第57話 実力差
「じゃあ次は魔法系のグループが模擬戦をしようか。ディアは準備いい?」
「大丈夫」
そういえば、ディアの戦う姿は今までは見たことがなかったな。確か以前に四大元素魔法は使えるって言ってたけど少し心配だ。
武術系スキルとは違い、魔法系スキルは自身の魔力量によって魔法の威力、継続戦闘能力が変化する。
ディアのグループはフラムのグループに比べ人数が少ないとはいえ、連戦となると体内の魔力量が減少し、厳しい戦いを強いられる可能性がある。
「最初に戦う生徒は誰かな?」
「わ、私です!」
返事をし、実技スペースに降りてきたのは眼鏡をかけた女子生徒だった。
「模擬戦を始める前に結界を張る魔道具を起動させないと危ないから少し待ってて」
俺は実技スペースを囲う壁に埋め込まれている魔石に魔力を注ぐ。すると、半透明の膜がドーム状に張られる。
「よし、準備完了っと。――それでは始め!」
先に攻撃を仕掛けたのは女子生徒。おそらくディアがあえて先手を譲ったのだろう。
女子生徒の片手には水晶が取り付けられたロッドが握られているのだが、そのロッドが赤く輝くと、直径五十センチほどの火球が三つ空中に現れた。
そしてその火球を三つ同時にディアへと放つ。
しかし、その火球はディアへと近付く前に一瞬で掻き消えてしまう。
「うそ……」
女子生徒がそう呟くのも無理はない。ディアは火球を風圧で消し去ってしまったのだ。
通常なら火系統の魔法には水系統の魔法で対抗することが賢明な選択である。四大元素の相性は、火<水<土<風<火となっているためだ。
それにも関わらずディアは火球に対して風系統の魔法を使い、魔法の威力でその相性を覆して見せた。
その後は女子生徒が様々な火系統魔法を使用し、攻撃を仕掛けたがディアはその全てを無力化したことで、女子生徒は降参することとなった。
「ディアってかなり戦えたんだね。正直に言うとそこまでできるとは思ってなかった。まだ一試合しかしてないけど魔力残量は大丈夫?」
「わたしのこと見直した? 後、魔力はまだまだ余裕があるから平気」
「見直した。これからは戦力としても期待することにするよ」
「うん。わたしも護られてばかりじゃないから」
ディアは俺にだけ見えるように微笑を浮かべたのだった。
次の模擬戦も先程と同様に相性の悪い魔法で相手の魔法を完封し、生徒の魔法に対する自信をへし折っていくスタイルで完勝。
そこからさらに十試合ほど生徒たちと模擬戦を繰り返したが、ディアの魔力は最後まで尽きることはなかった。
「ディア、お疲れ様」
「全然平気だよ」
「ディアの戦いを全部見てたけど、どうして相性が悪い魔法で戦ってたの?」
「わたしは上手にアドバイスができないから」
要するにあの戦闘スタイルはディアなりの指導だったのだ。生徒たちの鼻を折り、上には上がいるということを教える。そうすることによって生徒たちが努力し、成長を促すといった考えをディアは持ったのだろう。
「でも今回の模擬戦で生徒たちは自身の魔法を見直す良い切っ掛けになったさ。でもスキルを成長させるのは難しいから、如何に工夫しながら戦うかが今後の課題になるとは思うけどね」
ディアと二人で会話をしていると横からフラムが突然現れ、会話に加わってくる。
「魔法は発想と工夫が大切だからな。スキルの成長は中々に難しいが、いくらでもこの先強くなれる」
俺は遠距離転移を試行錯誤した経験もあり、フラムの言葉に納得がいく。
魔法とは自身のイメージを具現化させ、操るものだ。
例えば火系統の魔法であれば火の球や火の鞭、火の壁など様々な形状に変化させ、いくらでも戦闘に組み込むことができる。
魔法は発想さえあれば無限の可能性を秘めていると言っても過言ではない。
そんな事を生徒たちには学んで欲しいと俺は思ったのだった。
