第35話 初めての魔法「フェイスファイヤー」/arrossire

 しばらく歩いた所で二人に話かける。

「魔法についてなんだけど」


「それはアマリージョに聞いた方がいいわね」

 そう言いながら、ルージュがアマリージョの方を見る。


「はい、なんでも聞いてください」

 アマリージョが少し偉ぶって、胸を張る。


「二人は魔法が使えるの?」


「はい。一応使えます。姉さんは火魔法、私は風魔法が使えます」


「おぉ、聞いておいて何だけど、本当に魔法使えるんだ・・・」


「でも二人とも威力は弱いですよ。姉さんの火魔法は、拳くらいの火玉を飛ばせるくらいです。私の風魔法は、風を操って移動補助をすることで早く走ったりすることが出来ますが、攻撃に使えるほどの威力はありません」


「それって、同じ魔法でも威力が強い場合があるってこと?」


「はい。体内の魔素の量が増えれば、それだけ魔力を多く練ることができますので」


「魔素を練る?」


「何て言えばいいのか・・・魔素をこう、使う魔法によって変化させるといいますか・・・」

アマリージョは上手く説明する言葉が見つからないのか、身振り手振りで伝えようとしてくる。


「こんな感じよ!」

 しびれを切らしたルージュが、そう言って手のひらを上に向けて、集中し始めた。

「えい!」

 すると手から火の玉が飛び出して、一瞬で消えた。


「おおぉぉぉぉぉ!!!」

 初めて見る魔法に、驚きと感動で思わず声が出てしまった。


「ざっとこんなものよっ!」

 ルージュが勝ち誇った顔をしている。


「・・・凄いな、それ熱くはないの?」


「自分で作ったんだから熱いわけないでしょ」


「そういうものなのか・・・魔法・・不思議だ」


 アマリージョが改めて説明する。

「魔法を使うには、まず体内に魔素が必要です。次にその魔素を魔力に変えることが必要です。魔素が体内に多ければ、身体が強くなり、力も強くなりますが、魔法が使えるかどうかは、この魔素をいかに上手に練り上げて、変化させられるかにかかっています。私は、魔素を風の系統にしか変化させることが出来ないので、風魔法しか使えないというわけです」


「じゃ、魔素がものすごくある人でも、練ったり変化させるのが下手だと、何の魔法も使えないってこと?」


「基本的にはそうですね」


「基本的ってことは、何か違う方法もあるってこと?」


「普通は使わないと言うか、あまり一般的ではないんです・・・」


「それって?」


「ああ、えーと魔法陣です」


「魔法陣?」


「はい。魔法陣を使えば一応、魔法は使えます。ただ、あまり普及していない上に、ちょっと値段が高いんです」


「そうなんだ」


「そうなんです。魔法陣とは簡単に言うと魔素を練って、変化させて、発動するまでの行程を、円形状に描いた文字式で自動発動させる術式のことです。スクロールと言われる特殊な紙に描いて使う場合と発動したい場所に、直接描いたりして使います」


「それがあれば誰でも魔法が使えるんだ・・・」


「でも、スクロールはかなり高額な上、取引には資格も必要です。それに自分で描いて使うには難しすぎるんです。村ではケナ婆さまが・・・あっ村長さんのお婆さまなんですが、その方だけが唯一描くことが出来ます」


「やれば自分でも描けるのか・・・」


「でも、本当に難しいんですよ。それに攻撃に使えるような魔法陣は流通が規制されて、資格がないと買えませんので、そういう意味でもあまり現実的ではないと思います」


「そういうもんなのか・・・ちなみに流通している魔法陣ってどんなやつなの?」


「えーと、魔物よけの結界と荷物収納とライト・・・あと何個かあったと思うのですが、全部生活に必要な魔法という位置づけです」


「あっそういう系ね・・・・攻撃っぽいのが良かったな・・・でもそのライトなら攻撃にも使えるかな」


「わざわざ苦労して描いて使うほどの威力があるとは思えませんが・・・」


「そうなんだ・・・やっぱり普通に使えるようにならないとダメか」


「そうですね」


「もうちょっと聞いてもいい?」


「ええ、なんでも」「私に聞いたっていいのよ」

 二人が答えてくれる。


「その魔力を練るってやつ? どうやったら出来るの?」


「まずは自分の適性を見極めてですね・・・」

 アマリージョが丁寧に説明してくれる。


「そんなの適当に使ってみたら出来るわよ」

 ルージュの答えはいつも直球だ。

 

「その適当がわかんないんだよ」


「そうなの?誰でも出来ると思うんだけど・・・でも、クロードは覚えが悪そうだものね」


――ルージュにだけには言われたくない


「姉さんは、とにかく感覚派なので・・・あまり気にしないでください。では、まず、体内の魔素を魔力に変換します。やり方としては、体内の魔素を感じながら、風魔法なら風をイメージします。そのまま体内に風が吹いているようなイメージを保ちつつ、それを圧縮していく感じで1カ所に集めていきます・・・ここまでが魔力変換です。そこまで出来たら、次にその圧縮した魔力を外へ解き放ちます。手に集めて出せば手から。身体全体から出せば、身体にまとわせる形で魔法が発動します」


