人工太陽
明け方近く。
予想通り、散発的な戦闘はあるものの、大規模交戦はない。
哨戒機が飛び、上空を監視している。
そこへ、天空が光った。
哨戒機がバランスを崩し、墜落する。MCSが射出され、地表近くになってようやくハッチを開け、鳥型のファミリアが逃げ出す。
断続的に空が光り続ける。
空にもう一つの太陽が作られたのだ。輝きは小さいが、周囲は青い空がみえる。
「これは、電磁パルス攻撃か。これほどの大規模攻撃は類をみないが……」
リックが呟く。
「リック。こちらも異変を確認した。EMPだな。核は禁止なので、使ってはいないと思うが」
NBC兵器は禁止武器である。惑星保護のためでもあり、一度に殺傷する兵器を許していたら何のためにこの星系にきたかわからなくなる。
『静止軌道上、上空4万キロ地点のコロナプラズマを生み出す超小型人工太陽を使用したと思われます。開拓時代や惑星間戦争時代に、寒冷地の温度調整や宇宙塵への防御壁代わりに使われていたものですね』
ディケが二人の疑問に答える。
「人工太陽? 開拓時代に使ってたってやつか」
『赤色矮星ネメシスは太陽の半分ほどの表面温度しか持ちませんから。太陽と地球より近い軌道で回っているとはいえ、熱量不足だったのです』
「そんな兵器利用していいのか?」
『兵器ではありません。爆弾目的で使用できませんので。アシア表層にいる人間には影響がなく、MCSや要塞のシェルターは対策されています。本来は宇宙空間で使うものです。ストーンズが所有していたものでしょう』
「つまり上空にだけ影響があると?」
『はい。フレアによる広範囲における数千度の高熱と磁気嵐により、航空機の運用は厳しいですね』
「核の一種だろ? 使っていいのか?」
『禁止は核分裂反応を伴う兵器ですね。人工太陽も無論地上での使用は禁止されています。あの現象は核融合反応なので臨界、連鎖反応は起こりません。核分裂反応は制御する事が難しく、核融合反応は維持する事が困難なのです。燃料である金属水素がなくなれば即座に反応は停止します』
「宇宙空間での人工太陽による長時間EMP攻撃のためか」
「航空機を封じて陸戦に持ち込むつもりか」
アストライアの説明で、バリーとリックも敵の意図を悟った。
長時間維持できるEMP攻撃とは厄介だ。
『地上のMCSは対策されているとはいえ、上空はそうもいきません。高度二、三千メートル程度が限界上昇範囲となるででしょう。高高度の戦闘機は双方無力化されます。効果時間は数日』
「小型太陽を奇想天外兵器に使ったわけだな」
「奇想天外兵器のスペシャリストはこちらにもいるさ。それに敵の航空機も使えないんだ。こちらにも利はある。うまく利用しよう」
リックはすぐに切り替え、指示を出す。
「向こうのほうが航空戦力は上なんだ。普通なら使うわけないか」
「そういうことだ。マーダーを用いた消耗戦に持ち込むから使用する。それだけだ」
数千機の航空戦力を有しておいて、その利を捨てる戦術を立てる者はいまい。
マーダーは前座と言い切った男の言葉に偽りはなさそうだ。
「哨戒ヘリ部隊。出番だ。出撃せよ。戦闘機部隊は対地攻撃へ切り替え。サンダークラップ隊、忙しくなるぞ」
ヘリは高度三千メートル程度。数は多くないがコウが以前作った電磁装甲採用の哨戒ヘリ部隊や攻撃ヘリ部隊も用意してある。
航空戦力が豊富になり、使うことは少ないと思っていたが、このような状況では活用できるだろう。
「寝ている連中もそろそろ起きる。こちらは海上からアーテーの動きを見張る」
「そうだ。アーテーをどう破るかが鍵だ。これより陸上部隊は準備万端だ。アーテーが視界に入ってきたら始まりだな」
次こそリックの仕事。陸戦だ。だが、攻略の糸口はまだない。
先行するマーダーの群れを対処せねばならないのだ。
そこにリックへ通信が入る。通信部隊のファミリアだ。
「リックさん。ヘリ輸送隊より、裏ボスの試作兵器ホイール・オブ・フォーチュンの使用許可を求められています。今しか使えない兵器だそうです」
「裏ボスの試作兵器は嫌な予感しかしないが、時間もない。良いだろう。映像は流すように」
