AM10:22

「さてさて、それでは今日のレクリエーションは……うーん、何にしようかな?」


 素朴に首を傾げる御柳先生。けど、白髪が混じり始めたおばあちゃんだからか、はたまた普段の振る舞いに好感しか持てないからか、全くあざとさのようなものが感じられない。可愛い。


 それはさておき、レクリエーションとやらは何種類かバリエーションがあるっぽい。ますます想像が付かないな。


「……よし、決めた。今日は『古文訳』にしましょう」


 わっ、と教室内が沸いた。歓迎……いや、違うな。どっちかっていうと、マジかよ、的な空気だ。


 それだけ難しい内容って事なのかもしれない……古文訳、か。あまり耳慣れない言葉だけど、まぁ何となく想像できてしまったような。


 古文を現代語に訳す。これすなわち、現代語訳。


 ならば、古文訳とは……?


「先生が普段読んでいる小説を読み上げますから、それを古文に訳してください。教科書は訳すヒントになりますから、開いてはいけませんよ?」


 ですよね。やっぱそういう事ですよね。


 ってそれ、普通のテストの数倍難しくね? 現代語を古文に訳すなんて作業、単語単位ならともかく、文章レベルだと今までほとんど考えた事ないぞ。


 そうこうしている間に、先生が白紙の紙を配布する。言われた通りに名前を記入し終わると、先生はカバンから一冊の文庫本を取り出した。


 茶色のカバーが装着されていて、小説のタイトルは分からない。けど、読み込まれているのだろうか、カバーが少し擦り切れている事だけ分かった。


「それじゃ、早速始めますね?」


 教室内が緊張に包まれる。みんな、ペンを片手に集中力を研ぎ澄ませている。マジでテストだな。


 しかし……肝となるのは、やっぱりどんな小説か、だな。もしこれが『走れメロス』とかの有名な文学作品ならまだやり易い……事もないか。メロスとセリヌンティウスをどう古文に訳せと。


 かと言って、古文が担当の先生だからって普段から古文を読んでるわけでもないだろうし……ん~、ダメだ。考えてもドツボに嵌まるだけだなこりゃ。


 ぱら、とページをめくる御柳先生。どうやら冒頭からではなく、途中から始めるらしい。


 そして一拍の間を置き、先生は深く息を吸い込んだ。


『あのロリコン野郎! マジで脳みそお花畑かよ!』


 ちょっと待とうか先生。普段何読んでるんすかマジで。




 

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