第670話 収まらないので

すごい……オレも、これやってみたい。

興奮冷めやらないオレは、沸々と湧き上がる感情をやり過ごしながら考えた。

だけど、参加できないし……。なら、ラピスや管狐部隊と一緒にやったら――うん、色々消し飛びそうだからやめておこう。今何匹いるのか定かじゃないけど、絶対の絶対に全員フゥルスイング!! をやるだろうことが目に見えている。


ハッとして執事さんの胸から顔を上げると、純真無垢な小さきふわふわが瞳を輝かせているのが見えてしまった。

――ラピスは、かんれいを受けたの……! この胸の内が震えているの!

寒冷だけに? じゃなくて。

「な、何に感銘を受けたのかな? ちなみにだけど、ラピスたちがやっちゃうと魔力が大きすぎて危険だから、ね? やっちゃダメだから……ね??」

恐る恐る確認すると、群青の瞳がぱちりと瞬いた。

――分かったの! 大丈夫、危険なことはしないの!

素直にきゅっと鳴いてにっこりした顔が可愛い。だけど、どうして明後日の方を向いているのだろうか。オレの目を見て話そうか。


「ユータ様? どうですか、参考になりましたか?」

そっと頭を撫でられ、オレは大急ぎで頷いた。やっぱり、実際に見せて貰って良かった。何がどうなって大魔法になるのか。それは教科書には書いていないし、きっと理解して使っている人もあんまりいないんだろう。カロルス様たちの使う剣技のように、オレ以外の人だって魔素を使えるんだ。

