アシア大戦中編―試作機戦線
カウンターストライク
メタルアイリスの通信会議が行われた。
バリーとコウ、ユリシーズはA級構築技士全員だ。
ジェニーとリック、ロバートも参加こそしないが通信を開いている。
兵衛とクルトはペリクレスから会議に参加している。
ウンランにいたってはなんとアリステイデスからだ。地球に帰還したアリステイデスの最寄りの要塞エリアがB812要塞エリアだったこともあり、合流したのだ。
「改めまして今回はありがとうございます」
構築技士代表としてコウが最初に礼を告げる。
衣川とは初対面だが、優しそうな面持ちの男性で、不思議と初対面な気はしなかった。
それぞれの構築技士が頷く。
バリーが言葉を引き継いだ。
「我々メタルアイリスは巨大マーダーを全て撃滅することに成功。残りのマーダーも掃討戦といってよい状態。次にアルゴナウタイの軍との戦いに備えております」
「本当によくエリスまで倒せたものだ。見事の一言に尽きる」
ウンランから賞賛が送られる。あのエリス一機だけで、他の転移者企業なら対抗することはできなかっただろう。
「ええ。幸いビッグ・ボスが色々と隠してやがったもので」
コウ以外全員が笑う。
アシアの力なのにと思うコウだが、やらかした事実には変わりない。
開発した
「ユリシーズとして会議するのは初めてだねえ。実に相応しい名になった」
以前からA級構築技士が集う会話はあったが、一つの組織になってからは初めての会合となる。
「はは。いいだろ!」
「30年前アシアにきた私とケリーすら知らなかった事実。我々構築技士を超AIたちがオデュッセウスと呼んでいた、ということ。この言葉のラテン語が地球のユリシーズの原型ですね。しっくりくるのは確かです」
自慢げなケリーと、アシアにきてからの日々を振り返るクルト。
ケリー、クルト、そして捕まったジャックはアシアにきて三十年以上経つのだ。
「何故オデュッセウスなんだろうか。そこが気になります」
「アシアに聞きました。故郷に戻るため離れ長い旅路を得た、果ての知恵者、というニュアンスらしいです。悪巧み、奸計に長けている意味もあるそうですが」
「なるほど。地球からこの惑星にきた私たちのことを指している。兵器構築者にいい意味での知恵者とは名付けないだろう。我々の帰るべき故郷はこのアシアだしね」
衣川の疑問にコウが答える。コウがウーティスと呼ばれていることも、A級構築技士には伝えていた。
彼もコウの説明に納得したようだ。兵器構築者は良い意味での知恵者ではあるまい。
「そうです。この星が
「今日は皆さんに私から提案があるのです」
コウから会話を受け継ぎ、バリーが切り出した。
「スフェーン大陸にあるA001要塞エリアが強襲されているのはご存知の通りです。エイジさんは大丈夫ですか?」
「ああ。同じ大陸といっても私のところは端にあるからね。心配ありがとう」
「それなら安心して話を進められる。今まさにマーダーの侵攻が終わりつつあり、アルゴナウタイとの戦闘が始まるでしょう。被害を最小限にするのも手ですが。私としてはR001要塞エリアを攻略、奪取したいのです」
「
クルスが鋭く反応する。
「ええ。R001は軌道エレベーターがあります。それを奪還し、ユリシーズ管理下に置きたいと思っております。無論、自軍への被害は格段に大きくなりますが」
バリーはここでいったん区切り、皆の反応を見る。
「ストーンズに対して
「それはいえるね。僕としても賛成。メタルアイリスへの負担が大きいのは変わりませんが」
ケリーとウンランは賛成だ。
「フットボールでいうゴール際でかわして速攻のカウンターというところですね。私も賛成です」
「うちは兵隊出してないからとやかく言える立場じゃねえな」
クルトも賛意を示し、あまり自軍を用意できなかった兵衛は申し訳なさそうに言う。
「無論私も賛成です。人類の命脈を保つ軌道エレベーターを捨てた傭兵機構の所業は言語道断」
衣川も賛同する。軌道エレベーターがないと宇宙関連のマテリアルが断たれる。そこは避けたいところだった。
ユリシーズが管理するとなると、傭兵機構よりはよほど安心できる。
『あのね。R001要塞エリアには私の一部がいるの。助けてくれると嬉しい。危険だとはわかってるけど……』
おそるおそる会話に参加するアシア。
構築技士たち全員の顔が和んだ。ますます反対する理由がなくなった。
「なら話は決まったようなもんじゃねーか! 頼むぜコウ!」
