第154話 小出しにしていきたい

「何がだめなの?オレも魔法の練習しようと思って…。」

「それはいいんだよ。魔法の練習は。」

「シールドも転移も超高難度だよ~!転移とかすごく素質がいるしそれ専門で生きていけるよ!」

そうなのか…そう言えば転移はそういう職業の人がいるって言ってたな。隠密さんって実はすごい人だったんだな。執事さんもシールド使えるって言ってたと思うし、さすがってところだね。


「でも、できる人がいるんだから練習したらできるようになるかもしれないでしょう?」

「いやー普通はさ、そうやって練習したとして、やっぱりできませんってもんなんだけどさ。」

「ユータはさぁ~練習したらできそうじゃない?だからおかしいんだよ。」

何がおかしいか分かりません!練習してできるようになったら、すごいね、がんばったねで良くないかな?!


「ユータちゃーんご機嫌なおせー!ほーら!」

むすっとむくれたオレに気付いて、タクトがダンスのようにくるくる回りながらオレを高い高い(?)する。

「うわっ!?タクト!オレ赤ちゃんじゃないから!」

あっはっはと笑いながら子どもに振り回されるのは結構怖い!そりゃあオレの体は小さいけど、タクトだってまだ6歳なのに…鍛えるとその分力が強くなるこの世界は不思議だ…。けど、この世界にはその必要があるからなのかもしれない。オレをがっちりと支える、まだ細く小さな手を感じながら少し切なく思った。




* * * * *


「おう、足取りは?何が分かった?」

「Aランクを名乗る男が半年ほど前に商人のところで護衛として働きだしたこと、魔寄せを買って、商人の息子に渡した後、街を出たこと。街を出てからは人の目がないから分からん。近辺の街に立ち寄っていないことは分かった。」

「おう、なんだ…ほとんど何も分からんじゃねえか。」

「うるせえ!オレは追跡と潜入が専門だ!過去のことを調べんのに向いてねえんだよ!その野郎が見つかってからが俺の仕事だろうが!」

「まあ調査はあいつらに任せるか。しかしどこにも立ち寄ってないとなると、外で生活する野盗なんかの一派か?しかし行動の意味がわからん。」

「野盗にしちゃ腕がいい。Aランクを名乗っておかしくない腕だったようだ。そんな実力があんのに盗賊なんかやるとは思えん。」


ふと何かに気付いたスモークが、さっと窓際へ転移する。

「戻りました。」

ノックの音と同時に入ってきたのはマリー。スモーク…相変わらず苦手なものには敏感なヤツだ。

「おう、おかえり!どうだ?」

「足取りをつかむのが困難です、普通の人物ではありませんね。相当な実力者で、商人の護衛として信頼を得ていたようです。夜に一人で出歩くことがあること以外不審な点はなかったようです。また、既知のものを知らなかったりわずかな訛りがあることから、国外の者である可能性があります。」

「そうか…今のところ魔寄せを渡したこと以外におかしなところはないわけだ。夜に出歩くぐらい冒険者なら皆やってるしな。」

「あとはここに来るまでの情報がなさすぎることが不審であるぐらいでしょうか。」

「それも国外から来たなら無理ないことかもな。他国で罪を犯して逃げてきた輩かもしれん、引き続き可能な限り情報を集めるとするか。」


不審人物の狙いは分からないが、ひとまずユータとの関連はなさそうだとホッとする。

最近こちらへ帰ってくる回数が減って、エリーシャが嘆いているからな…そんな危険人物が関わっているとなると、突撃して行きかねん。

全く、あの野郎は何やってんだろうな…もう少しマメに戻ってきてもいいと思うんだが。

手を離れた途端にみるみる成長してしまうようで、俺は目を伏せて微かに笑った。




* * * * *


『こうよ!甲羅にこもる時と同じよ!シールド!』

モモ…オレは甲羅にこもったことなんてないよ……。

オレたち3人+αは今日も地下秘密基地に来ている。そしてオレはどうやら指導には向いていなさそうなモモと一緒に、シールドの魔法を練習…というか習得目指して頑張っている。モモが言うには、オレはモモの魂を共有しているから、絶対にできるはずなんだって…。そう言われても…シールドって一体何でできてるの??ちょっとイメージしにくいんだけど…。

