第445話 最下層
「これ、はい! おかげで薬草が手に入ったよ! 本当にありがとう!!」
薬草を差し出す少年たちの、きらきらした瞳が眩しい。なんとか見つかって良かった。
「気にしないで~僕たちも下りるついでだったんだから~! これ、僕たちが受け取っちゃって大丈夫~?」
「大丈夫、結構採れたから、ちゃんと俺たちの分も賄えるんだ! あ、もっと必要だったか?」
途端にシュンと陰った表情に、オレたちは慌てて首を振った。
「ぜ、全然! オレたちまだ下に下りるし、必要なら探すこともできるから!」
耳と尻尾があったら、もっと分かりやすくてかわいいだろうな。再びぱあっと顔を輝かせた彼らに、ついくすくすと笑った。
「じゃあな! 魔物は結構減らしてまわったけど、気をつけろよ-!」
「助かる! ありがとう!!」
オレたちも階段まで一旦戻ると、手を振って少年たちを見送った。
「俺たち『ミスリルの星』って言うんだ! なんか手伝えることがあったら言ってくれよな!」
「僕たちは『希望の光』だよ~! 以後お見知りおきを~」
顔見知りになってしまった以上気になってしまうので、管狐部隊からカリスを派遣しておいた。オレよりは年上だけど、年が近い冒険者の繋がりは嬉しいね。
「彼らはそろそろ帰らないと危なかったろうしね~。薬草見つかって良かった~」
「じゃああとは俺たちで5階層までだな! なあ、俺たちすいすい進んでるしさ、もっと上のランクのダンジョン行けるってことだよな!」
「ホントだね! 次もダンジョン行ってみたいね!」
ちなみにここは5階層までらしい。入る前は緊張していたけど、オレたちでも十分ダンジョンは踏破できそうだね!
「――それにしてもこりゃ肉獲り放題だな! いくらあっても困らねえし、俺また来ようかな!」
5階層に近づくにつれ、どんどんカウガウが増えてくる。
「困るんじゃない~? タクトの収納袋じゃ、すぐいっぱいになっちゃうと思うよ~」
「それにね、お肉は腐っちゃうからずっと入れておけないよ?」
喜色満面だったタクトがガッカリと肩を落とした。
「あーそっか、それがあった……。ユータと行く時以外も美味い飯を食えると思ったのに」
「たくさん持って帰って保存食にしてもらう~? 僕もある程度自分用に欲しいし~」
「でも保存食食っても美味くねえもん」
「贅沢言わない~! スープぐらいなら作れるようになったでしょ~?」
なるほど、保存食に加工してもらえたりするんだね! オレの収納は空間倉庫だから腐らないけど、加工されたお肉もあるといいよね! 燻製や塩漬けとか、お料理の幅が広がるもの。
「お前らはできるだろうけどな、俺は鍋なんて作れねえし持ち歩かねえよ?!」
タクトとラキはオレと一緒にお料理するうちに、ある程度のお料理スキルが身についてきた。だけど、ラキはともかくタクトは魔法があまり使えないから、1人ではちょっと難しいみたい。
5階層に下りた途端、あちらからもこちらからも古びたドアを開閉するような音が聞こえる。
「うわぁ……これは大変そうだね」
「ゴブリンだったら最低だけどな、これなら歓迎だぜ!」
げっそりとしたオレとラキ、そして瞳を輝かせるタクト。
――この音、カウガウの鳴き声だ。そこまでひっきりなしに鳴く魔物じゃないから、相当数がいるんだろう。これだけカウガウがいるなら、それより弱いゴブリンはいないだろうな。
「全身黒いやつがいたら、気をつけてね~!」
「おう、ガウホーンだよな! 美味いらしいぜ!」
5階層には時々ガウホーンが出るらしい。カウガウよりひとまわり大きくて、真っ黒なんだそう。カウガウはEランクパーティでなんとか、ってレベルだけど、ガウホーンはランクがひとつ上がるらしい。これだけカウガウが溢れてるなら、きっとガウホーンもいるんだろうな。
『嬉しそうね』
『主ぃ~張り切って見つけてくれよ!』
うん! 怖い魔物だと思うと腰が引けるけど、美味しいって聞くだけで魔物を見る目が変わるよね。狩られる側から狩る側へ、捕食者は……オレたちだ!
