第81話 銀の月光

 スキンヘッドのボニートが自己紹介を終え、残りは女性三人となり、ボニートの隣に並んでいた銀髪の女性が自己紹介を始める。


「私はSランク冒険者パーティー『銀の月光』のリーダーであるオリヴィアだ」


 オリヴィアと名乗った女性は俺と同じくらいの年齢であろうか。

 身長は160センチ程でその容姿はとても美しく、どこかの国のお姫様と言われても頷けるほどの美貌を持っている。そしてウェーブのかかった長い銀髪がその美貌を一段と引き立てていた。

 装備は白銀の鎧を身に付けており、冒険者と言われなければそうとは思えないような姿だ。


 そしてオリヴィアが名を名乗ると共に、晩餐会の会場内がざわめき出す。


「あれが噂の『銀の月光』のリーダーか。なんと美しい女性だ」


「あの美貌を持ちながら、Sランク冒険者とはとてもではないが信じられぬぞ」


「私は以前『銀の月光』に依頼をしたことがあるのだが、あの姿は本人で間違いない」


 褐色の肌をした三人の貴族の話し声が俺の耳に届く。

 どうやらブルチャーレ公国の貴族たちがざわめきの原因のようだった。


 オリヴィアって人は有名人みたいだ。それにしても同じくらいの歳の女性なのにSランク冒険者なんて凄いなぁ。


「この度はブルチャーレ公国のヴィドー大公殿下直々に魔武闘会出場の打診を受け、参加させていただくことになった。代表となったからには勝利を得るために全力で戦うことをここに誓おう」


「「おぉ!」」


 フラムの時と同じような声が会場にあちこちから上がるが、今回の声はブルチャーレ公国の貴族たちから発せられたものであった。


 最後にオリヴィアは一礼をし、次の女性の自己紹介が始まる。


「私の名前はノーラ……。オリヴィアと同じ『銀の月光』の一人……。疲れるから戦いたくないけど、頑張る……」


 ノーラはおそらく俺よりも年下であろう小柄な少女。

 スカイブルーの色をしたショートカットの髪型で、身長は145センチ前後。

 容姿は可愛らしい顔をしているのだが、その瞳は半分しか開かれておらず、今にも寝てしまいそうな表情をしている。

 服装は純白のローブを身に付けていることから近接戦闘系ではなく、魔法を主体とした戦い方をするのだろう。


 この子はどことなく寝起きのディアみたいだなぁ。でもこんな雰囲気の子でもSランクだと考えると、強者ゆえの余裕にも見えるのが不思議だ。


 そしていよいよ最後の一人となる。


 その人物は褐色の肌をした薄紅色の髪をツインテールにした、少女と女性の中間ほどの女の子だった。

 身長は150センチを少し上回るくらいだろうか。これまたオリヴィアとノーラと同様に優れた容姿をしており、チラリと見える八重歯が特徴的な女の子で、その服装は黒いタンクトップに赤く短いスカートの中に膝上まである黒いスパッツをはいている。


「我の名はルミエールだ! 『銀の月光』の一人でもある。強者と戦うため、この魔武闘会へ出場することに決めた。是非とも我を楽しませてくれ!」


 手を腰にあて、胸を張りながらそう告げたルミエールは俺とフラムにちらりと視線を向け、何故かウインクをしてくる。ちなみにルミエールの胸は大きくも小さくもない普通の大きさだ。


 このルミエールって子は自分の実力に相当な自信があるみたいだ。それに自分の事を『我』って呼ぶ女の子がいるなんてね。


 そして全員の自己紹介が終わり、再び代表者へ拍手が送られたのだった。




 自己紹介を終えた俺とフラムはディアの下へと戻り、俺はディアから飲み物を渡され、それを一気に飲み干すことで緊張で渇いた喉を潤す。ちなみに仮面を着けているため、物陰に隠れて顔を見られないよう仮面をずらしながら飲んだのだった。


