閑話 返礼品
鷹羽兵衛は自室である会長室にいた。肩にはファミリアのハイタカ、たー君が留まっている。
アクシピター強奪事件から、当然だが機嫌は良くない。
そんな中、社長である川影がやってくる。
「会長。P336要塞エリアのメタルアイリスにシュライク40機、ラニウスA1を12機と、頼まれていたラニウスB用試作強化パーツを納入したのですが」
「大口の顧客だ。大事にしてやってくれ。まだまだ納入しないといけないからな」
「返礼品と、手紙が届いております。これを」
「なんだと?」
川影が手紙を差し出す。
素早くもぎとり、宛名を見る。
萬代屋杲、とだけ書かれていた。
コウとは図面のやりとりだけする間柄だ。シルエットベース所属構築技士としか名乗ってくれないのだから仕方ない。
『ご無沙汰しています。萬代屋杲です。このたびは多大なるご支援感謝いたします。
つきましては会長の為にシルエット用の刀を用意しました。是非一度使っていただければと思います。
また今回は、私が設計したシルエット運搬用攻撃機サンダーストームを提供いたします。金属水素炉精製型シルエットを用いてご利用ください。
近いうちに伺いたいと思います。
もし修司さんがアシアに居られて会長のもとにいるならよろしくお伝えください 』
「そうか…… コウ君。修司のことは知らないんだな」
さみしそうに呟いた。事実を知れば、どれだけ残念がることだろう。
「返礼品とやらは?」
「会長のアクシビターの足下に用意しています。今から行かれてはどうでしょうか」
「おう。いってくる」
嬉しそうに格納庫に向かう兵衛を見送りながら、川影は微笑んだ。
大量発注に、兵衛の機嫌が一変する返礼品。メタルアイリスは救いの神そのものだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
青く塗装されたアクシビターの足下に、白木の箱が置かれている。
セルロースナノファイバーで作った箱だが、雰囲気がでている。
隣にはTAKABAのイメージカラーであるブルーに塗られた重攻撃機が二機用意されてあった。
すぐにアクシビターに乗り込み、箱を開けると大小の刀が出てきた。
シルエットサイズの打刀を手に取り、一気に抜く。
素材はタングステン系の合金であることは予想できた。重量は見た目以上にある刀だった。
「こいつぁ、業物だな。どこの匠の仕事だよ」
思わず感嘆の声を上げた。
まず、軽く素振りをし、全力で振ってみる。
振るった刀は白光を物理的に発し、兵衛を驚愕させた。
「おい、こいつは特別なギミックか何かを使っているのか?」
思わずMCSに尋ねる。
『使っていません。ウィスを通しているだけです。原理は不明ですが、ある程度の加速でプラズマをまとうように設計されています』
愛機のMCSからの解答だ。ラニウスより前の一番最初からずっと同じMCSを使っている。
「おい。すまねえが合板を持ってきてくれ。試し切りしてえんだ」
遠巻きにみている社員に声をかける。慌てて作業用シルエットが、合板を持ってくる。
作業用シルエットのウィスを使った、高次元投射装甲にも使われる合板だ。
一瞬で切り裂く。易々と、それこそ紙のように。
「なんてぇ切れ味だよ…… コウのヤツ、すげえもん寄越してきやがったな」
「会長。合板をもっと厚くしますか?」
作業員がおそるおそる声をかけてくる。
「試したいことがある。細い棒を、建物に接続してくれ」
「まさか? Aカーバンクル構造材ですか!」
「いきなり、刀が折れることはないと思うんだがな。いけそうな気がするんだ」
「わ、わかりました」
Aカーバンクル。兵器に搭載されるような純度の低いAスピネルとは違う。
桁外れに強い持つウィスを放出し、要塞エリアのシェルターや宇宙艦を強化するエネルギーだ。
果てしてこれが斬れるのか――
兵衛の行うことに興味を持った社員が集まる。川影の姿もあった。
支柱の準備が整う。ウィスさえなければただの鋼材だが、Aカーバンクルのウィスを投射されているとなると強度は桁違い。戦車の装甲材より遙かに強固なものとなる。
アクシビターの刀が閃く――
発光を発し、わずかな金属音のみを残し、袈裟切りにされていた。
TAKABA社内にどよめきが広がる。
「こいつぁ、スゲえな」
成し遂げた兵衛自身も、信じられなかった。斬ってみて分かる、しなやかさもある。日本刀の感触そのものだ。
「おい。こいつの解析、やれるか」
「やらせてください!」
「できるだけ削らない方向で頼むわ」
「もちろんです!」
社員の作業機が恭しく刀を受け取ると、研究室に飛び込んだ。
関連する社員たちも慌てて移動する。
「こりゃ頭を下げてでも、この匠に製法を尋ねたいものだ。遠い未来で匠に出会えるとはな」
兵衛はもう一方の脇差しサイズの刀を持ち、飽くことなくいつまでもその刀身を見入っていた。
「会長! お忙しい所申し訳ありません。来客がありまして…… 緊急なんです」
「なんでぇ。そんなに急ぎってことか? ちいと待たせてくれ」
名残惜しそうに、脇差しを鞘に納める兵衛だった。
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