第260話 いつもの昼ご飯
「さ、タクト勉強の時間だよ~」
「おえぇ~ホントにやるの?マジで?!」
しばらく街道を歩いた後、護衛組は分かれて馬車に乗り込んだ。オレたちは『黄金の大地』メンバーと共に3台目の荷台に乗っている。
荷台はしっかり
「だってすることないでしょ?嫌なことは先にやっておいたら後で楽だよ?」
「後でやって嫌なことは今やるのも嫌なんだよ!!」
「あっはは!確かにな、そりゃそうだ!俺もそう思うな!」
「もう…セージはそんなこと言ってるから伸び悩むのよ!」
セージさんとタクトはちょっと似てるところあるもんね…って、ダメじゃない…そんなとこ似てたって…。
「だってこんなとこで何するってんだよ…」
「はい、ちゃんと教科書持ってきたよ!」
「やる場所もないし…」
「はい、机~!ちゃんとタクトの座った高さに合わせたよ~!」
「こんなうす暗いとこで…」
「はい、ライト!明るさ調整するからいくらでも言って!」
「…………」
「ははは、すごいな…魔法をこんなに日常的に使えるなんて、相当な努力の賜だね。ほら、君は諦めて頑張ろう?」
ディルさんが、机の上に突っ伏して項垂れるタクトを慰めて?くれている。
「「さ、やるよ~!大丈夫、ちゃんと教えるから!」」
「い、いらねえ~そんな親切…」
オレとラキでしっかり両隣を固めてにっこり笑う。贅沢でしょ?二人がかりで指導してもらえるなんて!
* * * * *
「ああ…陽の光…だ…。ああ…動かない地面……俺は…解放、されたのか…?」
よろよろと荷台からまろび出た人影が、大地を踏みしめ倒れ込んだ。
「大げさだよ~」
「んんー!気持ちいいね!」
昼前に休憩所に到着し、ここで各々昼食をとりつつ休憩するらしい。
「お前らさ……かわいい顔して結構鬼だよな…」
「な、中々厳しいのね…だからそんなに強くなったのかしら…?」
セージさんとオリーブさんがちょっと引いている。そんな厳しいことはしてないと思うけど…。ラキと二人で丁寧に尽きっきりで教えたし、文字を追って乗り物酔いしだしたタクトのために、こまめに回復してあげたし。
「は、はは…終わりなき絶望、だね…」
ディルさんまでそんなことを言う…。
『タクト!そんなとこで寝てないで遊ぼう!いいお天気だよ!』
「ぐっ!ぐふっ!おふっ!ちょ、シロっ!やめっ!」
退屈していたシロが、行き倒れみたいになってるタクトの背中をドシドシと踏んでせがんでいる。それ、タクト以外にやらないでね…潰れちゃうよ…。
「あーもう酷い目に合った…俺もう馬車乗らない!ずっと走ってもいいから乗らない!ユータ、絶対美味いもん作ってくれよ!俺限界まで消耗した…これじゃ動けねえ」
「何にそんな消耗したの…いいよ、唐揚げでしょ?時間はあるみたいだから、さっきのドーガーで作ろっか!」
「「わ~い!!」」
『わあーい!』
ドーガーは大きいからたっぷり作れるね!皆さんにお裾分けできるようたくさん作ろう。あとは…ラキのリクエストは焼いたやつだね。
「ラキはあっさりでいいの?」
「うーんそう思ったんだけど~、今はお腹空いたからしっかり食べたい~!」
「ごはんとパン、どっち?」
「「ごはん!!」」
了解!じゃあさっそくお料理開始しよう!
いつものキッチンセットを出したら驚かれるだろうから、小さな台を作って調理台にする。
「焼き台おっけー!揚げ鍋おっけー!」
「薪到着!」
ラキがかまどやバーベキュー台を作った頃、タクトがそこそこ大きな倒木を担いで戻って来た。
「風の剣、いくぜっ!」
カカカカッ!