「大きな魔力で魔素を集めて放つ。バラバラの小さな魔力をひとつの大きな魔力にするには、詠唱が絶対に必要なんだね」

おそらく、精霊と『誓約』を交わしたと信じるからこそ、自分たち以外の魔素に手が届く。そうしてそれは、あたかも精霊の力を借りて放った魔法のように見えるだろう。


オレは抱っこのまま、眉根を寄せて腕を組んだ。

これは、中々難しい。詠唱にしっかりと工夫が必要になってくる。

「そんなことが、なぜ一度見て分かってしまうんでしょうね……」

だって、視えるもの。だけどその口ぶりだと、執事さんも大体のことは把握していそうだ。Aランクあたりともなれば、感覚的に分かるものなのだろうか。

「だけど、分かっても新たに考えるのは難しいよ」

「――新たに??」

あ、と口元を押さえた時は既に遅し。呆れた視線と目が合ってしまい、すかさず逸らしてにっこりした。

「だ、大丈夫! 何も危ないことはしないから!」

「ユータ様? そういうことは私の目を見て言っていただけますか?」

ひやりとした笑みを含んだ気配が漂って、オレの身体を震わせた。執事さん、まだほんのり戦闘モードだ。薙いだ水面の下で燃える炎は、どうやらひどく冷たいらしい。


黙ったオレに何を感じたか、スッと和らいだ気配と共にその腕が締まった。

「ああ、本当に久々で……。いけませんね、先に帰っていただけますか?」

オレの肩口に顔を埋め、大きく呼吸して突然そんなことを言う。

「え……でも、執事さんはどうするの?」

「私は何とでもなります。魔力はさほど多くは残っていませんし、時間はかからないでしょう」

何とでもって。とりあえずシロに後で迎えに行ってもらうことはできるけども。

「だけど、魔力? 何をするの?」


……わあ。

顔を上げた銀灰色の瞳を見てしまって、思わず息を呑んだ。

「……疼くので」

ゆっくりと口の端が引かれ、壮絶な笑みを形作る。

『暴れたい』そう言っている。

さっき消したはずの炎が大きく再燃しているのが目に見えた。

「ぼっちゃん、帰りましょう?! ほら、早く行かないと巻き込まれるんで!」

ちょいちょいと袖を引かれ、へっぴり腰の料理人さんとその他の皆さんが何度も頷いているのが見えた。

「えー、オレはここに……」

「では、後ほど」

残る、と言う間も与えず下ろされたオレは、かっ攫うようにシロ車に乗せられてしまった。

「「「さあシロ! 頼む、全力で!!」」」

『え? いいの?』

ピンと耳を立てて振り返ったシロの輝く瞳を見て、失言に気付いた面々が慌てて訂正した。

「「「俺たちが乗っていられる限界スピードで!!」」」

ウォウッ、と吠えたシロが急発進した後には、微笑む執事さんだけが手を振っていた。


「ただいま!」

正面扉を開けて飛び込むと、待ち構えていたカロルス様の胸に飛び込んだ。

「おう、おかえり。ウチの魔王はどうした? 胸がざわつくんだが」

大体の所を察していそうな苦笑を浮かべ、カロルス様はオレを高く掲げた。すごいね、こんなに離れているのに、野生の勘は大きな魔力の動きを感じるんだろうか。

「後でねって言われちゃった! ねえ、オレ見に行ってもいい?」

「ダメだ。……怖いぞ」

にやりと笑ったカロルス様は、見られたくねえだろうしな、なんて小さく呟いたのだった。



「――大魔法、どんなものかは分かったけど、難易度はむしろ上がっちゃったかも」

寮に戻ったオレは、ごろごろしながら考えを練っている。

ちなみに、あの後シロに乗って帰ってきた執事さんは、くたびれきっていた割に妙にツヤツヤしていた。

「なんでそんな大魔法を放てる人員がそこにいるのかな~……なんて僕、思ったりしないよ~」

「え? いるとおかしいのか? 俺たちでもできるんだろ?」

各々の手を止め、二人がオレのベッドへ集まって来た。

「おかしいよ~。僕らの使う大魔法はね、『みんなで魔力を出し合って高ランク魔法使いの一発を放とう』作戦だよ。そんなラピスの一撃みたいな威力なんて、王都の兵じゃあるまいし~」

やっぱり、威力的におかしかったらしい。


「だけど、たとえ学生でも、ちゃんと放てば結構な威力になると思うのに」

だって、周囲の魔素を巻き込むんだもの。そりゃあ元になる魔力が小さいより大きい方が威力は上がるけれど、逆に言えば魔素を巻き込むのが上手ければ、元になる魔力差をひっくり返すことだってできる。

首を傾げるオレに、なんでもないように二人が言った。

「じゃあ、『ちゃんと』できてねえんだろ」

「そういうことだね~」

な、なるほど。

「練習が必要だね……」

ばふっと仰向いたオレの視界に、二人の顔が大写しになる。

「そのためには、練習する魔法がいるよな」

「失敗しにくい魔法を頼むね~」

二人を見上げ、思い切り頬を膨らませた。

「そんなこと言って……オレだけじゃなくて二人も考えてよ?! どんなのがいいとか!」


魔法にも色々あるでしょう! まずは方向性を決めないことには動けない。和食なのか洋食なのか、はたまた食材から決めるのか、単に『美味しいもの』って言われても困るんだよ!

一応、クラスメイトにも考えてくるように伝えているので、何か取っかかりがあることを祈ろう。

「ん~、せっかくなら使いどころの多そうなのがいいよね~」

「格好いいのにしようぜ! ごうっ! どかーん! みたいなさ!!」

それならまさに、見せてもらった大魔法が当てはまると思うけど。

その名も、『業火の一薙ぎ』……そう、教科書最初のあの魔法だ。そうだよね、やっぱりあの威力はおかしいね。


「「却下」」

即座に否定され、ため息をひとつ。

「じゃあさ、メイメイ様のあれは? ドラゴンブレス!! 格好いいだろ?」

「あ~、あれはそれなりに応用もできそうだね~。坑道でも活躍していたし~」

オレの脳裏に、シールドを震わせる彼女の魔法剣が思い起こされる。なるほど……それならイメージもしやすいかもしれない。

「ドラゴン世代が放つ、ドラゴンブレスかぁ」

何気ない呟きに、二人がパッと顔を輝かせた。

「それいい! それにしようぜ!!」

「特徴的でいいかも~! 強力ってのがよく分かるし~」

それって、強力じゃなかったら恥ずかしいだけの名前になるんだけど。


あとは肝心の詠唱を考えなきゃいけない。焦って適当な詠唱にしては、きっと魔力がまとまらない。

ぼちぼちやっていこう、急がば回れだ。……決して嫌なことを後回しにしたわけではない。

そんなことを考えつつ、再び机に向かったラキを見て、あっと声を上げた。




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ちらりと覗く、若かりし日の丸くない執事さん。

一部に大人気の彼の活躍、珍しいのでお楽しみいただければ幸いです


全然関係ないけどうちの鶏でLINEスタンプ作ったんですよ!かわいいんですよ!!

『リアル鶏スタンプ』で出てくるのでぜひ見てやって下さい!

自分が使いたいから40個という詰めっぷり!!(笑)


*Twitterでまた小話の公開用アンケート取ってますので、読みたい話がある方はぜひ~

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