第四十二話『邪龍との対峙

 

 転送用魔法機械によって転送された僕達。


 そこから見えたのは。


「扉、だね」


 先に佇むは木造の両開き扉。


 転送魔法機械の横には『六十二階』としっかり記されていた。


 横の通路は白亜のツルツルとした壁から成っており、床は赤い絨毯が満遍なく貼られている。


 通路な横道一つ無い、先には扉しか無い一方通行。


 背後には魔法機械。


 扉を開けようにも、ガレーシャが居ないと話にならない。


 どうしようか、と後ろを見た途端に本人が転送されて来た。


「案外決断早かったね」


「あんな陰気臭い書斎に置かれたら、誰だって逃げますよ……」


 冷や汗を流しながら転送魔法機械を出るガレーシャ。


 瞬間、黒煙と火花を上げてぶっ壊れる魔法機械。


「あ」


「ええ……」


 今まで元気に稼働していた魔法機械が大破した事に絶句する僕達。


 僕が最初見た時には、壊れる要素なんて全く無かった筈なのに。


「モイラ、ちゃんと自分の物にした?」


「したよ?でも壊れちゃったね」


 壊れちゃったね、じゃなくてさ……もっと全力で大破するのを防いでくれても良いのに。


 僕は溜息混じりに黒煙を上げた魔法機械を探る。


 分かったのは、まあ想像ついてる事でもあった。


「まあでも魔法機械大破理由は……人型邪龍による工作に依るものと考えて間違い無いみたいだね。回路の奥深くに人型邪龍君の魔力が混ざってる」


 同刻、通路の先の扉から焚き上がる歪な魔力。人型邪竜の物だ。


「……しかも、歓迎されてる様だね」


「行くしか無いみたいですね」


 扉の奥から発せられるは異常な圧。


 僕達を誘っている様にも見えるその殺気に、僕達は気を整える。


「そうだね。行くよ」


 殺気とはまた違った胸に迫る様な気持ちと共に、その扉は開かれた。



 ♦︎



 待っていたのは部屋だ。結構狭めの。


 部屋の雰囲気は正に……社長室だ。


 黒と赤の配色が目立ち、長椅子やテーブルには黒革が貼られ、赤色の線が目立たずも綺麗に入っている。


 床には今まで以上にフカフカの朱色絨毯が。


 壁は白いレンガで作られ、オシャレ感を醸し出している。


 周りには高そうな装飾品も飾られている。


 そして、目の前にあるのは社長机。


 横長の机に備え付けの椅子には、誰も座っていないい。


 だが、魔力を感じたのは、間違いなくあそこの椅子からだ。


「……誰も居ないんだね」


 逃げたのか、とか思いながら僕は目を細める。


「そうみたい……でも魔力はあそこの椅子にあったんだけどなー」


 僕とモイラは気配を探りながら前へ進む。


 ドロドロした雰囲気の中で『居たはず』の人型邪龍の気配の一端を探る。



「ーー私を探しているのか?」



 瞬間、背後で聞こえる囁き声。


「……ッ!」


 僕は叫び声を上げたくはなった。


 ……が、それは敵だ。弱みを見せる訳にはいかない。


 モイラは因果剣リアリティ・アルターを抜き、僕は反射的に忠節無心カラクリキコウを剣に変え、背後の囁きの主の喉元に突き立てた。


 ……と、思ったのだが。


 僕達の突きは空を掻っ切り、鳴る筈だった肉の裂ける音は消え、ただ鳴るは木製の扉が粉砕される音のみだった。


 パラパラ、と飛び散る扉だったモノは、無残に地面に降る。


 掠ったとしても即死する程の威力の攻撃を放った筈なのだが、血も、衣服の破片すらも見当たらない。


「おぅっと。危ない危ない」


 そして、また後ろから聞こえる慌て声。攻撃を軽く避けられた様だ。


 あの囁きが殺気を持った攻撃だったのなら、もう殺せていたのに。


 僕達は殺気に敏感だ。


 少しでも攻撃しよう、という意思を見せたからには、僕達はその瞬間に首を刎ねているところだ。


 つまり、ただ囁くだけで済んだからこそ、その人物は生きている。


「……ちっ」


 だが僕が鳴らした舌打ちの理由は、攻撃を避けられた為だからじゃ無い。


 ガレーシャが攫われたからだ。


 僕は小さく息を吐きながらその人物を見た。


「君は人攫いが得意なのかい?」


 煽りを飛ばす僕の眼に映る人物は、やはり人型邪龍。


 黒のコートと黒の体毛。


 二メートル越えの体格を有した背中には天を仰げるほどの翼が生えている。


 黒い体表に、近付かれても一瞬反応が遅れる程のスピード。


 空間に満遍なく充満する人型邪龍の魔力で反応が一瞬遅れたとは言え、結構すばしっこいのは理解した。


 その体を作る筋肉は、筋骨隆々とは言い難い量だが、そこにはしっかりと人の頭蓋骨を片手のみで粉砕できる程の力を余裕で有してる。



 ……それに、禍々しい雰囲気を放つ人型邪龍は、腕にガレーシャを抱えていた。



 少しでも邪龍が力を込めればガレーシャの首が粉砕されるし、邪龍君の右手にはナイフが握られている。


 いつでもガレーシャは死ねる状況だ。良かったね。


 ……はあ。



 ーー人質とは、実に悪役らしい。



「こうやって人質を取らねば、貴様らと対等に話せんからな」


「悪役を極めてるね、邪龍君は」


「それはどう致しまして」

 モイラの嫌味を煽りで返す人型邪龍。煽りスキルは最大値の様だ。


 人質を取るという外道的な行動をしている癖に、紳士的な態度を取ってくるとは。


 僕は彼への礼節を弁える様に、語りかけた。


 今ここでガレーシャを殺されては困るからね。時間稼ぎ。


「……で、君は人質を取ってまで僕達とどう話し合いたいのかい?身代金を求めるなら却下するけど」


 すると邪龍君は嗤った。


「……いや?ただ私はーーー」


 彼は一瞬で魔法を展開させ……。



「ーーー貴様らを、抹殺したいだけだが?」



 ……その、鬱憤たる言葉と共に、彼の魔法が空中に飛び散った。

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