軌道敷設装甲車

 現在工兵部隊は、地形に応じた作戦ポイントの指示を行っていた。


 P336要塞エリアは比較的、守りを行いやすい地形といえる。


 北から北東にかけて、山脈がまたがっており、その向こうは海。

 西にかけては陸地はあるが、その先は海があり、その先は大洋が広がっている。

 主に敵の侵攻は地続きである東から南にかけての方角だ。


 P336要塞エリアの森林地帯はフユキによって地雷原と化している。また、ここはセリアンスロープたちによる哨戒が行われており、比較的少数で防衛できるようにしてある。

 敵がくるであろう東が一番計画が必要だ。ここにストーンズの要塞エリアや防衛ドームが集中しているからだ。


 フユキたちは戦闘工兵。最前線で様々な工作を行うのだ。

 多くの新規傭兵や軌道工事者たちは建築工兵として参加している。


「問題はアーテーです。この山脈の麓に簡易拠点を作る予定でしたが、戦闘が予想以上に早く始まりました」

「どの地点なのですか?」


 軌道工事者を取り仕切っているテツヤが尋ねる。

 

「この地点ですね。本来なら山の中腹のここまで線路をここまで延ばす予定だったのです、無理なので郊外に少しだけ延ばすとしましょう」

「へ? 線路を延ばせばいいんで?」

「地下鉄道網はこの地点までですよね? シルエットベース郊外は」


 フユキが予定地点を指し示し、確認する。


「そうです。郊外ですと、トンネルが地下貫通爆弾で破壊されてしまうし、線路も空爆に弱い。工事を遅らせているんですよ」

 

 責任者としては進捗は把握している。どの程度まで工事するか、確認はできていた。


「え? 線路網はレールもトンネルも鉄壁ですよ」

「え?」


 どうやら話が噛み合っていない。フユキは内心しまったと思いながら解説する。


「P336要塞エリアは本来、重工業に適していませんでした。それはコントロールタワーにあるAカーバンクルの質のせいです」

「それは知っています。Aカーバンクルの出力で決まるんですよね。要塞エリアの多くは、規格が統一されている、ってことです」

「はい。ですが何故重工業要塞エリアに変貌出来たかというと、アシアからの助力と、アシアを救出したときにF811要塞エリアのAカーバンクルを抜いて、それをここのものと差し替えたのです」


 これは全てフユキの手柄だ。作戦成功後、F811要塞エリアを制圧し、コントロールタワーからAカーバンクルを抜いて要塞エリアを無力化。トラップを仕掛けて取り戻しにきたストーンズに被害を与えたのだ。

 

「ええ。それは聞いたことがあります」

「で、本来ここにあったAカーバンクルなのですが、裏ボスの許可を得て線路網専用で使うことになったんですよ。ですから郊外計画をばんばん行っていたのですが……」

「まさか。それはつまり……」

「まるっと一つ、要塞エリアを賄うほどのウィスを線路網だけに使っているんです。線路もトンネルもシェルターに近い防御力を持っていることになります。多分1万キロぐらいまでなら伸ばせるぐらいだと」

「なんですと! 私はてっきり、P336要塞エリアのウィスを分け与えてもらっているとばかり」

「最初はその計画だったんですが、一週間前、専用のコントロールボックスが完成したばかりでして。まだ話してしていなかったんですよね。これは私のミスです。申し訳ありません」


 フユキは謝罪した。取り急ぎ、専用のコントロールボックスがシルエットベースの封印区画から送られてきたのでセットしてそのままだったのだ。


「ここまで伸ばすのに、二日ぐらいってところですかね」

「なあ、オガサワラ。これって」


 隣に居る男にぼそぼそと話す。ユウマ・オガサワラは無口で、手で指し示す。両手を広げた。


「十時間ください。十時間でやりましょ」

「ちょっと待ってください。残り延ばすにしても、六十キロ以上はありますよ」

「できますよ。要所のトンネルはすでに貫通済み。排水も換気もすでになされています。あとは軌道を用意するだけです。俺たちには裏ボスが作ってくれた秘密兵器があるんで」

「本当ですか!」

「ええ。やりましょ。五時間二交代で。シルエットと秘密兵器があるんでさぁ。必ずやってみせます。爆撃だけが怖かった。平気なら何も怖くない。おい。オガサワラ。すぐ向かってくれ」

