閑話 異世界にないもの

お年玉閑話です。

本編と関係ないので、お話のペースを崩したくない方は読まないことをお勧めします。


本年もどうぞよろしくお願い致します!

――――――――――


寒いな、と思いつつモモをもにもにしていると、ほんのりあったかくて柔らかくて……つい思い浮かべてしまう。

「お餅、食べたいな……こう寒くなると、お雑煮とか食べたくなるね」

『向こうに比べれば、こっちの寒さは大分マシじゃない?でも、お餅はいいわね!食べたことないけれど』

「あ、そうか!亀さんだったもんね」

つきたてのお餅をちぎっては素早く丸めていく作業、寒い中ほかほかのお餅が気持ちよくて、結構好きだったんだ。サラサラきゅっきゅする餅とり粉も好きだ。一人で生活するようになって、さすがにお餅つきはしなくなってしまったのだけど。

「甘醤油もいいよね……こう、海苔を巻いて磯辺焼きにしてさ。さっぱりおろし醤油も大人の味なんだよね、今子どもの口で食べても美味しいのかな?あんこを包んだつきたてあんこ餅も最高!あとはきな粉かなぁ……」

次々思い浮かべていくと、よだれがこぼれ落ちそうになって慌てて緩んだ口元を引き締めた。

『主!俺様オモチ食べたい!美味そうな気がする!』

チュー助が出てきて、くいくいとオレの腕を引っ張って催促する。でも、お米はあるけど餅米がないんだよ……。

――オモチは食べられないの?

きゅう、と悲しげに鳴いたラピスに、なんとかみんなに似たものを食べさせてあげられないかと頭を悩ませた。ベースはお米があるのだから、なんとかそれっぽくできないだろうか……。



「はあ?見たことも聞いたこともねえ料理、しかも材料もねえけど作れだと?!」

「うん。材料って言ってもひとつだし、料理って言うのかな……」

オレはぶっとい腕を組んだジフに、一生懸命お餅の解説をした。

「コム(米)の種類が違えのか。それは厄介だ……しかし、潰して丸めるだけなら、オニギリと大して変わらねえんじゃねえのか?それでいいじゃねえか」

首を捻ったジフに、オレは、ばん!と両手をついて力説する。

「違うの!!お餅はね、ソウルフードだよ!!ごはんはごはん!お餅はお餅!!全然違うんだから!!」

「お、おう……」

……とは言え、少しイメージを持ってもらうために、作ってみるのもありかもしれない。


「……できねえんじゃなかったのか?」

「できないよ!でもこれはこれで、別のお料理なの。これも美味しいんだよ!」

訝しげに見守るジフの傍ら、炊きたてのごはんを潰して、太いアイス棒ほどに加工した木にしっかりと付けて成形した。

『主、これがモチ?もう食っていいの?』

「だめだめ!まだだよ」

小判型に整えたそれに、醤油ベースと味噌ベースの2種類のたれを塗って焼いていく。

『あー!懐かしい匂い!美味しそうだね!美味しそうだね!!』

『モモ!出して!俺様それにかぶりつくために今を生きてるから!』

だらだらと溢れるよだれを一生懸命ぺろぺろと口の中に納めるシロと、モモのシールドの中で必死にカリカリしているチュー助。今ここに飛び込んだら、チュー助もこんがりだよ。

炙っているとパチパチと心地よい音と、お醤油やお味噌の香ばしく焼ける香りが広がった。ごくりと喉を鳴らすと同時に、えも言われぬ懐かしさもこみ上げてきた。

「いいね、こういうの。お庭で七輪使ってたの思い出すねえ」

オレは香ばしい匂いをいっぱいに吸い込んで目を閉じた。戻りたいとは思わない。これはただ、懐かしく嬉しい思い出の香り。


「はい、これで出来あがり!これはね、五平餅って言うんだよ。お餅とはちょっと違うけど、これに弾力と粘りを足したらお餅になるかな」

「どれ……ほう!確かに、オニギリとは違うな!焼きおにぎりと一緒じゃねえかと思ったが、食感が面白いな。とびきり美味いもんとは言えねえが、そうだな、懐かしい味なんだろうよ」

そこから、オレたちの研究が始まった。どうすれば餅に近づくのか、求めるのはその真理……!!


「チッ……ダメだな、味が変わっちまう。味を変えずにモノを変える……難題じゃねえか」

「オレ……もう舌がぼやけて分かんなくなってきたよ……あと、お腹いっぱい」

諦めモードのオレに、ジフが目をつり上げて胸ぐらを掴んだ。

「てめえじゃなきゃダメなんだよ!忘れたのか!あの熱い想いを……必ずやり遂げてみせると誓ったろうが!!」

「そ……そっか……うん、そうだよね、ごめん……オレ……見失うところだったよ!」

掴んだ手を離すと、男臭い顔が、ニッと笑った。

「そうだ、それでこそてめえってヤツだ」

オレも男らしい顔でにこっ……ニッと笑ってこぶしを突きだすと、オレの5倍以上あるでっかい拳が、こつんとぶつけられた。



「こ、これだ!!これがお餅だよ!!!」

「!!そうか!ついに……!!」

オレたちはがっちりと固い握手を交わした。そして同時に崩れ落ちる……。

「もう……無理……おなかいっぱいで……眠い……」

「俺もこんだけすり潰すと……限界だ……くっ、情けねえ」

オレたち二人の犠牲のもと、ついに異世界餅は完成したのだった。

『まあいいけど……別に今日完成させる必要ないじゃない。どうして1日でやろうとするのよ……』

モモの呆れた声は、すうすうと眠るオレには届かなかった。


「お?なんだこれ?またユータか?」

食卓に並んだ餅の数々は、朝食にはキツイって量だけど、カロルス様たちには物足りないぐらいだろう。

「うん!オレの故郷の味、ジフと研究したんだ。喉に詰めるといけないから、大きいまま飲み込んじゃだめだよ!」

「へえ、面白いね!柔らかいのと固いのがあるね」

セデス兄さんが磯辺焼きに手をつけた。

「んっ?んんっ?!おいひぃ!ふぁにこれ?伸びる~!」

みょんと伸びた餅を咥えたまま、随分と楽しそうだ。

「まあっ!本当に面白いわ!チーズとは違うのね~!」

「美味いぞ!ガツガツ食えんのが残念だ!」

みんな伸びる餅に苦戦しながらみるみる平らげていく。


『主!これ美味い!』

チュー助は両手をいっぱいに伸ばして、餅を引っ張りながら食べている。シロは丸のみしそうなので一口大にしたものをたくさん並べておいた。

「スオー、これ好き」

蘇芳はそんなことを言いながら、もみもみと餅を両手でもんでいる。冷めたら硬くなっちゃうよ?

――ユータ、これ楽しくて美味しいの!ラピスはユータの国の味、全部好きなの!

小さくした餅も、ちゃんと伸びを楽しめたようで一安心。ティアは危ないだろうと思ったのだけど、大きい餅から上手に小さくついばんで食べているようだ。


オレはにっこり笑って椀を手に取った。

粉にした米と、乾燥させて同じく粉にしたアガーラ。それに水を加えて煮ると、あたかも煮すぎた餅のようにどろりとする。コムをついたものと、それを適量合わせることで……

「……ふぅ、美味しい。ちゃんとお餅だよ!」

しっかりと再現されたお餅の食感に、オレは満足して微笑んだ。


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