目覚ノ伍 invitation

 ああ、楽しいな。

 やはり戦闘はたかぶる。

 Kと交えた拳も楽しかったが、ヴェインと交える剣撃もまた楽しい。

 だが、やはり……

――カァン! カランカラン……

「ふう。お互い弾きあってしまいましたか」

「その様だな。いや、良かったぞ」

「そう言われて幸いです。しかし……」

「ん、どうした?」

「何か物足りないですね。貴女が目覚めたばかりだからでしょうか」

 物足りない、か。確かにそうかもしれないな。

「すまない。まだ調子は戻らない様だ」

「いえ、こちらこそ不躾な事をつい……申し訳無いです」

 ヴェインはそういうがやはり私には何かが足りないと自覚した。おかしい、本能は取り戻した筈だ。Kとのあの戦いで、確かに。

 そうでなければあの子に申し訳が立たないではないか。

「やはり、まだ私は足りないのか……」

「……恐らくですが」

 ヴェインは一拍置いて言い始めた。

「貴女が足りないと思っている事、それはKと再び戦う事で得られるのではないでしょうか? 次は本能を取り戻す為ではなく本能を使う為に。私では務まらないでしょうね。貴女と張り合えるのはKを置いて他にいない筈だ。貴女の本能を十二分に使わせるに足る相手は」

「……そうか」

 私の本能、未だ完全に取り戻してはいないのだろう。Kが帰るまで1週間、私には何が出来るだろうか。

 少し、落ち込むな……

「もしよろしければ毎日でも手合わせにお付き合いしますよ? 多少なりとも何かを掴めるかもしれませんし」

「ああ、よろしく頼む」

 そうだ、戦いだ。戦いにこそ何かがある。私の本能が求めているのか? それは分からない。だが、楽しい事をするのに悪い気はしない。

「まぁ、とにかく今日はこれくらいにしましょうか。良かったらこの後一杯どうです?」

「そうだな、ご一緒させてもらうとする。マップを見た限りヴェインの部屋は大分とここから近いな」

「ええ、そうですが」

「私の部屋は遠いらしいんでな。出来ればこのままお邪魔してシャワーでも借りたいと思うんだが……」

「なるほど……うわ、確かに遠いな……構いませんよ。飲み始めるのは早い方が良いですし」 

「助かる。では行こうか」


 二人してトレーニングルームを後にした。


――


「さ、どうぞ。少し散らかっていますが」

「お邪魔する」

 散らかっている、とヴェインは言うが小綺麗にまとまっているし、清潔感もある。彼の見た目通りの部屋、といったところか。

「シャワー、お先にどうぞ。私は少し片付けをしますので」

「分かった。ありがとう」


 先に風呂としようか。

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