第262話 タカラオシエ
「あれは…!一旦馬車を止めましょう」
商人さんがどこか浮き足だって馬車を止め、相談を始めた。
「ねえ、あの丸いのはいいものなの?」
道の端の方にちらりと見える、テニスボール大の……不自然に丸っこい石。
「あれはね、タカラオシエっていう賢い生き物が作った目印よ」
「タカラオシエ?」
「そう、欲しいけど自分では手に入れられない宝を、ああやって人に教えて取ってもらうの。タカラオシエは…ほら、あそこ。小さくて力も弱い生き物なのよ」
遥か樹上に、こちらをうかがい見る小さな影。うーん…小さなお猿さんみたいな生き物だ。面白いね!でもそれだと宝を人が手に入れたら独り占めされちゃうんじゃないかな…。
「ええ、そういう可哀想なこともあるんだけど、基本的には私たちが置いていくものを手に入れるみたいよ。例えば、珍しくて価値の高い木を教えて、人が切り倒した後の根っことか樹液を手に入れるって寸法。それにね、冒険者の間では、タカラオシエの報酬って言葉があるのよ」
『タカラオシエの報酬』は、タカラオシエのおかげで利益を得たら、必ず欲しがるものを1つ渡すっていうマナーだそう。そうすることで、また何か見つけた時に教えてくれるから。
そっか、なんだか面白い協力関係だね。それに、宝物って金銀財宝ってわけじゃないんだね。
「ところがそうでもないからあんなにソワソワしてるわけだ!タカラオシエはコレクターだからな!盗賊の隠した宝とか、古代の秘宝なんかを探し当てることもあるんだってよ!どうするよ?古代の大秘宝なんて見つけてたらさ!」
「古代の秘宝?!俺、行く!!行きたい!!」
セージさんとタクトが目をきらきらさせて興奮している。でもそんな大秘宝が、こんな道の近くにあるかなぁ…。
「セージはいつまでたってもお子様ね…ま、せいぜいお高い木の実とか森大蜂の巣とか、そんなところじゃない?」
「森大蜂の巣だったらいいな~!僕、ちょっとだけ大針と翅を分けて貰いたいな~。それにしても目印ってこんな風に置いてあるものなんだね、ちゃんと覚えておかなきゃ~!」
ラキにとっては蜂の巣の方がお宝らしい。オレは食材だったら何でも良いな!森大蜂って言ったら美味しい蜂蜜が採れるらしいし、珍しい木の実やきのこなんかも見てみたい。
「――みなさん、お待たせしました。ご覧の通りタカラオシエの導きがありますので、これを見逃すのは商人として我慢なりません。探索するとなれば今日はここで夜を明かすこととなるでしょうから、野営の準備と探索で二組に別れましょう。日程が延びる分は追加報酬を約束します。もし、『タカラ』が良い物であればさらに…。皆様のご活躍、期待していますよ」
商人さんはなんだかツヤツヤしている。こういった好奇心旺盛なところはとても商人らしいね。
商人さんの促しで、冒険者も二手に分かれ、結果…
「なんでっ?!俺も探索にいきたいんだけど!?リーダーの横暴!反対!」
「俺も俺も!大丈夫だから!戦えるし役にたつから!」
同じように騒いでいるのはセージさんとタクト。気持ちは分かるけど…多分、子連れで探索に行こうなんて言ってはくれないと思うよ…。そう、オレたちと『黄金の大地』が居残り組、残りの二組が探索兼護衛組だ。実力的にCランク1組とDランク2組になるのがバランス的に最善で、となると『黄金の大地』にはオレたちがくっついてるワケで、必然的に居残りに…ごめんね、セージさん。
「私達にも美味い料理を出していただけると、君たちの報酬にも色をつけますよ」
……えーと、オレたちが料理当番ってことかな?まあ、材料は使ってもいいらしいしどっちにしたって作るんだから、少々人数が増えたって別に構わないけど。
「では皆さん、私たちは荷物整理をしていますので、お願いしますよ」
「……ちぇ、いいよな…自分たちは休んでられるもんな」
