PM1:14

 さて、気が付けば重箱は絶滅していた。いや、俺が喰いつくしたんだが。人間、やってみれば出来るもんだ。


「弁当、ありがとな。美味しかったよ」

「それは良かった……よければ毎日作ってきましょうか?」


「へ? いや、これは今朝の事の謝罪だって話だったよな?」

「そうですけど、こうやって美味しく食べてくれると私としても嬉しいので」


 重箱を片付けながら、生徒会長は少し恥じらいながら言った。


 う~ん、その提案自体はありがたい。


 美味しいし、昼飯代が浮くし、こうやって生徒会長と色々話が出来る。これまでの淡白な昼休憩よりもかなり充実することは確かだろう。


 けど、生徒会長みたいな美人と毎日昼飯を食っていたら、間違いなく何らかの噂が立つ。生徒会長のファンに何をされるか分かったもんじゃない。


 それに何より……おかしいだろう、こんなの。


(今日初めてまともに話したような人間に、生徒会長がこんな提案をするか? いや、あり得ない)


 例えば。例えばの話、この世界をイカれさせた『何者か』がいるとして、そいつが何らかの目的で俺に接触を続けているのだとしたら。


 この生徒会長の提案は、きっとその〝罠〟に違いない。


「えっと、ごめんけど」


 俺は、この提案を生徒会長本人の意思じゃないと判断した。いきなりラブコメ展開が舞い降りて浮かれるほど、俺はまだイカれていないのだ。


「その言葉は嬉しいけど、大丈夫。気持ちだけ貰っておくよ」

「そうですか……」


 悲し気に目を伏せる生徒会長。ちょっと申し訳ないな……。


「分かりました。それでは、明日も頑張って作ってきますね?」


 ……はい?


「今日よりもバリエーションを増やしますので、楽しみにしておいてくださいね」


 いや、ちょっ……!? 噛み合わない会話に俺が少し混乱したその隙を突くように、生徒会長は重箱を抱えて立ち上がった。


 冷静に見て、重箱はもはや生徒会長以上の大きさを誇っている。けれど、生徒会長の足は驚くほど軽い。


「それじゃあ、また明日もここで。お待ちしてますね?」

「せ、生徒会長! 話が」


 違うんですが! と言い終わるよりも先に、生徒会長は校舎内へと舞い戻っていく。


「……何にも分かってねぇじゃん」


 俺の葛藤と考察の時間を返せ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る