「――ぷはぁ! ありがとう、生き返った。人生で一番の危機を乗り越えた気分だよ、本当に」


「こうすけ、お疲れ様」


 今は俺たち以外の人が近くにいないため、偽名ではなく本名でディアから労いの言葉を貰う。


「精神的な疲労を軽減するスキルがあれば絶対手に入れるのに」


「主よ、そんなことまでスキルに頼らずとも一晩寝れば回復するだろうに」


「確かにそうだね。それなら今後は多くのお偉いさん方の前に出る機会が二度と訪れないことを祈るよ」


「誰に祈るの? 残念だけど、今のわたしには叶えられないからラフィーラ?」


 ディアに言われて思い出す。この世界では神頼み=ラフィーラになってしまうということを。


「前言撤回するよ。ラフィーラに祈ったら逆にこういう機会が増えそうな気がするし……」


 そんな他愛もない会話をしていると『気配探知』で俺たちに近付く三人の反応を捕捉する。


「少し話をしようではないか!」


 元気な声で俺たちに話し掛けてきたのは『銀の月光』の一人であるルミエール。その後ろにはオリヴィアとノーラの姿もあった。


「何でしょうか?」


 内心面倒事は御免だ、とは思いながらも俺がルミエールに返答する。


「いや何、お前たち二人が少し気になってな! ん? もう一人仮面を着けた者がいるが、そいつは魔武闘会には出ないのか?」


 やたらこの人はテンションが高いな……。フラムも大概だけどそれ以上だ。


「もう一人は同じ冒険者仲間ですが、出場はしませんよ」


「そうなのか! というかお前たちは冒険者なんだな!」


 あ、冒険者だなんて余計な情報を話しちゃったな……。まぁ冒険者なんて数え切れないほどいるだろうし、問題はないか。


「……そうです。とは言っても『銀の月光』の皆さんとは比べ物にならないレベルですが」


 詳しい冒険者ランクは言わない方がいいと判断した俺はぼかしながらそう答えた。


 俺の返答を聞いたルミエールはその視線を少し鋭くし、微笑を浮かべる。


「嘘だな。お前たちからは強者の匂いがする。特にそこの赤髪の女」


「私のことか?」


「そうだ。お前なら我を楽しませてくれそうだな。とは言っても我には到底及ばないだろうがな!」


「はっはっはっ!」と笑い声を上げながらもその鋭い視線はフラムを見続けていた。


 それに対してフラムは意外な事にも冷静な様子であるが、その口元はうっすらと不気味な笑みを浮かべている。


「確かルミエールとか言ったか? 私もお前には期待をしているぞ」


 互いに火花を散らすと言うよりは、早く戦いたいといったわくわくとした雰囲気を醸し出す。


「すまない。ルミエールが失礼した」


 そんな二人の会話に割って入ったのは『銀の月光』のリーダーであるオリヴィアだ。


 オリヴィアはルミエールの腕を引き、後ろへと下がらせ、自らが前に立つ。


「先程自己紹介をしたばかりだが、私は『銀の月光』のオリヴィアだ。うちのルミエールが失礼な態度をとり、申し訳ない」


「こちらこそすいません。私はトムです。赤髪がラムでもう一人はフィアと言います」


「トムとラムとフィアと言うのか。先程冒険者だと言っていたようだが、パーティー名を聞いてもいいだろうか?」


「……」


「どうかしたか?」


 やばい! 偽名は考えていたけどパーティー名は考えてなかったぞ……。


「あー……、えっと……」


「すまない。仮面を着け、正体を隠しているのに野暮な事を聞いたようだ。いつか三人の本当の名前を聞いてみたいものだな」


 どうやら全てお見通しって感じだ。仮面には認識阻害の効果があるけど、相手はSランク冒険者だということだけあって、仮面を着けていることに違和感を覚えているようだし。


「ははは……。ですが、名前を聞いたとしてもわからないと思いますよ。『銀の月光』の皆さんの様にSランク冒険者パーティーではありませんから」


「Aランクパーティーでも名が知れ渡っているパーティーは数多くあるが」


「私たちのランクはもっと下ですから」


 俺がそう言うとオリヴィアは少し驚いた様子を見せる。


「ルミエールが強者だと感じた君たちのランクが低いとは少し驚いた。そしてランクが低いにも関わらず代表に選ばれているということにもな。今の話を聞いて君たちの正体を暴きたくなってしまったよ」


 余計に興味を惹いてしまったようだ。これ以上俺たちの事について話すのはやめておこう。


 そしてオリヴィアは話を続ける。


「私と戦った際にはその仮面を狙わせてもらおうか」


 そんな宣言をされてしまえば、俺としては負けるわけにはいかない。


「勘弁して下さいよ」


「ははっ。半分冗談だよ。だが、私たちブルチャーレ公国側が勝利をした際には是非とも三人に話を聞いてみたいものだ」


 半分冗談とは言ってるけど、冗談じゃなさそうだ……。まぁ負けなければいいだけだし、そこまで気にする必要はないか。俺が負けたとしてもフラムが勝ち続ければ問題ないわけだしね。


「それでは私たちはそろそろ行くとしよう。明日の戦いを楽しみにしている。行こうか、ルミエール、ノーラ」


「うん……」


「赤髪の女! 明日は我と戦おうではないか! 約束だ」


 ルミエールが最後に一言フラムに告げるが、フラムは軽く片手を上げただけであった。




「やっと行ってくれたか……。それにしてもフラムがあんな大人な対応を取るなんて驚いたよ」


「主よ、私は普段から先程の様に振る舞っているぞ」


 俺とディアはこういった発言をフラムがした時には互いに視線を明々後日の方向へと向けるのが恒例となっている。


「「……」」


「どうして二人はいつも無言になるのだ!」




 フラムがそんな叫びを上げてから数分後、俺の精神力を削りに削った晩餐会はエドガー国王の言葉でようやく終わりを迎えたのであった。

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