第132話 頼れる男とぽんこつ男


「だってこのぐらいだったらできる子もいるって聞いたもん!」

「できるか!ってそれ誰に聞いた?」

「カロルス様とか…セデス兄さんだって!」

「おーまーえーなあ!それロクサレン家の人達だろ?!Aランク相当の人達だろ?!規格外!!Aランクって知ってるか?規格外の人外連中だぞ?!」

人外?!それは知らなかった。カロルス様たち…全然ダメじゃないか。あの人達を基準に置いたらとんでもないことになるとこだったよ…やっぱり広く世間を知るためにも学校に早く来たのは正解だったね。

「はあ…これならやっかみを受けても大丈夫な気もするな。ユータは体術なんかも習っているのか?」

「えーと、少しだけど。でも、避けるのは得意なんだ!」

「なーんか心配しなくてもいい気がしてきた…。」



1階まで順番に案内してもらってお部屋に戻ってくると、ラキが目をきらきらさせてオレのベッドに乗り込んできた。

「ねえねえ!ユータは冒険者になりたいんでしょう?もうあんなことできるなんて凄いよ~!僕ねぇ、あんまり戦いは得意じゃないんだけど、加工は好きなんだ。でも、加工するには素材がいるでしょう?依頼するとお金がかかるし…冒険者になったら一緒に行こうよ~!」

「うん!一緒に行こう!」

「僕、ルームメイトになった人と一緒に行きたいなぁって思ってたんだけど、ユータはね、まだ小さいから他の人を探さなきゃって思ってたんだ~!でもあれならきっと大丈夫だよ。」

うわあ、楽しそうだな。いやいや、外に行くのは本気の命がけだから、楽しそうだなんて言ってられないんだけど、みんなで冒険って考えたらやっぱり楽しそうだ。


「お前達、随分軽く言ってるが、外に行くのは相当危険だからな。そのへんは仮登録までに授業でやるから問題ないとは思うが。」

くつろぎ体勢に入って本を取り出したテンチョーさんが釘を刺す。

「うん、大丈夫、怖いの知ってるよ。色々襲われたことあるから。」

「へえ~そんなのほほん顔して危険な目にあったことあるんだ!例えば?」

アレックスさんがなにかむしゃむしゃと食べながら、話しに入ってくる。

「ちなみにさ、俺とテンチョーは冒険者ランクEなんだ!生徒でEって結構スゲーんだぜ?な?」

言いながら下で本を読むテンチョーさんのベッドへ侵入してのしかかった。

「Eランク!!すごい~!僕も、頑張ったらなれるかなぁ~?!」

「なれるさ!ちゃーんと頑張ったらね!」

ラキが二人に憧れの視線を向ける。そうか、ニースたちがDランクでそこそこな冒険者っぽかったから、大人と同等ってことだもんね。

「そんで、ユータはどんな魔物を見たことあるの?」

「ええと…大きいトカゲに、ティガーグリズリー、ゴブリンがたくさん、ウミワジ、ゴブリンイーター……かな?あんまりお外には行けないから見る機会ってあんまりないんだけど。」

「ぶふっ!なんでそんなに遭遇してんの!?よく無事だったなー!」

アレックスさんが口の中のものを盛大に吹き出した。当然ながらのし掛かられていたテンチョーさんに甚大な被害が及ぶ。

「っ!……!!お前ーー!!」

「あっ!ちょ!不可抗力!不可抗力だってー!」


テンチョーさんが怒りの形相でアレックスさんの胸ぐらを掴んで何やら呟くと、小さな氷塊が出現してドザザーっとアレックスさんの襟足から背中へ注がれた。

「ひょわあーーつめてっ!!つめてー!!」

そのまま自分のベッドへ放り投げられたアレックスさんは悶絶して服を脱ごうとしている。

テンチョーさん、魔法使いなんだ!


「すごい……発動早い…コントロール能力高い…。」

ラキは恋するオトメのような眼差しでテンチョーを見つめている。

「ラキは魔法使いになるの?」

「えっ?どうかなぁ……魔力って加工するのに使ってただけだからね~、僕魔法使いになれるほど魔力あるかなぁ…。でも剣で戦うよりは魔法の方がいいなぁ。」

確かにラキは魔法使いの方が向いてそうだけど、口調がおっとりしているから、あの早口呪文言えるんだろうか?執事さんの呪文とか滅茶苦茶早いよ?

