超重戦車
進軍するメタルアイリス連合部隊に対し、敵の防衛網に入ってから攻撃が始まった。
目標の要塞エリアから五十キロほどの距離。
進路を塞ぐように衝撃波と砂塵が舞い上がった。
地形がえぐられている。
「これは?! 戦車砲ではなく惑星間時代の戦艦クラスだとっ。全軍散開っ!」
リックが緊迫した声をあげる。
まとまって行軍していた彼らは、当初決められた部隊編成ごとに別れることになる。
ここからは部隊長の指揮下となるのだ。
散開といっても、ある程度はまとまって動くことになる。
戦力を分散するという意味ではない。各部隊ごと、行動指針に沿って、最適化された行動を行うということだ。
レーダーは封じられ索敵範囲は非常に短い。長距離通信もままならぬネメシス戦域ではひどく原始的な戦闘を強いられる。個々の判断は重要だ。
「ここは陸地。ひょっとして宇宙戦艦とか宇宙空母持ち?」
「宇宙空母ならばこの地点からで目視できるはずだ」
その間も砲撃が続く。
連射能力はないようだ。
リックの部隊はもっとも最短距離に近い経路で迂回し、進軍する。
再び先行した偵察部隊が、謎の砲撃手をついに捉える。
「ジェニー。わかったぞ、敵の正体が。あれは――超重戦車だ」
「え?」
「あの形状、間違いない。どこぞの
敵の正体が判明し、リックは吐き捨てる。
「積んでいる砲は、惑星間戦争時代初期の艦船用中口径レールガンを大雑把に乗せた物だ。155ミリレールガン。戦車でも一撃だろう」
「まずい状況ね」
「機動力はほとんど死んでいる。艦載砲はさほど連射もできない。あんな機甲の黒歴史、私が葬ってみせる」
かつて地球では計画されては潰えた、超重戦車。
自重で地面に沈んで使い物にならず、舗装道路は破壊してしまう機甲の鬼子。
履帯が四本見える。二本では厳しかったのだろう。
ネメシス星系での技術、そしてウィスによる道路補強が、超重戦車が生まれる余地を生み出してしまったのだ。
「砲口径は思ったより大きくはない。砲撃から着弾時間を計測しても、二分程度。出力不足だ。張りぼてとみるべきだろう」
リックは分析する。155ミリは惑星間戦争時代の艦載用としては中口径だが、超重戦車ならばもっと大きな砲が搭載可能なはずだ。
問題は弾頭と撃ち出すためのエネルギーなのだ。あれ以上大きな砲では補給も大がかりになるだろう。弾数を稼ぐためとリックは判断する。
あの戦車の役割は壁なのだ。継戦能力重視とみるべきだろう。
「中味ぎっしり詰まってたら張りぼてっていわなくない?」
「意外とつまっていないかもしれないぞ。シルエットの楯代わりかもな」
「それならわかる。じゃあ今の攻撃は牽制ってとこかな」
「間違いないな。ジェニーは飛ぶんじゃないぞ。空中のシルエットなどレールガンの的だ」
「わかってる。ここはじりじりと近付いていくしかないね。攻撃側ってあまり経験ないのが辛いところ」
「それは私たちストームハウンドも同じさ」
要塞エリアや防衛ドームを守るための傭兵だ。攻勢に回る経験を持つアンダーグラウンドフォースは珍しい。
「まずは距離を詰める。牽制とはいえ、一方的に砲撃を受けるのは面白くない。敵防衛戦力は超重戦車を中心とした、通常の主力戦車を編成した機甲部隊。護衛にシルエットがいる。先行隊としてマーダーが我らの殲滅にくるだろう」
「マーダーは駆逐するとして。シルエットの露払いは私達ね」
「メタルアイリスと、我らの支援車両で歩兵代わりの護衛を蹴散らしつつ、あの防衛網を突破する」
思わぬ敵戦力の登場も、彼らはすかさず作戦の修正を行う。
現在は時間稼ぎであろうケーレスがこちらに向かっていた。
「虫型マーダーの機影発見。ケーレス多数確認! アント型総勢三十、マンティス型一、交戦距離に入りました!」
通信車より緊迫した声が全軍に流れる。
「蟻とカマキリが群れてきた。戦車隊、前へ! 支援車両は迂回を心がけよ!」
リックの号令とともに、ケーレスとの戦闘が始まった。
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