「わかりました。任せてください」
コウしかアシアを解除できないのは変わっていない。すでにA級構築技士たちには事実として広まっている。
アシアがR001に囚われているなら二重の意味で奮闘しなければならない。
「軌道エレベーターにアシアとなると相当守りが堅そうだな」
「一番敵戦力が集中しているだろうね。うん。当然だ。だからこそより手に入れる価値がある」
「バリー司令の戦局想定が聞きたいぞ」
ケリーとウンランが会話していたが、バリーに話を振ってくる。
「R001要塞エリアを奪取するとしてですね。奪取も困難ですが、奪取後のほうが厳しいでしょう。守るべき要塞エリアが二カ所になるわけです。戦線拡大による兵站も支障をきたします」
「それはそうだな。守り切れないと?」
「いえ。大規模戦闘がいくつか想定されますが、重要な戦闘は局地戦となるでしょうね。要塞エリアではなく防衛ドームの奪い合いになります。うまく補給ラインをつなげれば守り切るでしょう」
「局地戦か…… 局地戦機が必要ですね」
衣川が呟き、ウンランが同意する。
「バリー司令。提案があります。我々の試作機を投入させてもらいたいのです。きっと役に立つはずだ。ユリシーズに参加表明した大手の他企業からの参加表明もあります。軌道エレベーター奪回作戦ならかなりの援軍も期待できますよ。バリー司令」
思わぬところから援軍追加の話がでた。衣川からだ。
「もちろんです。どこの企業でしょうか?」
既に滅んだジョン・アームズを除いてA級構築技士全員揃っているなか、大手と言える企業は限られる。
「日系企業の五行重工業と英国企業集合体のBAS社です。最大戦力を以って援軍を出すと打診がありました。エメ提督の奮闘もあると思いますが」
衣川が挙げた二社は、転移者企業でも最大手ともいえる。早期に重工業に優れた要塞エリアを抑え、手広くやっているのだ。
「俺が言うのもなんだが、変態企業が二社もかよ」
「ケリーにだけは言われたくないと思うよ、彼らも」
ケリーの呟きに、ウンランが笑いながら相槌を打つ。
その二社は特に有名な企業だった。五行重工業は名だたるB級構築技士を多数抱え、元は地球、日本の防衛産業を担っていた技術者中心だ。
五行とは、陸海空シルエット兵装五種類全般を取り扱う巨大軍需複合体からきているという。五角形の星形と桜を組み合わせた、いかにも日本的企業といえる。
BAS――ブリタニアアームズシステムズ社。英国企業のブリタニア・アビエーション社を中心に、アームストロングホワイトホース社やヴィンセント社が合流した巨大転移者企業だ。
それぞれ得意分野を集め、とくに海洋戦力の開発が強い。
ただし、奇抜な兵器の傾向も強く、自社の傭兵強化に繋がっている。大規模な傭兵派遣企業でもある。
「助かります。古来より大規模戦闘は試作兵器が投入されるのが常。コウのホイールオブフォーチュンのような兵器でなければ大歓迎です。奴に手本を見せてやってください」
「バリー、今それをいうのか!」
バリーのいうことが冗談だとわかっていても、半泣きなコウの抗議に、A級構築技士は笑う。
「面白いと思うがね! 俺としてはローリングボムはアリだと思う!」
「ノーコメント。リックと約束があるからね。講義は覚悟してくれたまえよ」
無邪気に褒めてくれるケリーと、リックからさんざん愚痴を聞かされたであろうウンランが笑いながらコウに伝える。
「陸はウンラン君に任せて、空は私とケリーが受け持つことにしようか。エッジスイフトは面白かった」
「私とヒョウエはシルエット、近接戦に特化していますからね。コウ君の他の兵器開発に関しては皆さんのフォローを是非お願いしたい」
「へへ。違えねえ」
構築技士たちのやる気に、コウが困惑する。
光栄なことだが、やはり気は重い。
「しかし、敵も同様に新兵器を導入する可能性は高い。アーテーは前座といっていたぐらいだからな」
「僕たちも負けるわけにはいかないね。戦時開発も検討しよう」
「B級構築技士の援軍や新型兵器も期待できる。悲観する必要はない」
ウンランと衣川の言葉にバリーは頷いた。
「追加戦力も期待できるということで、修正は必要ですが現在ある戦力での戦闘プランを皆様に説明します」
バリーによる軌道エレベーターがあるR001要塞エリア攻略戦のブリーフィングが始まった。
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