第七十九話『変人集団』
尖塔に近い、鋭く尖った雪山の麓に待ち構えるは木造のコテージ。
この先には、神術の三大勇者が住まうという。
「行ってらしゃいませ」と送り出す人口知能に、僕は軽く一礼。
背中で、そんな彼女が役目を終えて魔力へと還っていくのを感じながら、僕達は玄関へ向かう。
道の先には階段付きの縁側があり、踏むたびにギギギ、とそれは音を鳴らす。
後ろは雪、目の前には扉。
だけ冷え込む空気を感じながら、僕はコテージの扉を叩いた。
コンコン、と。
静寂走る白銀世界に、小さくノックは鳴る。
その他、扉の奥から微かに聞こえてくる「はーい」という返事。
……妙に男びた声だった。
だけれど、少し女性らしさを残しているような、そんな返事。
と、そんな声が扉の奥から聞こえた、数秒の後。
僕がノックした扉は突然……地面に降下した。
収納・格納された?
……いや、本当にそうとしか言えない。
普通前とか後ろ、横にずれるべき扉が下に落ちたんだから。
そう「開くのね……」と僕含め一同は目をパチクリとさせ、その技術に驚愕。
だってこんなに無駄ーーじゃ無かった。
こんなに変に創造性溢れた扉が、今までにあっただろうか。
否、無い。多分。
そしてその奥。
降下して無くなったコテージの扉の奥で、優しく語り掛ける人物が居た。
「私達の別荘にようこそ、三人衆さん達。歓迎するよ、寒いだろう」
……女性の様だ。
口調からして男勝りな性格の様だが、その奥には誠実さと優しさがある。
男らしい性格に、男らしい勝気な笑顔。
それなのに身長は高く、体もすらっとしてるなど、やけにアンバランス。
かなり出来たモデル体型なのに……男らしい。
でも何故なのか、それが性に合っている、という『女性』だ。
アンビが本当に『姉御』とか呼びそうな大人の女性、って感じ。
刹那。
出迎えた女性の解析を済ませた僕は、咄嗟に呆気にとられていた表情を変え、
「ああ。そうさせて貰うよ」
その場見事な対応力を見せ、僕はコテージへ躊躇なく入った。
僕は他人の家に入るのに謙遜など。最早躊躇などしない。
経験積んでるからね。関係なし。
そして僕は色々と戸惑う他の二人を引き連れながら。
出迎えた女性の、男らしくも、やはり女性な表情を一瞥した。
全員が中へ入り切った頃には、玄関の扉は元に戻っていた。
……全自動ね。イイ趣味してる。
僕の冷ややかな目で、その無駄な技術力を褒めておくとしよう。
と、僕はコテージ内の赤い絨毯を踏みしめながら、そんな事を思っていた。
暖色系の灯りと、室内特有の暖かい空気。
こういう豪邸も良いなぁ、後で作ろうかな、とか僕が考え始めた時。
僕達を先導していた女性は振り返った。
あ、そうだ、と。
「先ずは自己紹介でしたね、私はーーー」
遮り。
「謙遜染みた言葉遣いは良いよ。
彼女は直ぐにかしこまった言葉遣いの素振りを見せたので、僕は即座に手を打った。
「……了解。努力する」
彼女が不意をつかれた様に表情を緩めたが、それも仕方なし。
……先ず、彼女らは『協力者』でもあり『同僚』なんだ。
相手側に謙遜の意思があるならば、直ぐに手を打たねばそれで定着してしまう。
いずれこの子達と共闘するに於いて、
ーー話が飛んだけど、この子は……いや、この子達は。
「改めて。私が神術の三大勇者の一柱、サクラ・ヴァリエッタ。神拳士って呼ばれてる。気軽にサクラって呼んでくると嬉しい」
軽めで、分かりやすい自己紹介。
その謙遜の無い、心から出た笑顔がサクラの誠実さを表す様だった。
まあ、元々名前とかは知っていたんだけれどね。
会うのは初めてだから、こっちも挨拶挨拶。
「オッケー、サクラ……で、僕達の後ろに控えているこの子は?」
……その他に、触れるべき事柄がある。
今さっき触れた、後ろにいる気配の事。
そう君。君だよ。
気配を限りなく薄くしている様だけれど、甘い。
「あちゃー。見つかっちまったッス〜」
間も置かずの背後からの返答にガレーシャ、ビクッと体を浮かす。
それを横に、モイラは語尾に「〜ッス」を使う、如何にもおちゃらけた人物に、
「驚かしたって無駄だよー。私だって分かってたんだから!」
ムキになっているのか、なっていないのか分からない口調で反撃。
また始まった、モイラの謎テンション。
……はあ、と僕は溜息を吐きながら、その語尾に「〜ッス」人間を一瞥した。
これ、その人物の特徴。
着崩した服に、髪型はオールバック。
それにアホ毛が生えているという、如何にも勇者らしい感じ。
体格は成人男性とほぼ同じか、それよりちょっと小さい位で、筋肉は控えめ。
身長が人並みにあるって良いよね。
……ぶっ殺したくなっちゃう。
まあ、兎に角。
「……あの子は?」
色々とおちゃらけた雰囲気を出しているその男の子を見て、僕はサクラに説明を要求。
あの男の子の声や口調は事前に知っていたものの、ちょっとギャップが酷いから。
「……あれが神術の三大勇者のリーダー、アーサー・アスタチン。剣聖と呼ばれている」
「アーサーに、アスタチン…騎士王に不安定、か」
呟きながら、僕は「ははは」と苦笑い。
(いやはや、協力者たちの実態がこうとは、誰も思わないさ)
「正に、名前が人生と性格を写している、その代表例だな」
包み隠さない皮肉を、サクラは言った。仲間でしょうに。
「でも、これで二人目……あと一人は?三代勇者って言うからには、もう一人いるでしょ?」
僕の純粋な問いに、サクラは一瞬溜息を吐き、
「……最後は、勇者の中で一番の変わり者だ」
「何?あの剣聖を超えてくるの?」
「……まあ」
サクラは突然、後ろを向いた。
何かを感知したのだろうか。
……いや。
「紹介しよう。これが最後の勇者、神導師ーーー」
ゴゴゴ、バタバタ。
何かを折ったり這いずる音が、何処かから聞こえる。
いや……床から。
床から、何かが来ている。
「ーーマッドサイエンティスト、フェルナ・コルチカムだ」
ドーン。
耳を破る様な音と共に、コテージの床は粉砕される。
地震か。
襲撃か。
はたまた巨大モグラか。
……いや。
「ねっこみーん!猫耳メイド魔導師、床下から参上ですわ!!」
それは人間であり、馬鹿であった……。
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