「そんなに難しくなさそうだけど」


「ただ、いくらイメージが出来てても、適正がないとほとんど発動しないですし、意外とそのイメージが難しいんです」


「イメージがしづらい時はどうするの?」


「そういう時は呪文を唱えると良いとされています」


「呪文?」


「呪文には力があり、魔力も上がると言われていますので」


「おぉ! そんなやつ待ってた。でその呪文ってどんなの?」


「それが、特に決まりはないんです・・・」


「え、どういうこと?」


「自分のイメージに沿った言葉を作って唱えるってことですね」


「そんなので発動できるの? でもルージュは、えい!としか言ってなかったよね?」


「あっ・・姉さんのは私にもよく分からないんです。そもそも普通、呪文を唱えても、唱えなくても、あんなスピードで魔法は発動しないですから。でも、ケナ婆さまが言うには、呪文は呪文であって言葉ではない。要は気持ちの問題なんだって言ってましたから、姉さんは気持ちが強いんでしょうね」


「なんか難しいね・・・」


「ですよね。一応、まとめてしまうと、魔法陣は魔法の説明書みたいなもので、説明書さえ持っていれば、誰でも好きな魔法を発動できるという事です。また呪文は、説明書を読み上げることでイメージを膨らませているような感じに近いと思います」


「結局はイメージか・・・」


「そうですね。実際、私は魔力も練れますし、魔法も発動出来ますが、魔法陣は読めませんし、どういう仕組みで魔法が使えているのかすら分かりませんので」


「まぁ、とにかく適正があって、イメージがあれば大丈夫ってことか。ん?っていう事は、ルージュはイメージ力が凄いってことか」


「そうですね。だからいつも、『えい!』とか『やー!』とかで発動出来てます。調子にのっている時は『火っ』とか叫んだりしてますけど・・・」


「もしかしてルージュは、呪文を覚えるのが苦手だっりとか?」


「バカにしないでよ! 呪文と言ったって、自分で作るイメージの言葉じゃない。それくらい覚えられるし、忘れるわけ無いじゃない」

 ルージュが心外だと言わんばかりに抗議してくる。


「そうですよ。でも何かしゃべってるとイメージが逆に出来ないという可能性なら・・・」


「アマリまで!! なんなの!二人してバカにして!」

 ルージュは完全にむくれて、そっぽを向いてしまった。


「ごめんごめん・・そんなつもりはなかったんだけど・・・あれ?」


「なによ?」

 ルージュの後方にある木に、赤い綺麗な実がなっていた。

 赤い木の実を指さすと、ルージュがそちらに視線をやり、あっ!と声を上げた。


「カルの実だ!!! 私、大好きなの!すごく美味しいのよ!ちょっと取ってくるわ!」


「姉さん・・・・。まあ、えーと、そういう事なので。一応、私も風魔法を使うときは、『風よ来たれ・・』くらいの呪文ですし。使う人によってはわざと長い呪文を作って、イメージを膨らますことで魔法の威力を上げたりするらしいですけど・・・」


「そうなんだ・・・。要するに魔法陣は自動発動が可能で、魔法陣がなければ適正にあった魔力を自分で錬って、発動するイメージをちゃんとしてから使用しろってことか」


「そんな感じです。特にイメージと気持ちが大切です」


「魔法の基本はイメージと気持ち・・・」


「はい」

 アマリージョがそう答えると、口の周りを真っ赤に染めたルージュが戻ってきた。

 よく見ると、リュックも妙に膨れている。

 どうやら機嫌は直ったようだ。


「まあ、イメージと気持ちで大丈夫ならいけるかも。魔石のおかけで体内の魔素はあるし、ゲームや アニメのおかけで魔法のイメージとやらも完璧な気がする。では・・・」


 荷物を下ろして背伸びをしたりして、身体をほぐす。

 何度か深呼吸してリラックスする。

「じゃ、ちょっと試してみるよ」

――アホ・・・いや、感覚派のルージュに、日本人の魔法イメージというやつを見せつけてやろう


「え!今やるんですか!?」

「バカじゃないの・・・森が燃えたりでもしたら・・・・」


「大丈夫だよ。それより見ててよ」

 そう言って集中する。

 体内の魔素を感じる。

 この魔素を魔力に練り上げ、火のイメージで・・・

 アニメでも、ゲームでも、飽きるほど見てきた魔法。

 特大のイメージで、二人の度肝を抜いてやろう。


「いくぞっ!ファイヤーボール!!」

「あっっ・・・・森が・・・」

 アマリージョが慌てる。



「ウォーターボール!!」

「・・・・」

「・・・・」



「さぁぁぁんだぁぁぁぁぁぼぉぉぉぉる!!」

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・」



「れえぇぇぇぇぇぇざあぁぁぁぁぁぁびいいぃぃぃぃぃぃぃむ!!」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」



「うおおおぉぉぉぉ!!こぉれぇでぇぇぇどおおうだああぁぁぁぁぁぁぁああぁぁ!すぅぅぅぺぇぇぇしゃぁぁああるるぅぅぅ たあぁぁぁいふぅぅぅぅぅぅん!!!」


・・・・・・・・・・・


 長い沈黙の後、ルージュが近づいてきて、俺の肩にそっと手を置き、気の毒そうに呟いた。

「・・・・・・・・どんまい」


 あっ・・・顔から火が出た。

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