第五十六話『本当に。小学生って凄い』

 

「じゃあ、僕達もちょっと実力垣間見せちゃおうかな」


 途端、僕は苦無くないに変えていた忠節無心カラクリキコウを、青い球体に変える。


「……なんだそれは」


 やはり、人型邪龍君も見たこと無いものなのか、不思議そうに球体を見てきた。


「知らない?これは……」


 見せびらかす様に僕は、球体を小さいビー玉サイズに変え、右手の人差し指に停留させる。



 ……そして、子供が良くする、人指し指と親指を立て、銃の様な形を取りながら、こう言った。



「ビームを発射出来るんだよ……バーン、てね」


 そう、これは小学校低学年児がやる、サバゲーごっこを模したもの。


 エアガンとかが買えない、小学生達が楽しむ為に、いつの間にか出来ていた遊び。


 拳を握り込んだ状態から人差し指と親指を立て、拳銃の様な形を作り。


 その人差し指を銃口だと思って、相手に人差し指を向けて「バーン」とか言い、打ち合う謎の遊び。


 それを更に残酷にして、本当に弾が出るようにしたのが、これ。


 人差し指からは青いビームが出て、標的を残さず抉り、燃やし尽くす。


 これは小学生達から学んだ殺戮兵器。言い方はなんだけどね。


 まあ、やってることは子供らしくても、威力はさっき言った通り絶大。


 ビームが通った所に、プラズマが出来る位だからね。


 本当、小学生って凄いね。


 こんな爆弾もビックリな武器を作っちゃうんだから。


 と、冗談はここら辺にして。


「……君の心臓を狙ったはずだけど、避けられるとはね」


 僕は、そのビームの直撃を食らう筈だった魔族を見つめる。


「はは、冗談きついな……私の眷属けんぞくを半分焼き切る威力とは……」


 人型邪龍君だ。


 彼は、すんでの所でビームを避けやがった。


 その代わり、銀の龍の横半分を無くしてしまったけどね。


「でもまあ……私が生きている限り、幾らでも銀は生成出来るんですけどね」


 ボコボコ。ドロドロと。


 人型邪龍の命令か、銀の龍は欠損した箇所を再生して行く。


 たった一秒ほどで再生しきった銀の龍を見て、僕は言い放つ。


「そ。なら再生不可能なまでに焼き尽くすだけだ」


 そして、僕の人差し指はモイラへと向く。


「仲間争いですか」とか言わんばかりに疑問の表情を向けて来る人型邪龍を横目に、ただ僕はビームを放つ。


 そんなビームにノーガードなモイラ。


 側から見れば完全に裏切りだと勘違いする程、流れる様な仲間への攻撃。


 だが、そんな攻撃も直ぐに。


「これで、出来たら倒されてね。悪役ちゃん?」



 ーー創造神の笑みと共に秀でた、赤の稲妻によって、軌道を捻じ曲げられた。



 まるで、鏡に光を反射させる様に。


 青い閃光は、赤い稲妻を携え……。


 十二個の足場にて形成された、正二十面体の檻の中を駆け巡る。


「ユトさん、モイラさん……」


 ガレーシャ達はその光景をじっと見つめ、固唾を飲み込む。


 反射。反射。


 その都度勢いを増す青と赤は、モイラと僕だけを避け、それでも檻を駆け巡る。


 当たったら、確実に即死。


 そんな威力を発揮していた、プラズマと閃光が檻中を駆け巡り終えた時。


 そこには……。


「ふぅ……眷属を盾に使用する判断が少しでも遅れれば、今頃灰になってましたよ……」


 卵の殻の様に形状変化した銀に入り、しぶとく生き残っていた人型邪龍が居たのである。


「嘘……あれで倒れないんですか!?」


 下からは、ガレーシャの驚愕が聞こえてくる。


 だがまあ、一応想定内。



 しかも、人型邪龍は無傷じゃ無い。



「ですが……片翼を少し抉られましたね」


 人型邪龍君の左翼はどうやら、ビームによって抉られたみたいなのだ。


 まあ、ちょっと羊にかじられた程度だけど。


「これくらいは直ぐ回復するから良いでしょう……では、こちらの番ですよ」


 あ、でもやっぱり再生するのね。


 だが、それでも人型邪龍君は自慢の翼に傷を付けられたことに、ちょっとご立腹なのか、雰囲気を強張らせ……。


 銀を再び龍に変形させながら、こちらへ射った。


「ずっと僕達のターン、で終わりたかったのだけれど」


「そう簡単には行かないんだねーやっぱり」


 目前に迫った銀の龍を前にして、僕達は呟く。


 強者の余裕を見せた所で、僕とモイラは同じ方向に飛び退る。


 銀の龍を向かい風の様に扱って。


 瞬間、僕は十二つの足場を手繰り寄せる。


 空中を仰ぐ僕達。


 目前に迫る銀龍。


 僕達を食い尽くさんとするその銀龍は。


 ドン、と。


 集められた十二つの盾によって、勢いを相殺された。


「やはり止めてくるか」


 十二つの盾と銀の龍が迫合いをしているのを見て、邪龍は頷く。


「……ならば、これはどうだ」


 邪龍は、銀龍に向けて手をかざす。


 漆黒の羽毛に覆われたその手は、いずれ銀龍を分解し。


「……まじか」


 流動する銀と成って、盾から滲み出る。


 瞬間、針は全方向から僕達を囲みこんだ。


 ちょっとやばい。


 万事休すかも。


 ……空中であるが故に、僕達は身動きが取れなくなってしまった。


 そんな、僕達の絶望もいざ知らず。


 銀はその先端を僕達へ勢い良く猛進させる。


 ーーだが。


 雷鳴の如く、僕達を射抜こうとする銀の針は、いずれも奏功を上げることなく空を割いた。


「……避けられたか?」


 否。避けられたのでは無い。


 何故か?それは。


『転移』魔法の境地に至った者のみが使える絶技。



「大丈夫ですか!?二人共!」


 ガレーシャが、転移魔法を使用したのだ。


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