小声でぼやいたセージさんに、オリーブさんの鉄拳が下り、慌てて自分の口をおさえたタクト。良かったね、先にセージさんが犠牲になって。
「さ、頑張りましょう!日が暮れる前に野営地を作らなきゃ!魔法使いさんたち、期待してるわよ~!」
オリーブさんはうずくまるセージさんに目もくれず、いたずらっぽくオレたちにウインクした。
「地味…地味だ!」
『タクト~がんばれ!ぼく、やっちゃダメって言われちゃった』
まずは手頃な場所で下草を刈ってテントを張れるスペースを確保。なるべく石や枝なんかを除いてなんとか野営できるスペースにしなきゃいけない。
シロに頼めば一瞬だし、オレだって多分できると思うけど…戦闘になってからならいざ知らず、こんな所で大きな魔法を使うのも良くないってことで、地道に草刈りしている。
「ある程度できたら、あとは魔法で仕上げるからね」
よし、ディルさんの魔法の規模を見てからオレたちも手伝おう。オレとラキはこっそり頷き合った。
地道に、と言っても「職業:剣士」の人達の草刈りだもの…早い早い。一振りで周囲の草も藪もなぎ払われて、ウッドさんの周囲なんて刃の触れていない範囲まで効果が及んで、危なくて近寄れない。
「よし、じゃああとは魔法でいこうか。」
ディルさんが何か唱えると、ぶわっと上から押しつぶすような風が吹いて、草や枝を吹き飛ばしていった。どうやらディルさんは風系の魔法が得意らしい。
「ディルさん、オレとラキは土魔法得意なの!地面をきれいにしてもいい?」
風を駆使して野営地をきれいにしていく逆掃除機みたいなディルさんに追いすがり、オレたちもお手伝いを申し出た。もちろん、一気にやったりしない。少しずつ平らにしていくんだ。
「お、助かるよ。テントの部分だけでいいから、ゴツゴツをなくしてくれるかい?」
お安いご用で!にっこり笑ったオレたちは、地面の平坦化に取りかかった。
「よーし、こんなもの……か…な??」
ディルさんがやれやれと振り返り、きれいになった野営地に驚いた顔をした。
「ほーい、薪取ってきたぜ…ってなんだこりゃ?!スゲーキレイになってんじゃん!」
「ついでに獲物も見つけてきたわよ~!って…ホントね?!これ、ディルとリーダーが?」
でっかいうさぎみたいな獲物をぶら下げて、薪を拾いに行っていた3人が帰ってきた。タクトは何を驚いているか分かりませんって顔だ。
「……ディルとあの二人だ」
せっせとテントを準備していたウッドさんが、呆れ気味の視線を向ける。ウッドさん…見てないと思ってたのにバッチリ見られていたんだ…。
「いやはや、土魔法が得意とは聞いたけど、魔力量も相当なものだね?これはすごい…」
ディルさんに大げさに褒められて、ちょっと照れくさい。ディルさんの逆掃除機だって凄かったよ!あれ便利だなって思った。
テント張りは任せろって言ってくれたので、オレとラキは食事の準備に取りかかろう。でっかいうさぎを解体してもらって、昼間に食べられなかった人達のために唐揚げと、サマーシチューを作ろうかな。商人さんが持っていた材料は、日持ちのする根菜がメインだったので、遠慮無く使わせてもらう。ごろっと大きく切った根菜がほっくり煮込まれると、本当に美味しいよね!熱々を頬ばりたいな!硬いチーズも少しもらって、こってりが好きな人には削って載せてあげよう。
ご飯は慣れない人が多いだろうから、パンが主食だね。それなら残ったくず肉を集めて叩いて、ミートローフにしよう。
「よし、サラダはばっちりだ!」
タクトはあまり料理するのが好きじゃないので、もっぱらサラダ担当。おかげで野菜を切るのもサラダ用の野草を見つけるのも早くなった。
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