「了解しました!」
そういって通信が切れる。
「さて、次はどうでる。コウ。また試作プランが勝手に実用化されたシリーズか? タロットでいう運命の輪。どんなものやら」
不安が残るが、今しか使えないという。
どのようななものかわからないが、きっと役に立つと信じることにした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「建築工兵隊から連絡です。目標地点に軌道敷設終了。引き続き、次ポイントへ建設可能です」
フユキにテツヤから連絡が入ったのは深夜だった。
「早いな…… 助かります。次ポイントにまで到達したら、かなり楽になるんです」
「わかりました!」
「深夜です。休息とか大丈夫ですか?」
「なあに。保線は深夜が本番でした。むしろ懐かしいって言ってますよ。みんなね。交代制だし、シルエットに乗っていますし。何よりファミリアたちが手伝ってくれる。ホワイト過ぎて怖いぐらいですね」
「頼もしい。そしてあなたたちの仕事はP336要塞エリアを守るための生命線ともいえる仕事です。お願いします」
「燃えますな。その台詞を現場作業者に伝えておきましょう」
気合いをいれてくれている彼らに、何かしたかったフユキだが、今の彼では何もできない。
「もし何か希望があるのなら、聞きますよ。差し入れとか」
「とんでもないです。あー。でもただ、現場の野郎たちが、一つお願いというか戯れ言いってましたね」
フユキはその戯れ言、お願いの中味を聞いた。
「ふむ。打診しましょう」
「マジですかい!」
「検討に値する案です。士気高揚も戦略の一つ。ダメ元でやりましょう」
「OKなら、連絡ください。楽しみにしてますんで」
「わかりました」
フユキはまず、お願いをコウに打診することにした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
夜が開け始めた頃、ディケやアストライアにいる人間たちが起き始めた。
すぐに朝食を済ませ、戦闘準備にかかろうとするところ、コウとブルーが戦術指揮所に呼ばれた。
コウとブルーはアストライアにいる。メタルアイリスの面々はディケだ。
「どうしたんだ」
「ええ。ブルーに依頼があってね」
「私に?」
予想外な話の流れにブルーが驚く。
「現在、防衛網を作るために軌道敷設を建築工兵たちが頑張ってくれているわ。交代制で、ずっと作業している」
「凄い」
「そんな彼らからお願いがあってね。フェアリー・ブルー?」
悪戯っぽく笑うジェニーに、非常に嫌な予感がしたブルーは立ち上がる。
「私、そろそろサンダーストームに乗らないと」
「話を聞こうじゃないか」
「コウ。裏切ったわね」
「裏ボス命令だな。聞いていけ」
ロバートも薄く笑っている。
「嫌な予感しかしない」
「簡単なお話。出撃したとき、ラジオ放送して欲しいの。建築工兵部隊からのお願いだけど、士気向上のためってフユキから提案があって」
「おのれ、フユキ。覚えてなさい」
「グッジョブだなフユキは。士気をあげるのは大事だ」
バリーも賛同し始めた。
「生放送ならライブ感あるよね」
「無茶振りやめてください。お願いです。サンダーストーム飛ばせない」
「俺飛ばすよ」
五番機を搭載しているのだ。コウにもコントロールする権限はある。
「コウ!」
「裏ボスの許可も出たしね。お願いね、ブルー」
「決定事項にするのやめてください」
「人工太陽のEMP攻撃で電離層が使えないから、ラジオの短波使えないと思う」
『対処済みです。長波と中波で対応します。コウが聞きたいというので』
アストライアの台詞に逃げ場がないと悟る。
「裏ボス命令。ブルーのラジオ聞きたいな」
「黙りなさい。表紙に騙されたナナシさん」
「スタジオはアストライアにあるそうよ。すでにロゼールがスタンばってるからよろしくね」
朗らかに告げるジェニーに、途方に暮れるブルーだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます