エピローグ

数年後

 全てが変わった。




 メロ君とユウナさんは目的を終わらせたから、そのまま元の異世界に帰るという。ただ永遠に会えないだけじゃなく、ちょくちょく会いに行くとは言ってくれた。







 誠君は普通に大学に就学して、そのまま企業に入る事に。







 森さんも長谷田さんも相変わらず元気で、私がアパートにいる間も親しくしてくれた。ちなみに森さんはさすがに婚期を気にしていたのか、いわゆる婚カツをしていたという。

 成果に至っては……報告がないからそういう事かもしれない。







 そして私は、高校を卒業したと同時に、農産業の道に進んだ。ひたすら勉強もした。作物を育てる技術も身に付けた。







 アルスが帰ってくるその日まで。私は頑張ってきた。






 












「瑛莉ちゃん、どうだい調子は?」


 夏が始まったばかりの、ちょっと暑い季節。


 その暑さは、この千葉県岩屋村でも例外ではなかった。セミの鳴き声が聞こえてきて、上空からは肌に突き刺さるような日差しが照り付けている。ただ周りの田んぼ、そして自然豊かな森の影響か、普通の街に比べればいくらか涼しかった。


 この田舎にはたくさんの人が住んでいる。と言っても大半は年寄りであるものの、皆明るくて優しい。 

 こっちが笑うと笑って、悲しむと悲しんでくれる。皆いい人達だ。


 そんな慎ましくも穏やかな場所に、私は住んでいた。


「あっ、松本さん。今、芋虫を取っている所でして……このまま行けばだいぶ育つかと」


「そうかいそうかい。何だったらおばあちゃんも手伝おうかねぇ」


 私は今、自分が育てているキャベツ畑にいた。

 茶色の土の上に、点々と緑色のキャベツが置いてあるので中々目立つ。最初それが生えた時は、その光景に驚いたりしたもんだ。


 この時期は、どうしても芋虫とかの害虫が多くなってくる。それを取り除くのも農家の仕事だ。


 前まで芋虫を見るのも嫌だったんだけど、今となっては袋に入れる事が出来るようになった(もちろん手袋越しという形で)。これも以前、昆虫図鑑で耐性を付けたおかげだと確信している。


「いいですか? そんな大した事じゃ……」


「大丈夫だよ。どうせ自分の所はひと段落着いたし」


「そうですか……すいませんわざわざ」


 松本さんはいつもそばにいてくれた。 

 私が作物の事で分からない事や、困った事があったりすると、常に相談をしてくれる。その優しさが、右も左も分からなかった私には眩し過ぎた。


「……さてと、これで終わりですね。ありがとうございます松本さん」


「いやいや、礼はいいよ。それよりも私の家でおはぎでも食べないかい?」


「本当ですかぁ。じゃあ一旦家に帰ったらそちらに伺いますね」


「あいよ。……にしても、もうあれから六年になるんかいなぁ」


 私が立ち上がった時、松本さんがぽつりと呟く。

 その人は頭上の青空を見上げていた。まるでそれは、来るのを待っているような視線。


「いっその事、切り上げて帰って来てもいいじゃないかな? 十年って長ったらしいよ」


「……そう思いますよね」


 確かに十年という月日は、予想していたよりも果てしなく長い。

 

