部隊編成と新型量産機『ラニウスA1』導入
P336要塞エリアでアリステイデス級で緊急会議を開くことになった。
アシアとディケの予測を、全員に話す。アストライアは秘匿しているので、ディケにしたほうがいいのだ。
「敵にA級構築技士。そして膠着状態、か。確かにストーンズの侵攻は急に止まった。疲弊した戦力回復にしても、何もなさすぎね」
「要塞エリアやドームの勧誘に精を出しているので攻撃を控えていると思ったら、戦力増強中ということか」
ジェニーとロバートも納得する。ここ最近、ストーンズは大人しすぎた。彼らの奇襲が衝撃的だったというのは表面上のことだろう。
「敗北にショックを受けていると見せかけてせっせと生産中か。ほんと嫌になるな」
バリーがため息混じりに呟いた。
「裏ボス、どうするつもりだ」
「こっちも生産する。性能が互角に近くなる以上、相手が数を用意するなら同じく数で対抗する。傭兵も引き続き募集だ」
「過剰なぐらい集めていないかと傭兵機構から嫌味言われたけどね」
「敵の意図が混じっていたら、それぐらい言うだろう。だいたい斡旋する中抜き業者が雇用者に文句言うなよ」
地球であまり良い印象がない請負業務会社を思い出し、コウが思わず毒突いた。
「正論。ディケ、つながっている? 雇用する数の制限に関して、オケアノスは何か意見はあるの」
『接続しています。オケアノスからはそのような制限はありません。越権行為とも取れる発言です』
「ですよねー。傭兵機構は、敵じゃないが味方でもない。死の商人ぐらいに思っておこう」
茶化したようにバリーがいう。
「とはいってもマーダーが数万、数十万だってありえるかもしれない。こちらは人も物も限られている。キモンとアリステイデスに所属する部隊の兵器はできるだけ統一、共有化していこう」
「ばらばらの個人傭兵の装備と試作兵器群だけしゃ戦争はできないよな」
「アンダーグラウンドフォースが個人傭兵の集まりだったからな。母艦前提運営のフォースなぞ、今まではありえなかった。母艦に積める機材にも許容量はある。我らほど共通化が要求される組織はなかろうさ」
「だからさ。部隊編成と新型量産機導入の話を皆にしたい」
リックがコウの言葉に嬉しそうに頷く。
「エース機用にラニウスB、タキシネタ、バズヴ・カタ、エポナ、サンダーストームを揃えるなんて、普通のとこじゃまず無理ね」
ジェニーが思わず笑ってしまうほど、戦力が豪華だ。
「むしろ、通常部隊装備のリスト。なんじゃこりゃ。艦載機用シルエットにラニウスA1、基地隊員用には新開発の量産機シュライクだぁ?」
キモン級やアリステイデス級には搭載限界が当然ある。正式隊員のなかでも優秀かつファミリアと相性が良いものが選ばれるのだ。
「ラニウスA1は装甲筋肉採用の金属水素貯蔵タンク搭載。シュライクはTAKABAと共同開発した、ラニウスを簡略化した量産機。装甲筋肉じゃなく機械構造のみで電磁装甲採用機。部品はほぼ共通だ」
「ん? 汎用性の高いファルコじゃないのか。そういうところで私情は挟まない奴だと思っていたが」
バリーの指摘に、コウが苦笑する。
「私情ってなんだよ。電磁装甲採用機が普及につれ、射撃武器の有効性が低下し近接格闘能力の拡大が求められているんだ」
「ふむ。二十世紀の米軍ではミサイル万能論が蔓延し、ベトナム戦争時に敵戦闘機によるドッグファイトでこっぴどくやられた経験があるな。後の戦闘機には格闘戦技術の見直しと、ミサイルがどれほど進化しても機関砲は必ず用意された」
リックが理解を示すため、話に入ってくる。
「そうかあ。何故電磁装甲だけ普及して射撃武器の技術が向上しないか謎が残るが、言われてみたらそうだな」
「シルエット戦闘を斬り合いにもっていこうとする者の意図を感じるが、触れないでやるのが情けだろう」
触れてるじゃないか、と内心コウは冷や汗ものだが、二人は納得したようだ。
「支給シルエットまだまだあるな。ライセンス生産の機兵戦車と専用シルエット。って専用も完成したのか」
「ああ。追加装甲で対応はできるから、機兵戦車が中心だけどね」
バリーが指摘する。機兵戦車イエマーと専用に開発された重シルエットのヘイフーをライセンス生産させてもらうことにしたのだ。
ライセンス生産の名称はそのまま英語からワイルドホースとブラックタイガーにしている。
