第189話 怖い顔

『ぼく、カッコイイね!ねえモモ、似合うでしょ?!』

『はいはい、そうね、そのくらいにしてちょっと落ち着きなさい。ゆうたが酔いそうよ…。』

切ない顔をするシーリアさんを振り切って、オレたちは街を歩く。もちろんシロに乗って…そう…浮かれ度MAXのシロに乗って…。ルーってさ…落ち着いてるよね…乗り手への配慮もさることながら、騎乗するには落ち着いた性格の生き物でないといけないんだね…ぴょんこぴょんこスキップするわ跳ね回るわ突然方向転換するわ……シロさんや、オレはリュックじゃないからね…もうちょっとばかり気を配ってくれないかな?幸いティアのおかげなのか酔いはしないけれど…。

『あ!そっか。ゆーたごめんね!ぼくゆっくり歩く!』

オレを乗せていることを思い出してくれたのか、弾む心のままに飛び跳ねる身体をなんとか制御してくれる。それでもたまに『えへへっ』と跳ねるのは致し方ないのだろう…。

オレの騎乗スキルがぐんぐん伸びていくのを感じつつ、良い香りのする通りへやってきた。こういう所はシロだと便利だ。おいしい匂いのする所に向かって!って言えば迷うことないもんね。

「さあ、お昼ご飯買っていこうか!シロ、どれが美味しそう?いくつか選んで秘密基地で食べよっか!」

『美味しい匂いがいっぱいだよ!ぼく、ゆーたのごはんが一番美味しいと思うけど…この中で選ぶならねー…。』

シロが真剣にお店を厳選する。きっとお肉系ばっかりになるだろうから、オレは野菜系を適当に見繕う。お財布の中は大分寂しいことになってきた…早く冒険者登録したいな…。

『ここ!ここのがきっと美味しいよ!これ食べよう!』

『ゆうた!ここ結構美味しそうよ、私もこれがいいわ!』

『主ぃ!ここ最高!最高の至高!ここにしよう!』

頭に桃色スライムとねずみを乗せたフェンリルがあっちを覗き、こっちを覗き…オレが野菜スティックを買う間に色々と目星をつけてきたようだ。ついでに注目も集めてきたので、購入したらそそくさと退散する。ある程度見慣れてもらう意味も込めて街歩きをしているのだけど、あんまり目立つのも恥ずかしい。


『あれ…ゆーた、ちょっと待っててね。』

シロがそう言うなりぴゅんとどこかへ行ってしまった。腕輪を着けているとはいえ、あまり一人でうろつくと危ないよ…主に街の人が。

―ラピスが見てきてあげるの!

ぱっとラピスが姿を消した。傍目にはオレ一人だけど、オレってたくさん人手(?)があるよね…すごく便利だな。レーダーの範囲を広げてラピスとシロを補足すると、どうやら少し離れた路地裏にいるようだ。こちらへ向かっているようなのでしばし待つ。走れば速いのにゆっくりと歩いてくるのはどうしたんだろう?


―ユータ、シロが迷子をみつけてきたの。

先行して戻ってきたラピスから報告を受ける。迷子…?シロが泣いてる声でも聞きつけたのかな。

「っく…うっく…。」

『ゆーた、ただいま!この子がね、泣いてたの。』

シロが背中に乗せて慎重に運んで来たのは、2歳くらいの女の子。しゃくり上げてはいるものの、もう泣いてはいない。

「こんにちは!急にごめんね?びっくりしたでしょ?どうして泣いてるの?」

「ぃっく…ひっく…ままが…。うぇ…うえぇ…。」

せっかく止まったであろう涙が、大きな藤色の瞳からぽろぽろと溢れてくる…。ああ…ご、ごめんね…こういう時はティアだ!ティアはすぐに察して、チョンと女の子の手に乗った。