にんまり笑って拳を合わせたオレたちは、カウガウ溢れる通路へと走り出した。
突っ込んでくるカウガウを避けて飛ぶと、壁を蹴って背後へ回り込んだ。途端に、ヒビの入っていた石壁が崩れる。
「なんか、ボロボロだね!」
徐々に廃墟に近くなっていたダンジョン通路は、ここへ来てさらに崩壊が進んでいる。勢いを付けて踏み込んだ足が石畳を抜け、たたらを踏んだ。下層の方が新しいはずなのに、不思議だ。どうやら成長につれ、元の遺跡を真似しきれなくなっているみたいだ。あるいは、真似する必要がなくなってきたんだろうか。ただ、ダンジョン自体はそうそう崩れるものではないらしいので、脆いのは人工物っぽい部分だけだ。
「足を取られないように気をつけてね~! ユータも魔法の方がいいんじゃない~?」
つい短剣で戦闘しようとするオレに、ラキが声を掛けた。
「うーん、でもお料理しづらくなっちゃうし。オレ、ラキほど上手く当てられないと思う」
狙撃魔法は確かにオレが教えたけど、一発で眉間や足を狙うとか絶対無理だ。他の魔法だと可食部位が減っちゃうと思うし……。
「あくまで食べるのがメインなんだね~」
そりゃあそうだよ。きょとんとするオレに、ラキがやれやれとため息をついた。
「ふう~、これだけいるとさすがに結構疲れるね~」
ラキが額の汗を拭った。
「ラキ、動いてねえのに疲れるのか」
「疲れるよ~! 魔力使うのも疲れるんだから~!」
むくれるラキに、タクトが笑った。一番動いているタクトはまだ余裕がありそうだ。やっぱり日々の鍛錬の差だろうか。
「ユータはちっこいのに体力あるよな!」
「魔法も使ってるのにね~」
2人は感心してくれるけど、神獣2人の加護があるからだと思う。
にこっと笑った時、ふとレーダーで人の気配を感じた。
……あれ? でも。
「え、下……?」
気配を感じるのは、目の前の――足下? 視線の先には相変わらず石畳の瓦礫が続いているだけだ。
「ユータ、どうした?」
「何かあるの~?」
首を傾げるうちに、周囲の殲滅をすませた2人が駆け寄ってきた。
「うん、ちょっと下に人がいるような。このあたり……かな?」
「え、人~?」
「ちょっとってお前……何、埋まってんの? 助けないといけねえんじゃねえ?」
うーん、そんな雰囲気でもないような。
『人、いるね! 待ってね』
ひょいと飛び出したシロが、ここ掘れわんわんのごとく瓦礫を吹っ飛ばし始めた。
『あ、やっぱりいるよ。ぼく隠れた方が良いかな?』
シロがスッとオレの中に戻った時、声が聞こえた。
「――おや、やっと誰か来たか。そこのキミ、ちょっと手を貸してくれないかな」
埋もれていた割に落ち着いた声だ。3人で残った瓦礫を避けると、ほのかに半透明の膜が見えた。
「魔道具?」
貴族の人が使う、シールドの魔道具みたいだ。現れた半透明の膜をそっと覗き込むと、崩れた石畳の底が見える。
「おっちゃん、どうしたんだ?」
「見ての通りだよ、穴にはまっちゃっただけさ。罠がないダンジョンなのに落とし穴があるなんておかしいだろう」
「ただの崩れた穴じゃない~?」
底にいたのは、何の変哲もないおじさんだ。ただ、こんな状況で紅茶を飲んでいたけれど。
そこまで深い穴じゃないし、立派な大人の冒険者なんだから頑張ったら登れるんじゃないの……?
変な人だけど放っておくわけにもいかず、収納からロープを出して引っ張りあげた。
「ははは、助かったね。まあお礼を言うよ」
「でも、どうして自分で登ってこなかったんですか~?」
「いやなに、どうしようかなと紅茶飲んでるうちに魔物がいっぱい来るじゃないか。出たくなくなってね。まあそのうち誰か通るだろうと思ったのに通らないもんだね」
この人、いつからここにいたんだろう。穴は瓦礫で埋まっていたし、もし人が通っても気付かなかったんじゃないかな。
「まあ、キミたちも運がいいよ。何しろ私はSランク冒険者だからね!! ほら、前を歩きたまえ。私が後ろにいるから大丈夫だ! 指導しながら帰ってあげよう」
……穴に落っこちて助けを待っていたのに、それは無理があるんじゃ……。
オレたちは顔を見合わせてぬるい視線を交わした。
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あと1週間!!
もうすぐ…もうすぐ6巻発売です!!
口絵にはあの彼のレアなカラーイラストありますよ! これ以降カラーイラストあるかどうか微妙じゃないですか? ぜひ~!
ちなみになろうさんの閑話の方で正月話(?)更新してます!
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