第三十四話『不可視の牛。小さき魔力

 

 そして、今は続けてガレーシャの先導の元、六十階を探索中。


 モイラ先頭だとやっぱりヤバいことになったので、モイラよりはまともそうなガレーシャを先頭にしている。


 僕が最初っから先頭になっておけば解決するんだろうけど、まだガレーシャの真の実力を知ってないからね。


 貴族で魔法事象操作学校を首席で卒業した経験があるガレーシャは、どれだけ有能なのかと思ったら……。


 罠は着実に避けてくれるし、道にも迷わない。モイラとは大違いだ。


 そして、そんな時。


 ガレーシャが実際、本当に有能だって痛感することになる出来事が起きた。



「……あれ?行き止まりかな」


 そこは行き止まりだった。本当の袋小路。


 正面には壁。横にも壁。抜け穴すらない。


 と、そんな時にガレーシャがあるものを見つけた。


「……ん?これ……」


 それと同時に、僕もそれを見る。壁画だ。


 そこには、多少かすれながらも文字が書かれている。


「古代文字かな?……読めないけど。モイラ読めたりする?」


「……いいや。サッパリ」


「だよね。出来ないと思った。期待した僕が馬鹿だったよ」


「出来ないと思ったって何!?」


 モイラの声なんて聞かずに僕は肩を落とす。


 古代文字なら、腐っても創造神のモイラだったら解読できると思ったのに。


 でも、横のガレーシャが満更でも無いような顔で古代文字を見つめているのが目に入った。


「……まさか、読めるの?」


「……まあ。専門外ですけど、発見されている全ての古代文字の形式くらいは記憶しています」


(全部って……そりゃあ主席も取れるわけだ)


 僕は軽く出されたその言葉に良い意味で若干引くが、この際都合が良い。


 僕はガレーシャのその頭脳を借りることにした。


「なら、読んでみてよ」


「……分かりました」


 ガレーシャは背後で僕が遠回しに『馬鹿』と言って所為で騒いでいるモイラを置き去りに解読を始める。


「ーーー『不可視たるその牛を探し、その頭上に小さき魔力を携えろ。門は近くにある』……と」


(謎解きか。古代遺跡みたいな所にこう言うのがあるのは、ゲームの世界にあるべきものだったと思うんだけど)


「不可視たる牛。小さき魔力。……門。見えなくさせる意味はわからないけど……そう言うことね」


「え?何かわかったんですか?」


「うん。このような問題は、慣れてるから」


 そのまま、僕は今まで来た道を引き返す。ガレーシャ達も、不思議ながらも付いてくる。


 行く所はそんなに遠くない。ただ、一個前の部屋に戻るだけ。



 ……以前僕達が来た時には、なんの疑問も持たなかったけど、今考えれば、ヒントだらけだった。



 そんな部屋にあるのは、床一面に貼ってある、柔らかい雲の様な物質。


 ただそれだけの空間だと思って無視したけど、その先は行き止まり。あるのは古代文字……&問題となると。


 僕は筋の様な魔力を部屋中に撒き散らせた。


 不可視となったとしても、実体は有るはず。



「ーーーあった」



 右後方、十七歩。


 そこで、魔力が何かにぶつかり、弾かれた。


 壁では無いとしたら。それは……。


 僕は氷魔法をそれに向けてそれに放った。


「何を……」

 消散して行く冷気を前に、ガレーシャはたじろぐ。僕が突然魔法を行使した事に驚いている様だ。


 だがその衝撃は、その後すぐに現れた物体によってかき消された。


 凍てつく冷気の中現れたその物体。


 それは……。


「お牛さんだ」


「……そう。これが不可視の牛。恐らくこれに魔力を流せば……仕掛けが作動するはず」


 僕は牛の額に、小さな魔石の様な物がある事に気付いた。


「よっと」


 ちょっと足りない身長差は、牛の頭に飛び乗って解決させた。


 そのまま僕は、その魔石の様な物を手でなぞる様に解析しながら、わかる事を呟いた。


「これは魔力吸収型の魔石だね。でも、その溜め込める限界魔力がかなり少量で、それ以上の魔力を流し込むと溢れてしまうみたい」


「それが『小さき魔力』を流し込む所ですか?」


「……恐らく。でも残念ながら、僕とモイラはどう頑張ってもこの魔石から溢れさせない程少量の魔力を注げないね。溢れさせちゃったら仕掛けが作動しない様だから……」


 僕は牛から降りた。


「ガレーシャ。出番だよ」


 ガレーシャは息を飲み込んだ。


「……分かりました」

 だが、ガレーシャには断るだけの理由は無かった。


 ガレーシャは牛の前にて立ち、深く深呼吸する。


 ……やってくれると言うなら僕らは何も言わず、側から仲間を信じるだけ。


「……行きます」


 ガレーシャは手をかざし、静かな波の如く自然に、自身の魔力を流し込んだ。


 整然たる、波風一つ立てないその魔力。小さいながらも、その実力は発揮されている。


「……っ」


 直実に。されど慎重に注がなければ、直ぐに溢れてしまう。


 額には汗が流れ、瞬きは止める。


 己の動きを全て止め、感覚は全て魔力放出に回す。


 針の穴に糸を通すよりも格段に難しい芸当だ。魔力を最小限に抑えて放出すると言うものは。


 そもそもの事、魔力を抑えて放出する、なんて意味の無い訓練なんてしていない限り、魔力放出を最小限に抑えるなど、慣れていないから無理な話なのだ。


 運動していない大人が、突然走る事を本気で考え始め無いのと同義だ。自分は出来る、と皮肉ながらも確信しているからこそ、訓練などしない。だから咄嗟に走る時、足がもつれたりすることがあるんだ。


 ガレーシャだって、そんな怪奇な訓練なんてしている筈も無かったらしく、慣れている様子なんて無かった。



 ……だが、彼女はミスもせず、ぶっつけ本番でそれを順当に成功させつつある。



 誠に、凄まじい才能だとは思うね。

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