「私からもお願いします。レールがここまで引っ張ってこれたら、必ず有利になるんです」


 オガサワラは頷いてすぐに立ち去る。


「貨車で物資を運べるとはありがたい」


 フユキは胸をなでおろした。鉄道部隊が優秀で助かった。


「ここまで鉄道が切望されているんです。鉄道が人を救うなんて最高じゃあ、ないですか」


 テツヤが笑いながら言った。彼もまた工事に参加するべく立ち上がった。



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆


 

「出発進行!」


 ドリル編隊のレッサーパンダ型ファミリアが装軌装甲車を走らせる。

隣には同じくドリル編隊のレッサーパンダが乗った装軌装甲車が同じ速度で並走している。よくみると、二輌は左右で連結していた。一度に等間隔の複線を敷くのだ。


 一挙に複線のを引いてしまうという計画だ。


 だが、それは異形すぎた。

 全長は百五十メートルを超える、連結車両。


 これがコウの創り出した秘密兵器、軌道敷設装甲車。全自動で軌道敷設を行う作業機械であり、レールと道路両対応の軌陸車だ。ドーザーもついており、必要があれば整地も行う。

 先頭の装甲車が進むと、連結車両がレールを自動的に敷設し、ナノファイバーでできた枕木を設定する。もちろん老朽化したレールと枕木の交換にも対応できる。


 二十一世紀にあった車両をもとに、高速敷設車として構築した、シルエットベースでしか創ることができない敷設装甲車だ。

 その能力は優に五十倍。一時間に五十キロは敷設可能。無理をすれば六十キロも不可能ではない。


「保線車両、シルエット、確認急げ!」


 遅れて保全車両と随伴シルエット三機が動き出す。

 レールはただ敷けばいいものではない。軌きょうの下の隙間を埋めたり、安定させる処理を行う。ウィスで安定するといっても、かなりの重量物を運ぶことになる。保線は行わなければいけないのだ。

 あっという間に敷かれていくレールを、保線車両とシルエットが並走し、確認していく。マルチプルタイタンパーの機能を持つ保全車両は枕木の下に砂利を詰め安定させる機能を持つ。


「軌道の空爆や、トンネル破壊を気にしなくて良いとは…… さすが未来だ」


 随伴するシルエットに乗っているユウマもまた、未来での列車の可能性に惹かれてやってきたものだ。


「整地までしてくれる敷設軌道車。全自動でここまでやってくれるんだ。十時間で出来なきゃ鉄道屋失格だ」


 問題はカーブである。だが、二十一世紀の日本とは違う。MCSが計算し、ファミリアがサポートしてくれるのだ。

 線路曲線を計算し、カントをわずかに付ける作業もあるが、難所といえるものはないと言っても過言ではない。


レールはウィスと電流を流す。列車の車体は蓄電方式だ。第三軌条サードレール方式ではなく、二本の軌条で完結している。列車の車輪に取り付けられたコレクターシューで軌条からウィスと電力を吸収する。

 架線と集電装置パンタグラフを必要としない列車運用が可能なのだ。装甲列車などは軌陸車も兼ねてリアクターを積むだろう。


 最大の問題はレールの補充。だが、この惑星にはシルエットがある。

 彼の同僚や部下たちが後続車両で待機し、レールがなくなる頃合いに運んでくるのだ。補充作業はシルエットで十分もかからない。

 電圧による事故も気にしなくて良い。快適な敷設作業だ。

 

「補給隊、準備は?」

「こっちは指示された積み込み作業順調っすよ!」


 MCSで要塞エリアにいる仲間と連絡を取る。


「未来に続く軌道を敷くか」


 ユウマは呟き、先を走る軌道敷設装甲車を追うように進んで行った。

 

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