第六十二話『偽りのない暴露』
「ああそうだよーー俺が『魔人』だ」
暴露。
途端、彼は瞬く間に……。
ーー僕らの『仲間』としての仮面を投げ捨てた。
灰色の体毛は乱れないスーツに変わり、彼は僕達に銃口を向けた魔人として。
眼鏡の奥で、ただひたすらに笑った。
「……だが、俺の正体を見抜くとは……。やはり貴様……」
魔人はこちらを鬼の形相で睨み、目の前の『僕』という存在のみを捉えていた。
彼が敵だと知って少し目を曇らせる僕だが……。
ただ二人、彼に矛先を向ける愛聴者が居た。
「……ッ!?」
右と左。
彼の首筋には、左右から伸びる二つの刃が在った。
その魔法と魔剣の刃には、全くの躊躇が無かった。
察し取れるのは、ただただの魔人への害意。
そこに躊躇いなど、一切介在しない。
剣を向けるはガレーシャとモイラ。
二人の女性は、一人の仲間『だった』人物に睨みを送る。
もう『ラット君』という仲間の存在は捨て去り、彼女らはただ目標を見据えて。
魔人を『害意あるモノ』として排斥しようと画策する。
「……そういうことかよ。さっきからずっとお前らが喋らなかったのは」
魔人は察する。
この二つの刃はには、迷いなんてない事を。
ラット君が敵であれ、この二人の刃は止まらない事を。
「そうですよ……もっとも、あの時ユトさんに言われなかったら、直ぐに背中を預けていた所でしたけど……」
ガレーシャは、思い出す様に告げた。
あの時と言えば、まあ……あの時だろう。
僕が人型邪龍君の軍勢を全滅させて、彼が「嬲り殺しにしてやろう」とか言った所らへんかな。
その時、僕はガレーシャに伝えたんだ。
「ーーラット君は『黒』だ」って。
普通ならそこで取り乱してもおかしくない。
だけど、ガレーシャは最小限のリアクションで留まった。
そのお陰で、人型邪龍君には気付かれなかったみたいだし。
そして、モイラ。
「私も、ユトの「使命を果たす」って言葉のお陰で気付けたよ……。大体勘だったケドネ」
ああ、まあ……これは説明しないでおこう。
……とにかく、魔人君は既に人型邪龍君を捕らえた時点で誰にも信用されてなかった、って事だね。
君の作戦失敗しちゃったかな?
「……兎に角、観念しなさい!」
「くっ……」
彼女らの通告。
死の宣告とも取れる最後通告に、魔人君は苦汁を舐める勢いで引き下がる。
だが……そんな隙は直ぐに不敵の笑みに変わり。
……暴言を加え『闘争心』を解放させた。
「ーーどけよ」
彼の威圧と共に、空間は光る。
空間が鼓動する。
淡い緑が波動の様に。
一閃の如く、魔人の体から成った。
緑の波動は空間を低く鳴らし、ガレーシャとモイラを打ち上げる。
「ッ!?」
不快には感じない、魔力でも無い緑の波動。
魔人の体から秀でたのは、周囲から刈り取った生命エネルギー。
それを受けた二人は、綺麗に着地を取りながら、魔人を睨む。
「不覚取った……」
「ですね……」
「仕方ないよ、完全にノーモーションだったんだから」
崩れた体制を直しながら呟くモイラ達に、僕は慰めの言葉を送る。
そんなこんなで顔を上げ、魔人君の様子を伺おうとすると。
「居ませんね、魔人さん」
ガレーシャの呟き通り。
魔人君は、もう既にそこには居なかった。
人型邪龍君の姿もね。
代わりに、背後から声が聞こえた。
「ふぅ……これで仕切り直し完了だ」
「はぁ……」
嫌そうに、僕は溜息を吐きながら振り返る。
するとそこには。
「あれまー。やっぱり邪龍君に付けた因果の檻破られちゃったか……」
モイラの言う通り、因果を破った強大な魔力を悠々と滾らせている人型邪龍と。
「さぁ……これが悪役二頭の面構えだ」
マグナムリボルバーを両手に構えた、魔人君のタッグが佇んでいた。
だから、僕は。
「そうだね……じゃあ死んでもらおうかな?」
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