第四十一話『モイラ・アントワネット』
「でも、行かなきゃならないと思うんだけど」
「ですが……
僕とガレーシャの論争の最中、モイラは吹っ切れる様に言った。
「解呪出来ないなら、自分の物にしちゃえばいいじゃなーい」
モイラはおもむろに赤の稲妻を携え、アントワンネット的思考を見せた。
因果剣か。
確かにあれなら……。
「せいっ」
掛け声と共に、モイラの手は壁の凹みへと触れた。
「ちょっとモイラさん何やって……ってえ?」
……普段ならば、ガレーシャが言った通り手が焼き切れるのだろう。
本物の所有者でなければ、呪いが持つ強大な呪力に身を焼かれるのだろう。
ーーさながら、地獄の業火に焼かれ死ぬ聖女の様に。
だけどもモイラの……因果剣の場合は、違う。
忘れるてるかも知れないから言うけど、モイラはあれでも創造神だ。
だからこそ、こんな呪いに屈して良い存在じゃない。
そしてモイラの稲妻を携えた手は、呪いを凌駕する。
呪いの壁は拒まれる事なく起動。
それは、ガレーシャの期待を『良い意味で』裏切るものだった。
呪いの壁は機械仕掛けの如く無機質に開き、中のモノを流動的に見せていく。
そしてガレーシャ、意味不明なその光景に絶句。
一刻と経たずその壁は扉となり、内容していた中のモノを露出させた。
見えたものは機械。
少し埃被ったその機械は、僕の目算によると魔法機械に見える。
魔力の流れがこの魔法機械を仲介して何処かへ飛んでいる所から見ても、これは転送用の魔法機械か。
ここで説明しておくけど、魔法機械は魔法の超常的能力を、回路として機械に落とし込んだ物を言う。
杖や魔道具などの魔法具とは少し違う。魔法具より後天的に出来た、魔法文明の利器的存在だね。
「開いた上に……出て来たのは、オーバーテクノロジーな所を見ても古代魔法機械な様ですね」
ガレーシャの説明通り、その転送用魔法機械はロッカー1つ分の大きさだった。
現行の転送用魔法機械とは違い、明らかに小型化されている。オーバーテクノロジーだ。
つまりこれは、古代の未知のテクノロジーによって作られた、なんか凄い魔法機械という事だ。
だがまあ、自分の魔力を流し混んでから自身の体を機械の中に入れれば転送される、と言うのはどうやら、現行の転送用魔法機械と変わらないらしい。
……ま。見る限り、機能性は充分。
魔力回路の不起動の可能性は無し。
体がズタズタに引き裂かれる心配も、魔力の流れ的に……多分無し。
転送用魔法機械的に申し分無い性能をしているけど……まあ少し、古臭いという事が気にかかる。
「機能性充分、モイラの因果剣によって安全性も充分。行くしか無いね」
「それでもどこに飛ばされるか変わらないんですが……」
「しのごの言ってる暇は無いよ。そもそも行って見なきゃ、奥の景色なんて分からないんだから」
ガレーシャの心配性に、僕は格言の様な言葉で答えた。
すると横のモイラが騒ぎ出し、
「そうだよ!だから先に行ってくるね!」
自ら、その露出した転送用魔法機械に身を投げ入れた。
「え?モイラさん何を……」
ガレーシャの制止も聞かず。
瞬間、魔法機械は起動し、モイラの体を発光する魔力で包み込んだ。
そして、転送準備に入った魔法機械。
それに抵抗を示す事なく、モイラは刻限を過ぎた途端に転送された。
それを見届けた僕達。
……数秒程息を重ねた後、残された静寂に気付く。
「ーー大丈夫……みたいだね」
「でしょうか……」
ガレーシャは、まだ不安の表情を拭い切れていない様子。
それを横目に、僕は続投する。
「じゃあ次僕ね」
魔法機械に身を置き、僕は魔力を魔法機械に流し込む。
転送の開始を告げる魔法機械を見て、ガレーシャは焦る。
「え?だからちょっと待っーーーー」
その言葉が出切った時には、残念ながら僕は転送済み。
「……って言ったのに……」
消えた僕。
残されたガレーシャ。
止める様に伸ばされた右手は、誰も居なくなった魔法機械を指す。
霧散した魔力の中で、一人ガレーシャは静寂に包まれる。
そしてガレーシャは自棄になった様に怒った。
「もうどうなっても知りませんからね!」
鼻息を荒げながら魔法機械へ歩み寄る彼女。
その歩みには、可愛らしい怒りが垣間見える。
そしてそのままガレーシャは転送魔法機械に身を通し……。
ーー消えた。
そして、誰も居なくなった書斎に再び静寂が訪れた。
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