半神半人

 X463要塞エリア跡地に、巨大な宇宙船が飛来したのだ。

 それも、たった三名を乗せるために。


「俺たちは堆肥の原料かね?」


 バルドはアルベルトに尋ねる。

 今まで何の沙汰もなかった。


「まだ利用価値はあるのではないのかな?」


 この件については二人は運命共同体だ。しかし、バルドはまだ封印区画の秘密には気付いていない。


 二人がコントロールセンターの貴賓室で身構えていると、三人の人間が入ってきた。

 三人とも大理石のように白く、美しい。男性二人と女性一人だ。純白の衣をまとっている。


 三人は用意された椅子に座り、彼らを見ろした。


「これは半神半人ヘーミテオスの皆様。ご機嫌麗しゅう」


 ヘーミテオス。ストーンズの意思をインストールされた人間だ。

 彼らはストーンズの人間管理集団『アレオパゴス評議会』から派遣されたのだ。

 中央に座る男が冷笑を浮かべる。


「麗しくはないな。大目標である構築技士の阻止に失敗したお前たちに会いにきたのだから」

「これはご冗談を。確かに構築技士阻止には失敗しましたが、彼らは撤退しましたぞ。その証拠にここはまだ爆破されていない」


 アルベルトが異議を唱える。


「お前たち無知なものと話すには疲れる。お前たちは確かに失敗したのだ」

「アシアを救出されたからでしょうな。正確にはアシアの一部でしょうが」


 すっと男が目を細める。バルドは口をあんぐり開けた。気付いてなかった。アシアがこの場所にいたことさえ初耳だった。

 アルベルトがこの結論に辿り着いたのは簡単だ。人類側の勢力でアシア救出の報が回っている。ならばそれはX463城塞エリアを攻めてきた者たちの仕業だろう。

 封印区画は、まさにアシアが封印されており、構築技士が解放したのだ。

 メタルアイリスという中堅の傭兵集団と、ストームハウンドというファミリアが中心の傭兵集団と聞く。それならば、あの戦車の数も納得でき、事実の裏付けとなる。


「その傭兵の様子をみると、察しているのは貴様だけか。アルベルト」

「そのようで。何故爆破されなかったかは皆目見当が付きかねますがね」

「ふん。話す手間が省けたわ。無知ではあるが馬鹿ではないことは良いことだ。アシアが巧妙な偽装をしたのだよ。ソピアーに生み出された超AIなのだ。それぐらい容易いだろう」

「しかし、たかが数分の一のアシア。ヘーテミオスの方々の敵ではないのでは?」

「我らがアシアを完全に封殺するために何十年かけたと思っているのか!」


 隣にいた女が怒鳴る。


「騒ぐな。見苦しい」


 男が一瞥すると、女が睨み付けた後、黙る。


「アシアを奪還された今、我らの百年以上の努力が無為に終わった。方針変更せざる得ない。お前たちには、身を粉にして働いてもらうぞ」

「承知いたしました。何をなさるので?」

「戦術とは、相手の一番嫌がることをする。そうだな、傭兵?」


 突如話を振られたバルドは、こくこく頷いた。


「お前らに悪い話は何一つないぞ。人間の自治権範囲を広め、豊かに暮らしてもらうことになった」

「へ」


 バルドは思いもがけぬ言葉に間抜けな返事をした。誰も気にしていない。


「そして生き延びたい人類を我ら側に招致し、我らのために戦ってもらう。――アシアの一番嫌がること。人間同士で殺し合ってもらうとしよう」

「そ、それは」

「もちろんマーダーとの連携はしてもらうがね。予想するに、彼らの戦力は飛躍的に向上する。その対策もせねばならん」

「どのように?」


 アルベルトが目を輝かせながら尋ねる。まさに彼が望んでいた状況になってきた。


「そっくり奪うのさ」


 冷笑を浮かべ、中央の男が告げる。


「ハクノン。こやつらに教えてもよろしいのでしょうか?」


 ハグノンと呼ばれた男は、隣の女性を一瞥する。


「どのみち彼らには最前線に立ってもらわねばならない。役に立ってくれるんだろ?」


 最後の問いかけは二人に送られたものだ。


「もちろんですとも」


 アルベルトは請け負った。その見返りは十分だ。


「十分な戦力は揃えてある。お前の作品とやらにも総動員してもらうぞ」

「それは願ったりですな」


 そう答えておいて、しかし、とアルベルトは思う。

 内側に入ってこそ理解できたこともあった。


 決してストーンズ側の物資も盤石ではない。一番の戦略物資である、Aスピネル、Aカーバンクルがその例だ。

 この二つは人間の支配下にある居住施設にしか提供されない。つまり、ストーンズはネメシス戦域で戦線を維持するためには備蓄を切り崩すか、略奪でしか奪えないのだ。

 それはリュピアを壊滅させてなお、いや。かの惑星を壊滅させ支配下に置いたからこそ、顕著な傾向となっている。もし彼らが単に惑星を支配下に置きたいだけなら、リュピアだけで我慢するべきなのだ。

 だが、彼らは超AIを支配下に置く、という目的がある。


 ただでさえ、無人兵器は破壊活動が主たる任務。

 ストーンズ側もかなり焦っているという証左だ。


「評議会から命じるまでお前たちは待機だ。戦力拡充に努めよ」

「はっ!」

 

 二人は恭しく頭を下げ同意した。生き延びることに成功したのだ。


 三人は退席し、宇宙艦に戻っていく。


「よぽどまずい状況だったのだな」

「人間への自治権を拡大するっていうぐらいだからな。俺としてはくいっぱぐれることはなくていい」

「この均衡状態が崩れて何が起きるか、皆目見当がつかんよ」


 二人は来たるべき大乱を予感したのだった。



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