第75話 団長・ジェラルド/Presidente Gerald

 ヴェールの友達発言から、少し距離が縮まったのか、ルージュとアマリージョの2人はヴェールを質問攻めにしていた。


 俺は一人・・・輪には入れず、ぼーっと楽しく話す三人を眺めていた。


「ヴェールさま〜」

 遠くの方から声がしたので、確認すると馬に乗った金色の騎士3名が駆けてくるのが見えた。


――さっきのとは違うやつか・・・こっちは・・・なんか地味な連中だな、同じ金色の鎧だけど・・あまり光ってないな・・・


 三人のうちの一人が、近くまで駆け寄ると馬から降りて兜を脱いで挨拶する。


――うわぁ、無駄にイケメン。30歳くらいかな? 背も高いし・・・モデルみたいだな・・・


「この度は、眷属討伐にご尽力いただき感謝致します。私は教会騎士団、団長のジェラルドと申します」

 ジェラルドと名乗ったそのイケメンは、うやうやしく頭を下げた。


「え? あ、だ・・団長?・・・あ、これはご丁寧に。えーと、私はクロードと申します。あと、こちらが・・・」

 鎧を見て下っ端だと思っていたせいで、驚きながら返事をする。


「ルージュです」

「アマリージョです。この先のウール村の者です」

 ルージュとアマリージョが後に続く。


「それにしても、眷属をよく倒してくださった。逃げられた時は村一つ、街一つの被害を心配して肝が冷えました」

 ジェラルドは、思わず見とれてしまうような爽やかな笑顔で言った。


「あ、いえ、別に大したことはしてないので・・・」

 そう答えながら、先程の副団長との違いに驚いていた。


「いやいや、そんなことはないでしょう。そちらの・・・ルージュ殿と言ったか。相当な使い手とお見受け致します」


「あ、全然です。結局攻撃は通じなかったし・・・アマリも死にかけちゃったしね」

 ルージュはあっけらかんとして言った。

 彼女は、基本的に過ぎたことには興味がなく、すぐに忘れてしまう質らしい。

 アマリージョが死にかけて、あれだけ泣いていたのに、今はすっかりいつものルージュに戻っていた。


「いやいや、それにヴェール様が間に合い良かったです。これも神のお導きかと・・」


「団長・・・話の途中で申し訳ありません。何か用事があったのではないですか?」

 ヴェールは、団長にはきちんと敬意をもって接しているらしかった。

 どうやら、彼女は騎士が嫌いなのではなく、副団長が個人的に好きではないのだろう。


「そうでした。ヴェール様。奴らのアジトの中を捜索した結果、氷漬けの人間が三体見つかったそうです。それと残存していた敵は冒険者達がほぼ倒したという事で、現在はあちら・・・ちょうどその森の奥ですが、そちらにキャンプを張って休息をとることになりました」


「そうですか・・・。その・・氷漬けの人はまだ生きているのでしょうか?」

 ヴェールが心配げな表情で胸を押さえながら聞いた。


「それが魔法の氷にしては、少し妙なところもありまして。解けずにそのままの状態を保っているものですから。まさか割るわけにもいかず、どうしたものかと・・・」

 ジェラルドは少し考えるように、眉間にしわを寄せながら答える。


「そうですか・・・では・・・」

 そう言ってヴェールが視線を落とす。


――ヒカリ・・・その氷漬けのって・・・

『――そうですね。マンションの誰かだと思われます』

――でも三人しかいないって・・・ほかの人は・・・もう・・・

『――今、考えても仕方ありません。その三人が生きているならまた会える機会もあると思いますから・・・』

――・・・あぁ・・・



「では、その氷漬けの人たちは、ハンク市に報告後、王都の教会へ運びます。司祭様なら何かご存知かも知れませんし・・・騎士団には氷漬けの方の運搬と護衛をお願いしてもよろしいでしょうか。それと、出発はいつになりますか?」

 考えがまとまったようでヴェールがジェラルドに指示を出した。


「はい。運搬と護衛は帰るついでと言ってはなんですが・・・問題ありません。それから出発についてですが、冒険者達のパーティも15組も参加したとは言え、合計で500体ほどの敵を相手にしましたから。さすが怪我人も出ておりますし、今日はゆっくりと休み、明日、出発ということになりました」


「明日ですか・・・」

 ヴェールは何かを思案するように、遠くを見つめている。


「急いだ方がよろしいでしょうか?」

 ジェラルドが不安げにヴェールの様子を窺いながら聞く。


「あ・・・いえ、そう言うわけでは・・・では・・私は今日、こちらの方々の家でお世話になりますので。明日の出発は昼前くらいにしてもらえませんか? それまでには戻りますので」

 ヴェールは意を決したように、ジェラルドの顔を真っ直ぐに見て告げた。


「・・・了解しました。では、こちらも何組かに分けて、取り急ぎハンク市と王都には使いを出すようにしておきます。私は冒険者達と氷漬けの人の保護を。ヴェールさまにはテスターとその部下達を護衛としてつけておきますので」


「あ、護衛は・・・」

 ヴェールが、言いにくそうに口ごもる。


「はい、 なんでしょう?」


「あ、いえ・・・。お願いします」

 ヴェールは、少しうなだれ気味に答えた。


「では、ルージュ殿、アマリージョ殿、クロード殿。またの機会に!」

 ジェラルドは爽やかすぎる笑顔を浮かべると、颯爽と踵を返し立ち去った。


「勝手に話を進めてしまって、申し訳ありませんでした・・・」

 ヴェールが体を縮めて、すまなさそうにしている。小柄な彼女の体が、さらに一回り小さくなったように見えた。


「あ、いや。その・・・」

 なんと言っていいか分からず、困惑しながら口ごもる俺の背中をルージュが思いっきりひっぱたいた。


「痛てっ!!」

「何モゴモゴしてんのよ! シスターが家に遊びに来てくれるって言ってんのよ! もちろん大歓迎だわ、シスター!! 今日は一緒に美味しいものいっぱい食べましょ。大勢で食べるクロードのご飯は最高よ!」


「えっ!? また俺が・・・?」

 ルージュがヴェールの手を取り、はしゃぎながら言った。

 ヴェールもはにかみながら嬉しそうな表情を浮かべていたが、その目にはうっすら涙が浮かんでいた。


――きっとヴェールにも何か深い事情がありそうだ。でも今はそんなこと考えなくていい。彼女のおかげでみんなが無事だったことを心から感謝しよう。


「それより・・・メニュー、何にしようかな・・・」

ため息をつきながら、ぼそっと呟くと、そばで聞いていたアマリージョが「姉さん、ゲフー鳥の塩漬け肉を隠してますよ」とウインクしながら微笑んだ。

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