「ラキは加工が得意なのか?その年でできるなんてなかなかの才能だな!同室に腕のいい加工師がいるなんてラッキーだ。」

「で、でも僕、まだそんな加工させてもらったことないんだよ!まだできないよ~!」

「私が卒業するまでにはモノになってるだろ?楽しみにしてるぞ!」

ラキは自信なさげにするが、同時にとても誇らしそうだ。やる気を漲らせるその芯の通った姿は、きっといい加工師になると予感させた。




「よしっ!ラキ、ユータ、飯の前に風呂行こうぜ!」

氷浸けになった服を脱ぎ捨てて、上半身裸のままごろごろしていたアレックスさん。寒かったんだね…両腕をさすりながら声をかけてきた。

お風呂!寮の案内してもらった時に、お風呂の前まで行ったけど中は見てないんだ。お風呂は1階の長い廊下を渡った先にあって、男子寮女子寮共通なんだけど、当然ながら浴場自体は男女に分かれている。貴族の子どももいるからちゃんと湯船まで完備されているんだって!

ラキと手を繋いで、アレックスさんの賑やかな先導のもと、うきうきしながらお風呂へ行くと、この時間でも入る人は結構いるのか、女湯の前に数人の女性がいた。


「よっすー!今から風呂?俺の湯上がり待ち?」

「誰が!ってあんた風呂場に行ってから服脱ぎなさいよ!…え……ちょっとちょっと何やってんのよ!!」


振り返った女性は結構上の学年のグループらしく、やはり見た目は日本より随分と大人っぽい。特に女性の方はどの辺りが子どもでどこから大人なのか謎だ…オレの目にはもう十分大人に見える。慌てた様子でこちらへ駆けつけると、きょとんとしたオレとラキの前まで来た。

「わ!」

ふわっと体が浮いて、いい香りの柔らかな体に抱き上げられる。突然の出来事に目をぱちくりさせていると、ぎゅうっとされて女子グループに連れ去られた。

「あれっ?ちょっとうらやま……じゃなくてなんでユータだけ連れてかれてる状況?!俺は??」

「あんたなに男風呂に連れ込もうとしてんのよ!こんな子男風呂に入れたら大変じゃない!」


「きゃーかわいい!なにこの子?どうしてここにいるの?」

「私も抱っこさせてー!」

「ほっぺぷにっぷによ!何これ羨ましい!」

あのっ…子犬じゃないんですけど……何やら怒っている女生徒から他の女生徒へ次々受け渡されていくオレ。一体何事?戸惑うオレたちに構わず女子グループが歩き出す………女風呂に向かって!

「待ってー待って!!なんでっ?やだやだやだ!!離して-!」

「ああっ!!それはちょっと!ユータ俺と代われ?!今すぐにだ!!」

アレックスさんのおばか!ぽんこつ!!

オレを助けようともせずに悔しがるアレックスさんを内心罵倒しながら手足をばたばたさせる。

「どうしたの?アレックスたちと入りたかったの?でもあっちは男風呂なの。あなたが入ったら危ないわ。」

涙目で暴れるオレをよしよしと赤子のようになだめる女生徒。


その時、服の裾をくいくいと引く手に気付いて女生徒が視線を下げた。

「あら?ごめんね、あなたは男風呂に行かなきゃいけないのよ?あなたくらいなら私は構わないんだけどね。」

「ううん、お姉さん、その子男の子なんだ~僕と同室の子。そっちに行くの恥ずかしいと思うよ?」

「えっ??」

驚いた女生徒たちがまじまじとオレの顔を見つめる。

「男の子……?」

「そう!そうなの!!オレ、男!ユータって言うの。」

「ホントに?!こんなかわいいのに…」

「ええっ?もう男の子でもいいんじゃない?こっちに入りましょうよ!」

女の子だと思われていたのか…ガックリしながら急いで告げると、不吉な声が聞こえたので慌てて下ろしてもらい、ささっとラキの後ろにまわった。


「ユータくんならこっちの方がいいと思うけど…」

「ううんっ!オレこっちがいい!!」

アレックスさんが信じられないものを見るような目で見てくるけれど、オレ4歳なんで!そういう興味はまだ芽生えてないです!!

残念そうに振り返りながら女風呂へ向かった面々にホッと一息。


「ラキ~ありがとう!!オレどうしようかと思ったー!」

ラキの胸にすがりついて感謝する。さっそく守ってくれてありがとう!君は頼りになる男だ!!

「はは、ユータは女の子に見えちゃうもんね。オレも最初女の子かと思ったぐらい~!」

ううっ…それは悔しい。そうか…ここの制服は男女に差がないから、余計に区別がつかないのかもしれない。小さいと余計分からないだろう。

「そうなんだ…そんなに女の子っぽいかな?あー早く背が伸びないかな!」

「身長の問題かなぁ…。」


「あ、寒っ?!なに?なんか寒っ!」

助けてくれなかったアレックスさんにはこっそり冷風を送って、オレ達は風呂の入り口をくぐった。





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