第115話 相談
ちなみに昨日は紅蓮の鞘を作った後、『
しかし現状、『自己再生』以外のスキルの付与は一旦保留としている。
理由としては紅蓮が武器として強くなりすぎてしまうことをフラムが危惧したことにあった。
俺としては使える物は全て使っても良いと思っているのだが、フラム曰く『武器に頼りすぎては主の成長を妨げてしまうぞ』とのこと。
確かにフラムの話に一理あると考え、『自己再生』だけを付与したのだ。
それと何故紅蓮に『自己再生』を付与したのかといえば、スキルの効果で刃こぼれ無し・手入れ不要の日本刀になるからという利便性を重視した結果であった。
そんなこんなで『創成の鍛冶匠』と『紅蓮』については昨日の段階でひとまず一段落し、今に至る。
朝食を済ませた後、屋敷に住む全員がテーブルにつきながら雑談を交わしている中、俺が口を開く。
「皆に相談したいことがあるんだ」
この言葉で全員の視線が俺に集まったことを確認し、話を続ける。
「休養も結構取ったことだし、そろそろ冒険者活動を再開しようかと思ってるんだけど、一つ問題があることに気付いたんだ」
冒険者活動を再開する理由。
それはこの世界を混沌に陥らせた神アーテによって奪われたディアの力を取り戻すために必要な『神器』の手掛かりを見つけることにある。
ここ一、二ヶ月は忙しかったこともあり、手が回っていなかったが、ようやく時間が出来たことで当初の目的である『神器』の回収に俺は着手したいと考えていた。
しかし今のところ何の手掛かりも持ち合わせていない。
それもそのはずで俺がこの世界に来てからというもの、殆どの時間を王都と商業都市リーブルでしか過ごしていないからだ。
これでは手掛かりを掴むことなど出来るはずもなく、いつまで経ってもディアの力を取り戻すことなど出来ないだろう。
だからこそ冒険者活動を再開し、行動範囲を広げながら『神器』の情報を集めたいと考えているのだ。
だが、冒険者活動を始める上で、ある一つの問題に気付いたためにこうして皆に相談をしていた。
「何か問題があるの?」
最初に相槌を打ってくれたのはディア。
それにナタリーさんが続く。
「問題……ですか? もしかして、お庭の手入れのこととか? お屋敷の清掃でしたら私とマリーで何とかなりますけど、流石に庭師のようなことは出来ませんし……」
言われてみれば確かに庭の手入れは素人が見よう見まねでやるには難しいかもしれない。
「庭の件は庭師に定期的に来てもらうことにして、俺が考えている問題は別にあるんだ。それは――」
俺が問題を口にする直前にフラムが口を挟む。
「――屋敷の護衛ではないか?」
まさかフラムが真っ先に正解に辿り着くとは思わず、驚きのあまり声を失う。
「……」
「コースケお兄ちゃん、大丈夫です?」
マリーに声を掛けられたことで我を取り戻し、話を続ける。
「だ、大丈夫。……で、問題の事なんだけど、まさにフラムの言った件についてなんだ。今後、俺とディアとフラムは依頼で屋敷を空けることが増えると思う。もちろん基本的にはゲートを使って毎日屋敷に帰ってくるつもりではいるんだけど、護衛依頼とかだったらそれが難しくなるんだ」
依頼によっては王都から遠く離れることがあるだろう。
俺たち『紅』だけで行動するのであれば、遠く離れていた場所にいたとしても俺の部屋のクローゼットに繋がっているゲートを使えばすぐに屋敷に戻ることが出来る。
無論、元いた場所にはゲートが見つからないよう、どこかに設置しておかなければならないが、その辺りは問題ないだろう。
しかし、護衛依頼などではそれが難しいのだ。
護衛対象を置いて自分達だけ屋敷に帰ることは論外。
加えてゲートの存在自体を知られたくはない。
それ故、数日間屋敷に帰れない状況になるかもしれないという懸念があり、相談するに至ったのだった。
「……護衛ですか。でもこの辺りの治安は良いので大丈夫だと思いますよ」
ナタリーさんはそう言うが、もしかしたらディアを探る者がいるかもしれないと考えれば、安全とは言い切れないだろう。
さらに付け加えるなら、大きな屋敷に護衛や警備の者がいないと不埒者に知られれば、強盗に襲われる可能性も否定できない。
「治安は良いけど、やっぱり女性二人での留守番は危険だと俺は思う。でもいきなり護衛を雇うのも難しいんだよね……。信用出来る人物か判断するのも時間が掛かるし……」
「わたしも知らない人が屋敷に住むのはどうかと思う。それに二人を確実に守れるほど強い人が簡単に見つかるとは思えない」
ディアの言葉通り、その点が難しいことも確か。
仮に護衛を雇うとなれば、住み込みで働いてもらわなければ護衛の意味がない。
そして護衛を雇う宛てとしては冒険者ギルドくらいしか考えつかないが、護衛にするなら最低でもAランク冒険者程度の実力が欲しいところ。
だが、Aランク冒険者以上でありながら住み込みで護衛をしてくれる変わり者などいないだろう。
しかも雇い主がCランク冒険者となればなおさらだ。
「そうだね。うーん……考えれば考えるほど難しい問題かも知れない……」
この屋敷に住む者の人脈の無さは悪い意味でなかなかのものである。
でも、よくよく考えてみれば国王様や王女様と繋がりがあるし、俺の人脈も捨てたもんじゃないのでは?
そんな現実逃避をしている時、フラムが突然椅子から立ち上がる。
「どうかした?」
トイレでも行くのかと思ったが、それを口にするほど俺は馬鹿ではない。
そんな発言をすれば、冷たい視線を四方から向けられるのは火を見るより明らかである。
「トイレではないぞ?」
まさか心でも読めるのかフラムは……。いや、だったらもっとまともな言動が普段から取れるはずだし、それはないな。……うん。
そしてフラムは俺からの反応がないことを確認し、話を続けた。
「私に思い当たる者がいるぞ。そこそこ強く、信用出来る者が」
フラムから吉報が転がり込む。
そのような人物とどこで出会ったのかは知らないが、条件に当てはまるというのであれば、俺に異論はない。
「その人が住み込みで働いてくれる可能性はどれくらいある?」
「ふむ……。おそらく問題はないはずだぞ。それどころか喜んで働いてくれるだろうな!」
一気に胡散臭くなってきた。
そこそこの実力があり、信用出来る人物でありながら、この屋敷に住み込みで働いてくれる奇特な人間など、果たしているのだろうか。
しかも喜んでまでとくれば、疑わずにはいられない。
ここが日本であれば壺か絵画を買わされる羽目になるだろう。
「フラム……本当に大丈夫なのか……それ」
胡乱げな視線を向けながら俺はフラムに問う。
「安心してくれ。――よし。ちょっと呼んでくる」
「――え?」
そう言葉を残し、フラムは転移していってしまった。
そしてフラムが転移出来る先はあそこだけ……。
つまり、フラムの思い当たる者というのは――間違いなく竜族だ。
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