第46話 依頼の報酬
エドガー国王との話し合いを終え、俺はシャレット伯爵の屋敷に行き、元の服に着替えた後、軽食をつまみながらシャレット伯爵とエリス嬢と話していた。
「コースケ君のおかげで無事に問題は解決した。ありがとう」
「私からもお礼を言わせて下さい。コースケさん本当にありがとうございました」
二人からお礼を言われ、ようやく護衛依頼が終ったことを実感する。
「いえ、こちらこそ貴重な経験をさせていただきました。まさか国王陛下ともお話出来るとは思いもしませんでしたよ」
互いに笑いあいながら、リーブルを出発して今日までのことを振り返りながら雑談をしていた。
「コースケ君、これを受け取ってくれ」
そう言われ、シャレット伯爵から手渡されたのは黒い革の巾着袋。中を確認すると大量の金貨が入っている。
「えっと、これは?」
「今回の依頼料だ。これとは別に王都までの護衛をしてくれた報酬はギルドの方へ支払っているから、受け取って欲しい」
袋の中の金貨は500枚近くあるだろう。それに加え、別の報酬まで支払ってくれると言うのだ。流石の俺もここまでの大金を貰うわけにはいかない。
「シャレット伯爵、いくらなんでも報酬が多すぎます。こんな大金を受け取ることはできませんよ」
しかし、俺の言葉にシャレット伯爵は納得をしてはくれなかった。
「これは感謝の気持ちも含まれているのだ。コースケ君にはまだわからないかもしれないが、自分の大切な娘を護って貰い、無事にこうして一緒に過ごすことができるというのは、お金などには代えられない価値があるのだよ」
シャレット伯爵は優しい表情を浮かべ、隣に座っているエリス嬢の頭を撫でながらそう説明する。
エリス様の事をここまで愛しているシャレット伯爵はやっぱり良い人だなぁ。自分の中の貴族のイメージとは違ったけど、初めて縁を持つことができた貴族がこの人で良かった。
「わかりました。この報酬を受け取らせていただきます」
「ありがとう。また何かあったらコースケ君に依頼を頼むことにしようと思う。その時はよろしく頼むよ」
「はい。俺の仲間のディアもエリス様と会いたいでしょうし、こちらこそよろしくお願いします」
俺とシャレット伯爵は固く握手を交わし、依頼達成証明書を受け取った後、屋敷を後にする。その際にディアとフラムが泊まっている宿までシャレット伯爵が馬車を出してくれたのだった。
宿に到着し、受付へ行く。流石に王都で一、二を争う宿だけあって、従業員の接客態度や建物の内装は素晴らしいものである。
とりあえず、エドガー国王との約束が二日後にあるために二泊分の宿泊料金を支払うことにした。
料金を支払い、部屋に案内してもらっている最中に聞きたいことがあったので従業員に聞いてみる。
「すいません。この宿にディアと言う少女が宿泊してると思うのですが、どの部屋にいるのか教えてもらえませんか?」
最近は敬語ばかり使っていたのでその癖が抜けず、敬語を使ってしまう。正直、俺は知らない人とは敬語を使って話す方が違和感が少ないのもある。だが、この世界では冒険者が敬語を使う方が稀なのだ。
俺が従業員にディアとフラムの部屋を聞くと思わぬ返答が来る。
「申し訳ありません、お客様。他のお客様の情報をお教えすることはできません」
「……えっ! いや、あの、その少女とは一緒にパーティーを組んでいる仲間なんです」
「それを証明していただいたとしてもお断りさせていただきます。お客様のプライバシーは守らなければなりませんので。お客様のお部屋はこちらになります。それでは、失礼致します」
そう言って俺を部屋まで案内をした従業員は、その場から去っていく。
流石は高級な宿だけあって、セキュリティも万全だな! ちゃんと客のプライバシーも守ってるし! ……これ、どうやって二人と合流すればいいんだ?
とりあえず部屋の中に入り、どうやって二人と合流するのかを考える。
うーん。時間的にもう夜だし、ディアとフラムが大浴場に行くかもしれないな。女湯の前で待ち伏せすれば……って、これじゃあ俺が変態みたいになってしまう。こんなことで捕まり、国王様と会えませんでした、なんて事になったら死にたくなるからこの案は却下だ。
そしてあれこれと考えること三十分。ようやく名案が思い浮かぶ。それはフラムを召喚魔法で呼び出すという素晴らしい作戦だった。
俺は手の甲にある契約紋に魔力を注ぐ。すると部屋の床に魔法陣が浮かび上がると、そこからフラムが現れた。
「フラム、やっと会えた。ここの従業員が二人の居場所を教えてくれなく――」
まさかの出来事に俺は唖然としてしまう。
何故なら現れたフラムはほぼ下着同然の格好をしていたからだ。
「ごめん!!」
即座に謝り、フラムがいない方向に身体を向ける。
「すまんな。ちょうど風呂から出て、着替えてるところだったのだ」
俺のアイテムボックスには全員分の着替えが数着ずつ入っている事を思い出し、フラムに着替えを渡した。もちろん、視線をフラムへ向けないようにして。
その後フラムが着替え終え、ようやく話ができる状態となった。
「ディアとも話がしたいし、二人の部屋に行っても平気?」
「問題ないぞ。主よ、ここは何階の部屋だ?」
「四階だよ」
「それはちょうどいい。私たちも同じ階の部屋に泊まっているぞ。着いてきて欲しい」
部屋を出てフラムの後を着いていくと、まさかの隣の部屋であった。
……隣の部屋だったのかよ!
そう心の中で突っ込みを入れながらも、フラムに案内されて二人が泊まっている部屋に入る。
「こうすけ、護衛終ったの?」
俺が入室したことに気付いたディアが、少し髪が濡れている姿で俺に話しかけてきた。俺はそんなディアの姿に少し緊張する。
「終ったよ。エリス様も無事だし、今後狙われることはもうない――」
そう口にしようとしたが、言葉が止まる。何故なら部屋がとんでもないことになっていたからだ。
食べ物や服などがそこら中に散らかっており、とてもじゃないが一日やそこらで散らかせるとは思えない光景がそこには広がっていた。
「こうすけ、どうかしたの?」
「ちょっと待って、二人とも。何でこんなに散らかってるんだ……?」
「?」
ディアは可愛らしく、「一体何のこと?」といった様に首を傾げている。フラムに限っては鳴らない口笛を吹いていた。
「はぁ〜。とりあえず、片付けようか……」
一時間ほど掛けて部屋を綺麗に片付け、ようやく話に移る。
「実はさ、色々あってこの国の王様と会うことになったんだ。もちろん、ディアとフラムも一緒にね」
俺は社交界で起きた出来事を二人に詳しく話す。
「なるほど。それで主のパーティーメンバーである私たちに興味を持ったということか。私は構わないぞ」
「わたしも大丈夫。お城も見てみたい」
二人はエドガー国王と会うことに何の緊張もないようだ。
「一応言っておくけど、相手はこの国の王様だから失礼がないようにね?」
「任せるのだ」
「うん、任せて」
二人のその自信は一体どこから来るのだろうか……。むしろ俺が不安になってくる。
「会うのは明後日になるから、そのつもりでいてね。明日は一度冒険者ギルドに行って、護衛の報酬を受け取る予定だけど、その後は息抜きに買い物したりしようか」
「楽しみ」
「私もだ」
その日はこれで解散となり、俺は風呂に入ってからすぐに就寝したのだった。
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