Calling8 犠牲

「チッ、見てみりゃ分からぁ! おい、脱がすぞ!」

――バサァ!

 巻き上げたマントの先に見えたのは無駄を削ぎ落とした滑らかな肌、あるべき場所に無い右腕と左足、そして……

「うぅ」

「お前、その顔にその身体……なんでなんだ?」

「……」

 こいつはミテクレが私と全く同じだ。耳まで一緒とは恐れ入る。だが同時に全く私とは異質、つまり

「あ、あ、あう」

「それじゃ分かんねえよ。説明しろ」

「た、助けて」

「あーもう! それがナイフ投げつけた相手に言う言葉かぁ? 安心しろ、殺しゃしねえ」

「う、ごめんなさい」

 あー、ちくしょー! なんでまたこんな訳わからん事になるんだクソッタレ! これじゃ気分ガタ落ちだわ。殺す気も失せちまったぜ……

「あ、あの、貴女はKですよね?」

「ああそうだが? それがなんだ?」

「あは、あはは……やっぱり私は失敗作かぁ」

「はぁ? 何をいきなり?」

「あーあ、駄目だったんだ。あ、ごめんなさい。私が知ってる事は全部話します」

「ああ、そうしてくれ」

 そっからコイツの説明が始まった。なんでもコイツ、驚くべき事に「Kを超える者」の計画の過程で生まれたらしい。最初は自分こそ「Kを超える者」だと思ってたらしいが、度重なる「試験」の中でそうではないと知ったそうだ。

 んでもってそれは見事に的中、コイツは失敗作の烙印を押されて廃棄されたそうな。そっから本来なら消されるところだったのを何とかこの放棄された地下搬入経路の一角に逃げ込んで生き延びたんだと。


……おい、ふざけるなよ。


「貴女がここに来てくれるなんて思わなかったから……だから最後くらい貴女に傷の一つでも付けられたら、って」

「そんでアレか。上手かったぜ、もっと磨けるだろ?」

 ダメだ。諦めるなよ、お前は……紛れもなくッ!

「それは出来ない。も……う私には時間が……ない。手足も失く……したし、どうせ私は失敗……作だから」

「そんなこたぁ無ぇ。失敗作なら私に気づかれずにナイフ投げられねえよ。だからそんな事言うなって、な?」

 コイツを失敗作って言った奴は誰だ。僅かしか会ってない私でも分かる。いや私だからこそ分かる。コイツはなぁ!

「あ、ありが、とう。最後に貴女に……会え……て、良かった」

「おい待て! 仮にも私と同じなんだ、こんな事でくたばるわきゃねえんだよ! しっかりしやがれ!」

「いいの、これで。大丈夫、怖くないから。……『Kを超える者』は完成してる。きっとどこかに居る筈だから」

「待て待て待て待て! お前だってそうなる可能性はあるんだ!」

「Kは優しいんだね。私のコアを持っていって……それが『L』の、『Kを超える者』の手がかりに……なる……から」

「おい! おい!」

 がっくりと、コイツの頭が落ち、残った腕が力なく滑り落ちた。

 コイツの目から一雫が落ちきるまでの時間がやけを長く感じたのは気のせいじゃないだろう。

「……」

 コイツは私にコアを持っていけと言った。だから頂いていく。コイツの遺言なら聞いてやれる。ほぼ刹那と言ってもいい程の交流。だがそれだけでコイツの事は全て分かった。コイツも全てを話したしな。だから貰った。

「オペレーター、カイト……すまんがこの『潜入』は中止だ……」

『はい。それで大丈夫です』

『ケイト……』

「それから一つ言っとく。コイツは『失敗作』じゃねえ。れっきとした『化物』だ。それだけは間違えないでくれよ」

『ええ』

『はい』

「ちょっと通信切る。後、これから何が起こっても……」

『ケイトがやることに文句は言いません。だから……』

「ありがとな、カイト」

――ピッ



「クソッッッタレェェェェェエエエエエエエエエエエエ!!!!」


――ビシィッ! ドゴォッ! 


 彼女の咆哮と共に床には巨大なクレーターが出来、次の瞬間繰り出された音をも叩き破る拳の一撃は天井に大穴を開け、しかしてその地表にまで一撃は届き、間欠泉の如く土砂を持ち上げた。

 そしてゆらりと、その穴から一体の化物が飛び出す。


「ぶっ壊してやる」


 その呟きと共に、建物が一つ砕け散った。

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