「ピピッ?」

「わあ…とりしゃん…。」

女の子は目をまんまるにすると、ティアを両手で包んで頬を上気させた。

「この子はティアって言うんだよ。君のお名前言えるかな?」

「てぃあ…アンヌの おままえは、アンヌっていうの。」

「アンヌちゃんか、ちゃんとお名前言えたね!どうして泣いていたの?ママとはぐれちゃった?」

「ちがうの…ママがかくしたの。でてきたらままがいないの。」

うむ…全然分からないよ…とりあえずママを探せばいいのかと尋ねると、アンヌちゃんはこっくり頷いた。アンヌちゃんをなぐさめ隊にティアとモモとチュー助を任命して、ラピス部隊の協力を仰ごうかと思ったけど…そうだ、ウチには優秀な警察犬ならぬフェンリルさんがいるじゃないか。

「ねえシロ、アンヌちゃんの匂いでお母さんを探せないかな?」

『うーん…人がいっぱいいるからどうかなぁ?でもぼく、やってみる!』


さっそくアンヌちゃんを見つけた路地裏に戻ると、一旦アンヌちゃんを下ろして捜索開始!アンヌちゃんはすっかりご機嫌でモモを引っ張って遊んでいるので大丈夫だろう。念のためにラピス部隊もつけておいて、オレとシロは匂いを辿る。

『あ、結構かんたんだった!ゆーた、乗って!走って行くよ。』

「うん!でもみんながビックリするからあんまり速く走らないでね。」

『わかった!』

とてとてと小走りするシロに乗って、通りを抜けていく。

『ゆーた、あのね…ママさんだと思う匂いに、違う匂いがずっとついてきてるの。』

「着いてきてる?どういうこと?」

『わかんないけどね、ママさんはあっち行ったりこっち行ったり、一生懸命隠れようとしてるみたい?』

「誰かから逃げてるってこと?トラブルがあったのかな…。もし悪者に追いかけられているならのんびりしていられない!シロ、急ごう!」

『わかった!つかまってて!』

さらさらした毛並みに身を伏せて、しっかりとつかまると、シロは猛然と走り出した。ひょいひょいと屋根を越え、あっという間に街外れだ。

『!ゆーた、ママさんの声が聞こえるの。きゃーって、誰かーって言ってる。』

「っ!シロ、オレを下ろして先に行って!」

言いながら飛び降りる。シロ単体の方が絶対速い!状況が分からないからラピスを行かせられないし…悪人ならともかく、誤解で一般人を黒焦げに…とか目も当てられない…。

一陣の風になって消えたシロを追って、オレも走る。


とある建物の中、そこにシロがいる。息を切らせて駆けつけると、そっとラピスを派遣して中の音声を拾った。

「な、なんだよこの犬!でかい図体で…邪魔なんだよ!」

「お前追っ払えよ!」

「てめーがやれよ!」

シロは間に合ったようだ。ホッとしつつ、さてどうしようか。どうしてママさんが追いかけられていたのか分からないし…それでもなんとなくママさんの味方をしたい気がすごーくする。

どちらも傷つけずにママさんを助け出せたら一番厄介がないと思うんだけどね。そのままシロに助け出してもらってもいいけど…そうだ、相手が逃げ出すようにすれば追ってこられないしベストだよね!


(シロ、ママさんは無事?)

『うん!怖がってるし叩かれたみたいだけど…無事だよ!』

(じゃあそこにいる人達を怖がらせて、そこから追い出して!)

『怖がらせるってどうやるの?』

(シロはフェンリルだよ?怖い顔で唸ったらきっと逃げ出すよ!)


「ウゥーー…。」

『みんなお外に出なさーい!怖ーいフェンリルだよー!』


ああー…ダメだ。気が抜けるほどお人好しのフェンリルには怖い顔は荷が重い…。一応でっかい犬が唸ってるので怖がってはいるみたいだけど…。

「犬が怒ってるじゃねえか!早く追っ払えよ!」

「おい…お前魔法使えるんだろ?やれよ!」

ダメだ…逆に攻撃を受けそうだ。


(シロ、実はシロの好きなハンバーグいっぱい作ったんだけどね…)

「ウーーー…ウ?!」

(全部…チュー助が食べちゃったんだ…。)


「グルルルルァ!!!!!」

『ひどーーーーい!!!』


「ひっ?!」

「う…うわあああ!!!」

「おいっ!?待てっ!うわぁーー!!!」


効果は抜群だ!!



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