「工兵部隊用には戦闘工兵用カレドニア・クロウと、建築工兵用にバトルペッカーを用意している」
「本当に工兵用機体を作ってくれたのですね。ありがとうございます!」
フユキが驚く。バズヴ・カタは戦闘が苦手な工兵部隊には勿体ないと思い返上したのだ。今は特殊部隊と、クルト社社員用に使われている。
マールとフラックが使っている作業機ウッドペッカーが想定以上に細かい動きを求められる工兵機に向いており、現場であんな機体が欲しいと切望されていたのでコウに相談したのだ。
カレドニアクロウは、唯一道具を作るカラスからきている、バズヴ・カタの工兵用機。装甲筋肉採用機の欠点である積載量を強化している。
ペッカー。キツツキの他につるはしを持つ人という意味もある。バトルペッカーは前線で補給、建築作業用に使うラニウスA1の工兵機だ。
日頃世話になっているフユキに対し、何かお返ししたいと思っていたコウは工兵機を構築していたのだ。
「クアトロワーカーの数も大量生産中。さらに戦闘用エポスを二百機はすでに完成。軍艦二隻用でこれだけ用意するって」
人間なら人員のほうが不足するだろうが、P336要塞エリアにはファミリアとセリアンスロープ、そしてネレイスも大量にきている。
それらを計算にいれた装備一覧だ。
「電磁装甲採用の主力戦車、装軌装甲車、装輪装甲車三種に、通常装甲を用いた軽装甲車両の半装軌車はファミリー化済み。ユニット換装で対空、間接射撃も十分考慮しているな」
「電磁装甲車両は最初から構想にあったよ。今話した兵器の調達は7割終了している。あとは時間との勝負かな」
「かなり前から準備していたな、コウ。つまり、君は前もって構想だけは出来ていた。それを前倒ししたということか」
「そういうことになるのかな。漠然とした構想だったんだが。これらはあくまで艦載装備。本命はファミリア地上部隊と傭兵部隊、それらを支える兵站計画。兵站のほうは出来ている」
資料を皆に転送する。
「俺が考えつくのはここまでかな。ディケにサポートしてもらってようやくこれぐらいだ」
「よくやったよ。鍛え上げたら良い前線指揮官になりそうだが」
リックが怖いことを言うので、コウは慌てる。
「俺には向いていないよ。次に航空戦力だけど、これがどれだけ揃えられるかが勝負になると思っている」
「敵も用意しているでしょうね。私達が活用しすぎたのもあるけど」
「ストーンズはせいぜい虫系のマーダーを飛ばすぐらいしかできなかった。それが現在はジョン・アームズの技術そっくり渡ってしまい、各地に大型金属水素生成施設を作っている。間違いなく活用してくるはず」
「航空戦、か。空がまた戦場になるとはなあ」
惑星アシアにいる人類はシェルターに守られた居住区の住人だ。
宇宙塵に対する防御のために超技術で作られたシェルターへは爆撃効果がなく、またシェルターへの直接攻撃はオケアノスが管理する衛星砲の対象となる。
陸戦がメインになる理由の一つでもあった。
だが部隊展開が大規模になるほど、航空作戦は有効となる。
敵味方ともに、高次元投射装甲を装備しているわけではないのだ。
「現在は多目的戦闘機スターソルジャーをスカンク・テクノロジーズから提供、ライセンス生産の許可ももらっている。現在アリステイデスに90機、キモンに200機用意。P336要塞エリア用に現400機。シルエットベースとアイギス社に増産を依頼している」
「それでも足りないか? いや、足りないんだろうな」
バリーが敵要塞エリアを一覧を見る。
「生産は攻撃機中心にしてあるんだ。制空権を取った場合の攻撃機としてはサンダーストームが12機、サンダーストーム量産型のサンダークラップが100機ちょい。シルエット運搬は諦めて一回り小型化、ファミリアが搭乗できるようにしてある」
「制空権がない重攻撃機は的だからな。戦闘機中心の量産でいい。対地攻撃もできるからこその多目的戦闘機なんだからな。空戦となると、相手がどこから来るか、だが……」
この大陸の見取り図を取り出す。
「敵が戦力を集中させて攻撃してくるならQ019とQ221要塞エリアと軌道エレベーターがあるR001要塞エリアか。P336はこの三つの要所という理由だけで重要拠点だったからな。重工業地帯はあらかた制圧している。マーダーでは無く、兵器運用に転換するとなると……」
「向こうもそこまで人員はいないだろう。いくら傭兵でも人類の敵ともいえる勢力に、そこまで人は集まらない」