ちなみにラピスも感覚派なので、いつも『シャッとしてぴゅっとやってどーん!』みたいな説明だ。分かるような分からないような。あとは体で感じて覚えろ!ってヤツだね。それでも通じるのはやっぱり従魔だからなのか…。


―モモのシールドを触って確かめてみたらいいの。

シールドって触って何か分かるもの?首を傾げつつも、モモに張ってもらったシールドに手を触れる。

「わあ…なんか不思議。うん、モモの魔力を感じるよ。」

『これをもっと練習して、自在に形を変えたり、もっと硬く強くしたいのよ!』

「へえ~すごいね!頑張ったらドラゴンの一撃も防げるかな?これ、オレの魔力を通せそうだけど、やってみてもいい?」

『いいわよ!ゆうたなら大丈夫。』

ほのかに温かいような、不思議な感覚の膜。これは魔力の塊なんだろうか?シールドに魔力を流すと、すぐさまモモの方へ流れたのを感じる。

「あれ…?これ、モモと繋がってる…?」

『そりゃあ私がシールド張ってるんだから、そうじゃないの?』

これって…あれだ、オレがナイフに魔力を通す時と似た感じ。ふうん、空間に魔力を通すみたいなイメージ…かな?


「んー。……シールド!」

ふわっとオレの体から魔力が拡張して、オレを中心とした半径1mほどの球となって留まる。

おお、これがシールド…!!

『ほら、できたじゃない!簡単でしょ?これでゆうたも甲羅ができたわね!』

モモが嬉しげにむにむにと伸び縮みした。

ホントだ、モモのおかげかな?結構簡単にできちゃったよ。強度がどんなものかは今度みんながいないところで確かめてみよう。…ラピスには頼まないけどね!


できちゃったけど二人に話すのはもう少し後にしよう……しばらく頑張ってからできたことにしないと、またあのじっとりした目で見られそうだから…。

オレはここに自由に来られるし、シールドの練習も色々やってみよう。そうだ、シールド内温度調整とかできたら暑い時も寒い時も便利じゃない?!これは研究の価値ありだね!

「ニヤニヤしちゃってどうしたの~?」

それぞれ離れて練習してたんだけど、魔力切れらしいラキが戻ってきて座り込んだ。ギリギリまで魔力を使ったのか、かなり怠そうだ。

「なんでもないよ!色々便利なことを思いついたんだ。ラキ、大丈夫?」

「うーんちょっとやりすぎちゃった。ここで寝ていたいな~。」

言うなりぱたりと床に寝転がって目を閉じた。魔力切れはしんどいからね…オレだとティアに分けて貰ったりできるんだけど…。魔力回復の薬もあるらしいから、授業で早くやってくれないかな?それにも生命魔法飽和水混ぜたら効き目が強くなるのかな?


「あーー疲れた!!チュー助容赦ないし!」

『タクトは覚えが悪い!ユータを見習え!』

「あんなの見習えるかよ!!」

賑やかに帰ってきた一人と一匹(?)。どさりと乱暴に腰をおろしたかと思ったらそのまま仰向けにばたりと転がった。

「あー床がひんやりして気持ちいいー。」

「みんなお疲れ!喉渇いたんじゃない?」

ぐったりした二人に、よく冷えた生命魔法入りのお水を渡す。

「あーお前便利。超便利。」

「おかしいなーすっごく冷たくて美味しいよ。」

なんだかんだ言いつつ、一気に煽ってぷはーっと一息ついた二人。その顔色が少しよくなったのを確認して、目の前にちゃぶ台を出すとお水のおかわりとクッキーを並べた。こう、ガラスの器とか作れるようになったら、夏場とか涼やかでいいのにね。何もかも茶色い器だとちょっとなぁ。

「……クッキーどこから出てきたの?」

「お前さ、収納袋持ってなくね?」

「えっ………。」

全然関係ないことを考えていたオレは、言い訳も浮かばず沈黙した。

まあいいか…いつか言おうと思っていたし。収納使える人はそこまで珍しくないもんね。

全く、二人は鋭いなぁ…小出しにしていこうと思うのにどんどんバレちゃうから、ちっとも小出しにならないじゃないか。


「何考えてるか知らねえけどさ、それ絶対俺らのせいじゃないから。」

「うん、多分だけどそれユータのせいだから。」


…オレまだ何も言ってないのに……。


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