TSW-R1Aラニウス改

 シルエットベース。山岳内巨大基地はその名で定着しつつあった。


 ジェニーとメタルアイリスの名で傭兵機構には登録されてあった。ディケが手続きを済ませたのだ。

 新たな人類の拠点が構築され、宇宙艦と拠点を所有している最大規模のアンダーグラウンドフォースが誕生したのだ。


「視察というか、監査来るってさ。傭兵機構。気になるみたいだね」

「取り上げられたりしないのかな」

「アシア直轄、特別代表で私だから無理じゃないかな」


 コウ、ジェニー、フユキは戦闘指揮所内でミーティングしていた。


「傭兵機構も大混乱していたみたいね。とくにこのキモン級で」

「人材の引き抜きや、略奪したわけじゃないのに大げさだな」

「喪われたはずの惑星間戦争時代の高性能艦と、まったく未登録の基地がいきなりストーンズ勢力内に現れたらパニックになるのは当然かな」

「この周辺敵勢力内なんだよな。ファミリアたちが哨戒に当たってくれている」

「早めに全部、制圧したいね」

「全部はしないよ?」

「どういうこと?」

「ディケ。周辺の地形地図を出してくれ」


 ディケは周辺地図を表示する。


「ここは山岳要塞だから、側面を取られる心配はない。場所も離れている。支配されている防衛ドームは七カ所。要塞エリアは三カ所だ」

「思ったより敵の勢力内だね。無理な攻勢は危険か」

「それもあるけど。それこそここは強固な拠点であり、無人の防衛ドームが多い。マーダーが偵察にきたら傭兵の新人研修の場にいいかなって」

「無限湧きするマーダー相手に練習しろとか、凄い発想ね。いいかもしれない」

「コウ君。ゲーム脳すぎやしませんか。初心者村でレベリングですか」


 ジェニーは感嘆し、フユキは発想の元ネタを知っているので呆れている。

 バツが悪そうに苦笑する。


「油断はできないさ。ただ、シルエットベースただでさえ人数少ないし、ベテランを育てないと。無理に戦線拡大するよりはね。もちろん落とせる要塞エリアは落としておきたい。今のままだと補給ラインもないし」

「安全な補給ラインのためには要塞エリアをせめて二つ落としたいところね」

「一つでもかなり変わるでしょう」


 三人は攻略対象の選定でしばし会話を続けた。


「でもちょうど良かったかも。念のため、外に駐屯地を作っているわ。動力はAスピネルの安物だけどね。ここに小隊を置いて見張りをさせてるの。コウの言う新人研修の用途にはちょうどいいね」

「防衛ドームの十分の一ぐらいの規模か。村みたいな?」

「そんな感じ。補給物資も置く。山の近くだからすぐに駆けつけることもできる」


 ジェニーはさっそく手際の良さを発揮していた。


「ストーンズにシルエットベースは感知されていないはず。出入りは地下水路経由で海底移動だもの。ここは住居エリアとしても登録されたばかりだからね」

「オケアノス経由で把握しているだけか」

「詳細情報まではいってないはずだわ。駐屯地を作っているから、敵からの偵察や陽動はあると思う」

「了解。じゃあ今はファミリアの哨戒任務。新人傭兵を募集次第、この任務に当たろう。それまでは交代制で確認次第排除だな」


 方向性を確認しつつ、現状を確認する。

 シルエットベースは施設や兵器こそあるが、人もパイロットも足りない。

 ありがたいことに資金は豊富にある。アシア救出報酬が合算で支払われた格好だ。

 

「紅信さんも明日には輸送機で来るそうですよ」


 フユキが端末を確認しながら報告してきた。


「紅信さん動き速すぎないか。連絡してまだ二日だろう」

「総合商社はそういうものです。話次第では支部を置きたいそうですよ」

「そうなるか。オーガナイザーとやらを発揮してもらうのがいいんじゃないかな」


 都市計画までやらないといけなくなり、コウは頭が痛くなる。

 ここは得意な人間を外部から引っ張ったほうがいいだろう。


「補給ラインがないからな。当面キモン級に頼りっぱなしになりそうだ」


 アストライアでも良さそうだが、彼女が言うにはキモン級よりも秘匿したほうがいい艦らしい。

 ならば輸送能力も高いキモン級を活用したほうがいいだろう。


 アシアにもらった強襲揚陸艦は隠してある。キモン級だけでこの反応なのだ。

 あと二隻もあるといったら、コウの頬がなくなってしまう。


 必要なリストや要望リストの山をみて、ため息しかでなかった。 



 ◆  ◆  ◆  ◆  ◆



「コウ。そろそろ用意が出来たぜ」


 封印区画から地下の工廠に移動していた彼らは、完成した機体を見つめていた。


 五番機の改装が終わったのだ。


「これが新型のラニウスか」


 新しい姿のラニウスは、基本の姿は変わっていない。

 手足に車でいうエアロのような形状になっていた。エアインティークではなく、ダクトだ。他の相違点は背中が一回り盛り上がるような改修になっている。

 

「TSW-R1Aラニウス改ってところだ。これが基本系のラニウス、普及型となる基本ベースだ」

「おい、コウ。Aはどっからきた!」

「alterationのA。一応前から考えていた……」

「ラニウスオルタだな!」

「ラニウス改だ! なんでオルタって縮めるんだ」

「えー。日本だとオルタにすると反転とか闇墜ちっぽくなって格好よくなるってデータがあるぜ」

「闇墜ちっぽくてなんだ。ラニウス改!」


 そんな二人をにゃん汰とアキが眺めている。


「あの二人、本当に息がぴったりですね」

「男同士気が楽なんだにゃ」

「こっちは異性というアドバンテージをどう生かすか……」

「コウとあれだけ二人きりだったのに、進展がないアキは絶望的にゃ!」


 エメが二人の横に通り越し、コウとヴァイのもとへ歩み寄る。


「コウ。私のシルエットは」

「ああ。少し待ってくれ。ちゃんと設計中だ」


 エメがこくんと頷いた。放置されていないならそれでいい。


「ラニウスはこの次が本命かな。今はTSW-R1Bを研究中でね」

「なんで一緒に作らないの?」

「まだしっくり来なくてね。AとBの違いは胸部とパワーパックかな」

「前のラニウスと、このラニウス改の違いってなあに?」

「装甲材と人工筋肉を新素材、あとは各地の構築技士に提案する予定の次世代規格を採用しているんだ」

「エメのシルエットもその規格で作るんだぜ。ちゃんと進んでるから安心しな」

「楽しみ」


 エメとコウはラニウス改となった五番機を眺める。


「大改装した割に基本構造そのままだもんな。胴体は装甲材の変更。背中だけはちょいいとじったが。手足は交換前提設計だ。どうせ作り替える」

「設計に余裕を持たせたんだろうな、兵衛さん。様々なバリエーションも想定していたはずだ」

「今、アルゲースが作っているカタナもB型からなの?」

「刀は完成次第かな。シルエット用の刀がついに実戦投入が実現しそうだ」

「投入といえば、今日の夜、行くか?」

「ああ」

「行くってどこへ?」

「敵の哨戒もやってきているようだ。こいつのテストを兼ねて行ってくる」

「気をつけてね」


 コウは頷いてエメの頭に手を置いた。

 構築技士としてコウが始めた手がけた機体だ。

 初の戦闘はやはり楽しみだった。

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