ロバートの指摘にバリーが首を横に振る。
「いるさ。――ナノマシンで意思を奪われた人々がな」
「そんな、今までは!」
「今までは航空機が貧弱だったから運用しなかっただけだ。こちらも使っていなかったわけだしな。それなりに使えるものになれば、惜しみなくパイロットとして投入するだろう」
ファミリアもいない勢力で、人間をヒトと思わない戦略ならば、自分ならばそうするだろう。
今まで空の兵器は効率が悪かった。格安撃墜問題だ。解消されたならば、洗脳した人々を使うだけ。
「こちらもファミリアへ依存度が高まる。可能な限り最適なものを用意したい」
彼らに手助けしてもらっている。使い捨ての兵器にしてはいけないのだ。
「クルト社が開発した戦闘機ファルケも増産を依頼している。現在生産ラインを変更したばかりで八十機程度。あとはこの侵攻予想情報をA級構築技士で共有し、何かあったときに備えるだけか」
コウが全ての説明を終えた。
「俺からは以上だ。こことシルエットベースを使って生産するしかないが、総力戦になる可能性も高い。だが、ここで迎え撃たないと全域を支配される。皆の力を貸して欲しい」
「――そこで提案があるんだけど、コウ君」
「言ってくれ」
「今回の件、総司令官を任命するべきだと思うの。戦術、戦略レベルに強い人をね」
「ジェニーとリック以上の人材がいるなら、そりゃあ……」
「いるんだよ、コウ。とびっきりの切れ者がな」
ロバートがにやりと笑った。
「バリー。そろそろ本気を出せ。もう禊ぎは済んだだろう」
「バリー?」
コウがバリーのほうをみると、彼は困ったような顔で鼻をかいていた。
「彼はね。ランディーが自分の作戦で死んだことを気にして、前線で兵隊をやってたのよ。普段は本気を出さないくせに、とびっきりの戦術家。たった数機のベアでアンティークを追い込む程の、ね」
「もう錆び付いてらぁ」
「私とコウを助けると思って、お願い」
「俺からも頼む。ディケ。艦長変更だ。アリステイデスの艦長を俺に。キモンをバリーにだ」
『了解しました』
「ボブ、やめろよ。突っ込むほうが俺にはあってんだよ!」
「総力戦が終わったら元に戻ればいいさ。今は適材適所だ。それこそ、お前が突っ込みたがる要素は減らさないとな」
ロバートの熱意とジェニーの期待の瞳に負けたのだろう。
ため息をつきながら請け負った。
「はぁ。わかった。コウ。隊長はジェニー、あくまで総指令が俺ってことでいいか」
「ありがとう、バリー」
「俺の指揮で多くの人もファミリアも、セリアンスロープも死ぬかもしれないんだぞ?」
「俺がやったらそれこそ全滅だ。信じるよ」
最近、同じ事を言われた気がした。アストライアだ。
「采配次第で人が死ぬ。お前の大事な人もな。恨むな、とはいわん。だが、指示には従え。それが守れるか?」
「……ああ」
「わかった。ま、恨み言言われるのは慣れているからいいけどな。早速だが、ジェニーは航空隊隊長。ボブ、アリステイデスはこの要塞エリアに置く。フユキ。工兵部隊の指揮は任せる。地上部隊全体はリック。頼んだ」
「了解だ、バリー司令官」
他のメンバーも同意する。
「コウ。お前は好きに動け。アシアを通じてお前にしか見えない、もしくはお前にしかできない役割が出てくる可能性がある。ブルーと一緒に行動しろ」
「わかった」
「にゃん汰。クアトロ隊は任せた。アキ、お前はコウからの指示や、コウしかわからない情報をサポートしろ。シルエットには乗るな。キモン級でオペレーターだ」
「わかりました」
「了解です」
バリーが引き受けた最大の理由はコウだ。コウは身内には非情になれない。兵の損耗率などという空虚な言葉に耐えられるわけがない。
皆を見渡し、告げる。
「俺が司令をやることになっても、やるべきことは変わらない。常に情報を集め、戦力を増強。情報は速やかにこのメンバーで共有だ」
「やる気じゃないか」
「アシアにきたばっかりのヤツがここまで頑張っているんだ。俺も何かしなきゃ、な。コウ、アキ、ブルー。この会合が終わったら集まってくれ、自軍の戦力を再確認せにゃいかん。ディケ、サポートを頼む」
『了解しました』
「やるからには、勝つさ」
バリーはつまらなさそうに呟いた。
その言葉の裏に、強い覚悟を秘めて。
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