 松本さんの言う通り、あれから六年の時が経った。私も背丈がやや高くなったし、大人の女性にはなっているはず。

 松本さんは七十超えているんだけど、まだ元気な方だ。農家の年寄り方はたくましいんだと実感出来る。


 ともかく年月を経つというのは、頭で考えるよりも長く、ある意味では残酷な物だった。ここから四年を経過しなければならないというのは、本当の所キツいとも思っている。


 実際、私は途中で帰ってこないかと期待していた事もあった。松本さんの言う通り、切り上げて帰ってきてほしいと思った事も。


「でもそれは……」


「ん?」


「それは、アルスが望んだ事です」


 そういった考えは、とっくのとうに捨てていた。

 私にはもう答えが出来ている。


「アルスは覚悟をもって十年という年月を選びました。ならばそれを理解して、受け入れるのが私の役目なんです。私は例え十年だろうが二十年だろうが、彼を待ちますよ」


「……全く、本当に瑛莉ちゃんはたくましいねぇ。出来ればあたしがポックリする前に帰ってきてほしい所だけど」


「またまたぁ、まだ松本さんは元気ありますよ。ハハハ」


「ダハハハハ! 上手い事言うんじゃないの!」


 笑みが出てくる。松本さんも同じように笑って、バンバン叩いてくる。

 ちょっと痛むのは内緒だ。


「本当に瑛莉ちゃんは冗談が上手いんだからさぁ。それよりも家で待っているからね。早く来るんだよ」


「はぁい」


 ひとまず畑を見るのは終わりだ。

 自分の家はすぐ近くにある。元々空き家だったのを、私が格安で買い取った物。


 中に入ると、縁側や襖といったいかにも田舎といった内装が広がっている。今まで住んでいたアパートとは違う雰囲気……もちろん今は気に入っている。

 シャワーを浴びたかったので、まずは着替えのある自分の部屋に向かった。ここだけはスマホやパソコンとか今どきの物があるにある。


 タンスから着替えを取って、風呂場に向かおうとした。と、途中で足を止める。

 

 私の目に入ったのは、壁に貼り付けた折り鶴だ。何度も見ても、これを渡された時の記憶が蘇って、懐かしい気持ちになってくる。

 それを眺めている内に、目線は隣に移動した。次にあるのは新聞の切り抜きだ。




『南米大陸に未知の生物? 新種の可能性があるか』




『砂漠地帯の植物が急増。それに伴い、生態系のバランスが比較的安定する。学者ですら困惑する現象に、世論が騒然』




『年々、世界中の植物の成長速度が増加。これにより温暖化の改善が進んでいく。これは神の偉業か?』




 未知の生物、増加する植物。


 あの子が頑張っているんだ。本当に世界中を回って、自然生態系の回復を促進させている。

 私はそういった報告の記事を切り取って、この壁に残していた。今出来る事は、これくらいしかない。


 


 アルス……あなたは元気にしていますか?


 私は、元気にしています。女の子が農家だなんて変わっているとも言われた事があった。今まで触れてこなかった農作物に戸惑った事もあった。


 あなたがいない間、そうした事がたくさん起きても、私は挫けず出来る限りの事をやって来ました。……あとあなたの脱皮した脱げ殻、何とかして保存しようとしたけど、結局は枯れてしまいました。本当にごめんなさい。


 ともかく私はここまで来ました。これも全て、私とあなたがずっと暮らせるように。街とは違う……この自然豊かな場所で。


 だからどうか……無事で帰ってきてほしい。


「……行こうか」


 もっと長くアルスに祈りたかった、しかしそれでは松本さんを待たせてしまう。早く行かなければならなかった。

 シャワーを浴びに風呂場へと行こうとする。部屋を出て、真っすぐな縁側を伝って移動した。







 ――……エリ……。







「……えっ?」


 縁側の外から聞こえてくる声。

 もしかしてと思って振り向いた。そこにアルスがいるかもしれない……そう期待して。







 いなかった。







 外には影も形もない。

 となると、さっきの声は幻のようだったのかもしれない。何故そんなのが出たのか……考えられるとするなら、多分寂しさからか。


「…………」


 寂しさ? そんなもの、すぐに打ち勝つ。

 

 私はアルスにとっての大切な存在だ。そんな奴が寂しさを患っているなんて、そんなバカな話なんてない。

 私は寂しさに押し潰されるような人間じゃない。毎日畑を耕しながらたくましく生きる。それが私なんだ。






 だからアルス、安心していいよ。






 安心して、世界中の植物を育ててね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

JKと植物モンスターの日常ライフ ~種を買ったら異世界のモンスターだった件~(#JK植物) ミレニあん @yaranaikasan

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