うん、大分剣の速度は早くなってると思う。重そうだったのが嘘のように扱えるようになったもんね。特に風をまとうと速く振りやすいそう。倒木はあっという間にちょうどいい薪サイズになった。
「ラキ、これ大丈夫?」
「うーん、もうちょっと乾燥するよ」
ラキが唱えたのは生活便利魔法のひとつ、どんな薪もカラカラに!『マキドラーイ』の魔法だ。作ったのはオレだけど。
『…せっかく生み出した魔法なのに……あなたもうちょっと考えたらどうなの…』
モモは不満げだけど、とっても便利だよ?何がそんなに気に入らないのか…。他にも『ショクセンキー』とか『レン・チン』とか、我ながらすごく便利だと思う。
「ね、ねえ…あなたたちものすごく手際がいいけど…いつもこうしてお料理してるの…?お外で…?」
「うん!お外で食べるごはんは美味しいんだよ!」
「えーいちいちめんどくせえ…保存食でいいじゃねえか…」
セージさんは分かってないな…いいでしょう、とくと味わいなさい!
テーブルセットを出そうとしてラキに止められたので、みんなで地面に座り込んで唐揚げの大皿をつついてもらうことにする。あんまり良い香りプンプンだと怒られそうなので、ちゃんと調理場の空気は上昇気流に乗せて遠くへ運ぶようにした。
「はい、タクトまず一皿ね。食べてていいよ!分け分けしてね!」
「ひゃっほう!おーい!唐揚げできたぜ!!食いたくないヤツは食うなよ!」
分け分けしてねって言ったでしょ!
重いお皿を持ってくるくる喜びの舞を踊りながら運ぶタクトを見送り、オレはさらに唐揚げを揚げつつ、もう一品に取りかかる。
ジュウッ!ジィー…
おとなの手のひら大に切ったドーガー肉を、網でじっくりと炙りながら、仕上げに醤油ベースの甘辛いたれを塗っていく。網に落ちたタレが焦げて、ささやかな煙と共に、食欲をそそる香りがオレの鼻に飛び込んで来た。じゅわあっと溢れる唾液が、小さなお口から漏れ出てしまいそうだ。
「はい、できたよ~ドーガーのキジ焼き丼だよ」
「うおー美味そう-!!」
「んーー良い香り!!」
振り返ったら唐揚げバトルが勃発していたみたいだけど、二人がオレの声を聞いて光の速さで戻って来た。こんがりしたコゲと、てらてらと光るお肉がなんとも美味そうなキジ焼き。オレたちのお口に合わせて薄めに切ったそれを、ほかほかごはんの上にどーんと盛って。
「「「いただきまーす!」」」
ぱくり、と大きな口で頬ばると、驚くほどたっぷりの肉汁があふれ出した。こ、これが…ドーガー!!しっかりとした弾力と共に、あくまで鳥らしくくどくない肉汁がどんどんあふれてくる。たれと肉汁の絡んだごはんは、もうそれだけで何者にも代えがたいご馳走だ!
まるで口がひとつじゃ足りないとでも言いたげに必死に食べる二人を見る限り、お口に合ったようだね。
『おいし~~い!!ぼくこれ好き!!』
「きゅっきゅう!!」
目立たないように設置した召喚獣スペースでは、みんながむさぼりつつ何やら口々に言っているようだ。とりあえず、こちらも美味しいってことだろう。
……ごくっ…
間近に気配を感じて顔を上げると、額がつかんばかりの距離にセージさんがいて、思わずのけ反った。
「あ……わりぃ…」
虚ろにそんなことを呟きながら、視線はオレの手の中……もう唐揚げ食べ終わったの?
「えーと…食べる?」
「「「「食べる!!」」」」
尋ねた瞬間、ギラリと目を光らせた『黄金の大地』メンバーが一斉に声をあげて、ビクゥ!となった。
「……あの…ほんの一口でいいので……」
今度は背後から影が落ちて振り向いたら…そちらには皿をもった商人さんたちが列を成していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます