AM8:33

「どうかしましたか? 三崎君」


 優雅に振り返る生徒会長。その表情は微動だにしない。氷のような美貌に向かって俺は吠えた。


「言い訳? ふざけんなよ。誰のせいで遅刻したと思ってる」

「それはあなたの自己管理」

「違ぇよ。うちの部活動共だ。あいつらに邪魔されたんだよ」


 アレがなければ単純にタイムロスがなかっただろうし、その後のドナドナ手榴弾もなかったかもしれない。そうなれば、俺が遅刻する可能性はほとんとゼロだったはずだ。


「アレを全て凛の言う『不運』で片づける? ふざけんな」


 俺はずかずかと生徒会長と距離を詰める。あかみちんが何か言ってきたけど、聞いてたまるか。


「……そうですね。確かに、私の言葉にも少々問題があったかもしれません。ですが、あなたが8時31分に校門を潜った事も事実。違いますか?」

「その事実だけで全てを判断されてたまるか、っつってんだよ。俺だって好きで遅れたわけじゃない。遅れまいと最大限に努力もした。それもまた、事実だ」


 断っておくが、俺はわりと温厚な部類の人間だ。


 同学年とは言えほとんど面識のない相手、しかも生徒会長相手にこんな口を利くような度胸はないし、相手の気持ちも推し量れないほど無思慮じゃないつもりだ。


「あんたの言ってる事は正論だよ。教科書レベルの正論だ。分かってる」


 それでも、止まらなかった。


 多分、朝から続く理不尽でたまった鬱憤を、爆発させないと気が済まなかったんだ。俺は、何も悪い事なんてしてないはずなんだ。


「でもな、あんたや先生がすべて正しいと思うな。ムカつくんだよ、そういうの」


 後の事なんて知るか。どうせ、この先もイカレてるんだろ?


 じゃあいいさ。それでいいさ。俺は俺で、俺らしく振舞ってやる。生徒会長……あんたのおかげで、俺は腹をくくったぜ。


 生徒会長はじっと俺の事を見ていた。毅然として微動だにしない。


「おい、三崎! 生徒会長に向かって」

「いえ、構いません赤道先生」


 声を荒らげるあかみちんを抑え、生徒会長は続けた。


「三崎君。あなたの言葉、肝に銘じておきましょう」


 それでは、と改めて歩き出す生徒会長。俺を一瞥したあかみちんも歩き出す中、会長は顔だけ振り返った。


「ですが、遅刻は覆りませんのであしからず」

「覆らないんかーい!」


 本能的に、ツッコんでしまった。と、生徒会長がかすかに笑みを浮かべる。


 かと思えば無表情に戻り、足早に校舎へと去っていくのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る