているというのに、院長だけは1人だけブクブク肥えている上に1人だけ上等な服を着て装飾品をジャラジャラ身に付けているのだから。


 国から孤児院に配られた援助金を着服しているのは誰の目にも明らかだった。


「くそ。俺も魔法が使えれば、あんな豚はぶっ飛ばしてやるのに」


 無意識に呟いてハッと気付く。


「そうか。この世界には魔法があるんだった」


 この世界の者達は基本的に5歳になると魔法の資質を調べるために教会で儀式を受ける。


 孤児院の子供達も例外ではなく5歳になった子供達の中で魔法の資質があったと判断された者は専用の施設へと移されて――俺は当然のように元の孤児院に戻された。


「異世界転生を果たしたなら魔法チートくらいあっても良さそうなものなのに」


 あの時の診断を思い出すと――『魔法の資質なし。特に【属性変換】に致命的な欠陥あり』という結果だった。


 良くわからないが、俺はこの世界で魔法使いにはなれませんと言われたようなものだった。


「でも、あの儀式で身体に魔力を流された時、確かに身体の中に魔力っぽいのがあるってのは認識出来たんだけどなぁ」


 この世界ではまだ5歳児の俺には魔法がどういう原理で発動して、どういう原理で行使されているのかすら知らない。


「でも、魔法っていったら【魔力感知】と【魔力操作】だろ」


 とりあえず、駄目で元々だし色々と試してみるしかあるまい。


「……その前に食い物を探そう」


 俺はさっき見つけた木の実を取るべく、再び木登りにチャレンジするのだった。




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