AM9:34
俺は今、猛烈に感動している。
1時限目が始まったのが8時50分。終わるのが9時35分。
つまり、授業時間は45分。そう、45分だ。
長い。長すぎる。授業がだるいとかいう話じゃなくて、45分もあれば何でも起き得るのがこのイカれた世界の〝お約束〟ってヤツだからだ。
だがしかし。しかし、だ。
何も、起きなかったのだ。
美術の歴史、美術用語の解説、絵を描く時のの術などを軽く教わった後、実技としてコップとリンゴのデッサン。内容こそ微妙に違うものの、いつもの美術と何ら変わりない。
まぁ内心、コップとリンゴがいつ爆発するのか気が気じゃなかったが、とにもかくにも俺は1時限目を乗り切ったのだ。
(起きてからの1時間と比較すると、平和すぎて涙が出てくるぜ……)
失ってから分かるもの。これまでの退屈な日常が、いかに素晴らしいものだったかという事。
「よぉし、今日はここまで!」
俺達のデッサンを順番に評価していた五十嵐が声を張り上げた。
美術室内がざわめく。授業から解放されら生徒達が、チャイムの音に紛れて思い思いに会話しながら教材を片づけていく。
そんな中、仕上がったたくさんのデッサンに満足しているのか、五十嵐が上機嫌に笑った。
「ははは、やはり芸術は素晴らしいな! 芸術はぁぁぁぁ!」
あ、やべ! 五十嵐の決め台詞、機嫌が良い時には終わり際にもかましてくるんだった!
またかよ、的な空気の他のヤツらを尻目に、俺は全力で身構える。
「爆発だぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
………………、…………? あれ、何も起きな
「うおおおっ!?」
俺は素っ頓狂な悲鳴を上げる。
何が爆発しようと狼狽えず、逃げ出せるくらいの心構えでいたつもりだったが、さすがにそれは俺の予想を超えていた。
「あーあ、勢い余って自爆したよおい」
保手浜が呆れたように言う。そう、爆発したのは五十嵐自身だった。
轟音と共に爆発に巻き込まれた五十嵐は、立ち込める煙が晴れた時には影も形もなくなっていた。体は全て燃え尽きてしまったのだろう。
爆発四散、グロテスク極まる惨事、みたいな絵面じゃないだけマシだが……これはよくある事らしい。何事もなかったように美術室を出ていくヤツらに倣い、俺も早足でその場を後にするのだった。
(……最後の最後にやってくれるぜ、ちくしょー)
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