AM8:31

「ゴ~~~~~~~ル!」

「よし、ギリ間に合った」


 一陣の風となって吹き抜ける俺達。

 

 チャイムが鳴りやむのと同時、校門を潜り抜ける。


 ききききぃ! と火花が散る勢いで減速するララバイメランコリー。凛は額に浮かんだ汗を拭いながら笑う。


「ふぃぃ……いやぁ、人間死ぬ気でやれば出来るもんだねぇ。火事場のバカ力って感じ?」

「こんなのでバカ力を発揮するのは何か損した気分だがな」


 しかしまぁ、悪くない気分ではある。さながら競輪で1位を取ったかのよう。いや、競輪の事よく知らんけどな。


 言い換えれば、青春、的な? この遅刻するしない、という緊張感を俺があまり味わったことがないせいだろうか。


「ま、いいか。とにかく間に合ったんだから、素直にそれを喜」

「いや、遅刻だぞ? お前」


 と、後ろから青春ブレイカーな声。振り返るとそこには、生活指導の赤道がいた。『せきどう』じゃなく『あかみち』なので間違えないように。


「はぁっ!? いや、間に合っただろあかみちん!」

「そーだよあかみちん! 私の決死の走りが全部無駄だって言うの!?」


 ま、わりと仲の良い生徒は『あかみちん』って呼ぶんだけどな。

 アラサーで比較的年が若いから親しみやすく、多分それが理由で生活指導を任されているんだと思う。


 あかみちんは短く切り揃えた黒髪を撫でつけながらこちらに歩み寄る。


「あぁ、風花は大丈夫。けど三崎、お前はダメだ」

「だから何でだよ!」

「単純な話。風花が校門をくぐった瞬間にチャイムが鳴り終わったからだ。お前、風花の後ろにいただろ?」

「自転車に乗ってるのはまとめてカウントしてくれませんかねぇ!?」


 それ、ホントにタッチの差って事じゃねぇか。なおさら引き下がれない。


「いやいやいや、それくらいは見逃してくれよあかみちん」

「ああ、見逃してやったろ? あんな速度で、しかも2人乗りですっ飛ばしてきた生徒を、遅刻で片づけようとしてるんだから」


 ぐっ……あかみちん、この世界に染まってねぇな。すげぇ常識的な返しだ。俺にとっては喜ぶべきことなんだが。


「そこを何とか! 今日遅くなったのは不運が重なっただけというか」

「ほら、修二。あかみちんを困らせないの。受け入れよう?」

「お前は手のひら返しがすげぇなちくしょー! 一歩間違えたらお前も遅刻」

「何をしているのです?」


 と、凛々しい声が横合いから。俺達3人は一斉にそっちを見た。

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