「魔法系グループも終わったことだし、次は俺のグループが模擬戦をするから、フラムに審判をお願いするよ」
「任せるのだ」
俺は俺のグループの生徒たちの所へ向かう。
「戦う順番は決まった? 決まってないなら名前順でいいよ」
そう生徒たちに聞くと代表してアリシアが答える。
「大丈夫です。決まりました。私からやらせていただきます」
「わかった。それじゃあ実技スペースに行こう。アリシアが終わったら次の生徒もすぐに降りてきてね」
俺はアリシアと一緒に実技スペースの中央へと向かう。その途中、横目でアリシアの表情を見るとその顔には余裕が見える。
「アリシアはずいぶんと余裕そうだね」
「そうでしょうか? ですが負けるとも思っていません。これでも学院の主席ですから」
王族でさらに学院の主席か。さぞかし人気者なんだろうな。
「凄いね。ただ俺も自分で言うのもあれだけど、強いと思うよ?」
「それは他の二人の先生を見てもわかります。先生たちはCランク冒険者の実力を遥かに越えているということが」
「あの二人は特別だよ。普通の
「それは常人と才能が違うと?」
「まあそんなところかな。さて、着いたことだし早速始めようか。その前に聞きたいんだけどハンデはいる?」
ハンデが必要か尋ねるとアリシアの表情が僅かに厳しいものとなる。プライドに傷でもついたのだろう。だがもしそうだとしたら俺の狙い通りだ。
俺は今回の模擬戦を通して、生徒たちに敗北を知ってもらうつもりでいる。そうでなければ俺たち三人を特別講師として認めてもらえないのもあるが、何よりも上には上がいることを認知させることが重要だと俺は考えていた。
「いえ、要りません」
「わかった。フラム、始めてくれ」
「それでは行くぞ。――始め!」
俺は今回の模擬戦で一切の手加減をするつもりはない。もちろんそれは殺すつもりでやるというわけではなく、手も足も出せないと思わせるためだ。
アリシアが俺に向かい、一歩を踏み出そうとした時には既に俺はアリシアとの間合いを潰し、懐に潜り込んでいた。
「――なっ!」
俺はアリシアが手に持っていた剣を狙い、持っていた剣で上へと弾き飛ばす。その結果アリシアは剣を手放してしまい、その隙に俺はアリシアの首元に剣を寸止めしたのだった。
「それまでだ。勝者は主だな」
フラムの終了の合図と共にアリシアは身体の力が完全に抜け、その場で尻餅をついてしまう。
「じゃあ次の生徒――」
俺がすぐに次の生徒を呼ぼうとしたところで、アリシアの声が上がる。
「――待ってください!」
「えっと、どうかした?」
「今のは何なのですか? 先生の動きが全く見えませんでした。気が付いたら目の前に先生がいて……」
自分がどのように敗北したのかさえ、アリシアは理解ができていないといった表情を見せた。
「何なのかって言われても、開始の合図で間合いを詰めてアリシアの剣を弾き飛ばしたとしか言いようがないんだけど」
「そうですよね。すいません……」
「あ、そうだ! アリシアに何もアドバイスしていなかった。アドバイスをするとしたら、相手の武器だけじゃなくて全身に視線を向けないとだめだよ」
アリシアは俺との戦闘の際に視線を俺の剣に集中していた。
確かに相手の武器を注視することは悪いことではないが、間合いが離れていたとなれば話は変わる。相手が動き出す前兆を察知しなければ、その対応をすることは困難なものになるのだ。
前兆を察知するには相手の全身を観察し、僅かな予備動作を見逃してはならない。
そういったことがアリシアには出来ていなかったのだ。
「ご指導ありがとうございます」
そう言って去っていくアリシアの表情は悔しさと無力さを噛み締めたものとなっていた。
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