五番機の真実
アストライア艦内。
五番機の足下で、コウと兵衛があぐらをかいて座っている。
ポン子が創った料理が順次運ばれている。酒も用意されていた。
クルトはペリクレスに向かった。クルト・マシネンバウ社の社員たちと再会するためだ。向こうは向こうでクルトの帰還を祝ったお祭り騒ぎであろう。
兵衛と積もる話はたくさんあった。だが、やはり五番機のもとで話すのが一番いいだろうとコウは思ったのだ。
兵衛は意外なほど喜んだ。
「すまなかった。コウ君。言い訳にもなりゃしねえが吉川のことはしらなかったんだ」
深々と頭を下げる兵衛に、コウは慌てた。
「待ってください! 兵衛さんは何も悪くありません! 頭を上げてください。俺も連絡がかなり遅れてしまって…… そのすみませんでした」
コウはそれから、兵衛にぽつりぽつりとアシアにきたことを話し始めた。
不思議な猫に導かれ五番機と巡り会ったこと。
アシアに構築技士の資格をもらったこと。
「猫ってあれか。覚えているぞ。ネズミ色の、狐みたいな顔付きの洋猫ファミリアだろう?」
「ええ! そうです!」
師匠はロシアンブルーだ。毛並みでいえば黒系統に属し、この灰色の毛並みはブルーと呼ばれる。
兵衛が師匠のことを覚えていてくれて、それだけで嬉しかった。
「俺に力を借りたかったが、時間がないって悔しがってたな。要塞エリアが襲撃される数日前ぐらいだ。だから余計、印象が強いんだな」
師匠はエメを目覚めさせ、アストライアを引き渡せる構築技士を探していたのだ。
その後の話を続ける。アストライアにたどり着いたこと。
メタルアイリスたちの協力を得てアシアを救出し、技術解放を行ったこと。
色んな構築技士のもとへ学びにいったこと。
後半は兵衛も知っている話だった。
当時は吉川たちのしでかしたことをしらず、避けられていると思ったものだ。
兵衛は決心がついた。
コウにとって衝撃的なことが告げられたのだ。
「あの廃墟で出会った五番機を強くするため、か。ありがとよ、コウ君。亡くなった修司も浮かばれる」
うつむき加減でさみしげに笑う兵衛をみて、コウはその言葉が嘘ではないことを知った。
「そ、そんな…… 修司さんが死んだだなんて……」
信じられなかった。漠然とだが彼もまたこの惑星にいるだろうと思っていたのだ。
「このラニウスの五番機な。修司が乗る予定だったんだよ。知っていたかい?」
コウははっと上を向いて、五番機の顔を見る。
「こいつは完成直前だったんだ。人工筋肉の生産が遅れていてな。だが、マーダーの大軍がやってきて、俺達は避難すらままならぬ状態でよ。そのとき、修司と一部の社員がシルエットに乗って時間稼ぎをしたんだ」
「そんな……」
「修司は五番機の完成を楽しみにしていてな。試作中にずっと話しかけていたよ。もちろん、お前さんのこともな」
「修司さん……」
「俺は運悪く別方面で戦っていた。どうやら他の奴を逃がすために、一人で戦ったらしい」
「あの人らしいです」
「戻った頃にはマンティス型の残骸と、修司の破壊されたシルエットだけだったよ。MCSがぺちゃんこでな。中は確認できなかった。マーダーに捕まったとしても、先は長くねえ。意味のない希望は持っちゃいけねえからな」
二人はしばらく無言だった。
兵衛が再び語り始める。
当時のTAKABAでの高性能機体ラディアンでは、マンティス型に対抗するには厳しかったのだ。
「それから三日後だ。再びマーダーが大量にやってきた。もはやこれまでと防衛ドームの放棄が決まってな。激しい戦闘だった。そのときだ。この五番機が勝手に動いて、大剣もってマーダーを斬り殺し始めやがったんだ。修司が乗り移ったかのようにな」
「五番機が勝手に動いて人を守った……それは聞いたことがあります……」
惑星アシアにきたとき、最初に聞いた話だ。
いわくつきのシルエット、と。
「聞いたのかい? 獅子奮迅というに相応しい戦いだった。顔面が半分ぶっ潰されても、マーダーを殺し続けていた」
「だけど、特殊事項が発生したシルエットは廃棄が常だとも聞きました」
「そうだ。勝手に動いたシルエットというのは廃棄かMCSを入れ替えて改修が必須なんだ。MCSは人間の五感に影響するからな。五番機を改修する時間もなかった、いわく付きの五番機を気にする余裕なんてなかったんだ。だが、廃棄まではしたくなかった。皆に頼んでこいつをあの地下のジャンクヤードに放り込んで逃げたわけよ。地下までマーダーがくることは、まずないしな」
兵衛が五番機を懐かしそうにみる。
「クルトさんにフッケバインは間に合った。修司にラニウスは間に合わなかった。五番機はさぞ無念だったろう。戦いたかっただろうな。五番機よ。おめえがコウの相棒になったのは、偶然じゃねえ。おめえが選んだんだな。なあ」
兵衛はヒトであるかのように五番機に語りかける。
コウも同じように感じていた。
「……五番機がまだ戦いたいって言っていたんです。呼ばれた気がしたんです。俺を使え、と」
「間違いない。こいつが呼んだんだ、修司かもしれねえ。……両方だな」
「そうですね。二人が呼んでくれて、俺を助けてくれたんです」
ぽつんといって、コウは俯いた。
涙が溢れてきた。
「修司さん…… ありがとうございます……」
ここまで生きてこられたのも師匠と五番機のおかげなのだ。
そして五番機が修司の乗る予定だった機体だと聞いて、思わず色々な思いがこみ上げてきたのだ。
「縁って奴はすげえな。ありがとよ、コウ君。修司のために泣いてくれてよ。俺も君と修司の話をしたかったんだなあ」
そういう兵衛の目にもうっすらと涙が浮かんでいた。
五番機のもとで二人は一人の青年を偲んだ。
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