PM1:10

 さて、このイカれた世界特有のアレな感じがしてきたぜ? まっっっっったく嬉しくないがな。


 生徒会長はメガネの縁に指を添え、どこか艶めかしい感じでこっちを見ている。もともと大人びた雰囲気のある人なので、デキる女教師感が半端ない。


 訊く意味はないとは思う。今までの経験上。


 だけど、世の中には様式美って言葉もあるしな。


「なぁ生徒会長。訊いていいか?」

「ええ、生徒の質問ですから。さぁ、どうぞ?」


「生徒て……いや、いいけど。えっと、そのメガネはどうしたんだ?」

「雰囲気作りです」


「……じゃあその教鞭は」

「何となくです」


 ですよね。まともな答えを期待する方がアホなのだ。


 いや、ある意味まともな答えだったのか? まともって何だっけ? いかん、なんか俺の方が壊れてきてる。正気を保て、俺。


「……いや、何でもない。授業を始めてください、先生」

「分かりました。では始めますね」


 雰囲気を重視して先生って呼んでみたら、当然のように受け入れられたぜ。生徒会長とは別人格って事だな、そういう事にしておこう、うん。


 まぁいい。教えてもらえるなら何だっていいさ。俺は箸を置き、生徒会長……いや、先生を真剣なまなざしで見つめた。


「……何をしているのです?」


 と、先生がさっそく不機嫌そうな表情に。俺はかなりやる気満々な感じを出してるつもりなんだが、何故だ。


「な、何って……?」

「箸を止めてはいけません。料理に対する冒涜ですよ?」


 飯を食いながら授業を受けるのは先生に対する冒涜だと思いますが?


 いや、この場においては先生こそがジャスティス。俺の勝手な判断で動けばギルティ。それだけだ。


「すみませんでした、先生」

「分かってくれればいいんです」


 昼食を再開する俺に、優しく微笑む先生。何だかなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る