第126話 抗菌抗呪作用

オレは不安だった試験を終えて気分爽快、すっきり爽やかだ!

随分精神的ダメージは負ったけれど、あの試験で落とされることはないだろう…多分。

入学まであと少し……期待半分、不安半分だ。



「ねえねえ、ユータちゃん着て見せてよ!おねがい!」

かわいくお願いしているエリーシャ様が持っているのは、オレの制服。サイズが自動で調整されるという便利機能のついたお高い服!

あれからハイカリクに一泊して帰ってきたのだけど、セデス兄さんは制服を受け取ってくれていたみたいだ。そりゃあオレも着てみたいけど、何もこんな朝一番に部屋に乗り込んでこなくても…。

請われるがままに袖を通すと、ごくわずかな魔力を感じる。これって制服も魔道具の一種になるのかな。

「いいっ!素敵!!ふっふぅ!」

制服姿に大はしゃぎしたエリーシャ様は、館中どころか村中にオレを連れてまわった。エリーシャ様、落ち着いて!……オレ恥ずかしい。

「もう!エリーシャ様、みんなあきれてるよ!用もないのにうろうろしないの!」

「どうして?!用ならあるわよ!ユータちゃんを見せびらかしたいのよ!!」

エリーシャ様はどうしてこう冷静な時とそうでない時のギャップが大きいのか…別人レベルだと常々思う。

館に戻ったらさっさと制服を脱いだオレに恨めしげな目を向けられたけど、もう十分でしょ!少なくともオレは十分です!オレはあんまりかわいいと言われてもちょっとばかり複雑だ。だってもう学校に行くんだよ?タクトだってしっかりと男の子の雰囲気を漂わせていたし、村のルッカスだって男の子!って感じだ。いやいや、オレはまだ4歳だから仕方ないけどね。6歳になる頃には男の子らしくなってるんだ。多分。


エリーシャ様とメイドさんたちから逃れ、部屋で一息つくと、学校に入学するまでの貴重な時間に何をして過ごそうかと考えを巡らせる。フェアリーサークルがあるから、ルーのところに行くのは問題ないし…館の人たちと離ればなれになっちゃうから、兵士さんにもっと稽古をつけてもらった方がいいのかな。ナイフや短剣の練習もしたいし。ただ、学校行ってもここには度々戻ってくる気がするから、あんまり今と変わりないかもしれない。



「うーーん、これどうしよっかな……。」

特にしないといけないことを思いつかなかったので、結局いつも通りやりたいことをするって決めた。

そこで収納から取り出した雑多な品々を前に、オレは悩んでいる。

目の前に並ぶ品々から漂う、あまり感じの良くない気配。あの日、ハイカリクで呪いグッズの被害を受けそうになったお詫びにと、色々貰った呪いの品。セデス兄さんに解呪していいよと言われたけど、呪い自体が役に立つ物だったら困るなあ。


「お主、そんなものを集める趣味があるのか…。」

失礼なことを言いながら手元を覗き込んだのはチル爺。

「ユータ、これなに?」「さわりたくないかんじ。」「きもちわるーい!」

妖精たちには呪いが分かるんだね。散々な言われようだ。

「これはね、呪いの品なんだけど貰っちゃったからどうしようかなと思って。オレが集めてるわけじゃないよ、役に立つ呪いもあるらしいからさ。」

「役に立つ、のう……人は案外そういう所が鈍く出来ておってよいの。我らはそんなもの気持ち悪うて持ってられんわ。」

そうなのか。オレもあまり気持ちよくはないけど、この程度の呪いならさほど禍々しくも感じない。でも、そう言うならもう綺麗さっぱり浄化してしまうのもいいかもしれないね。いい練習になるだろうし!

「よーしじゃあ解呪しちゃおうかな!」

「お主そんなノリで……。」


まずは一番呪いが軽そうなカトラリーセット。効果は、持つと一瞬震える…ただのビックリグッズだ。こんなささやかな呪いだとむしろ形として捕まえる方が難しい。ルーの呪いに比べたら吹けば飛びそうなレベルで、あれが呪いという生き物だとしたら、こっちのはその残り香みたいなものだ。消去してしまった方が早いだろう。

そうだね…こういうのどうだろう?今回の解呪、むしろ消し去ってしまうから浄化だろうか、その具体的イメージが固まった。


「ユータよ、呪いの解呪というのはそも、生命魔法使いでも素質のいるものでの、回復より高度なものじゃからそうほいほい誰もができるワケではないのじゃよ?ちゃんと習ってから段階を踏んで……。」

「えーと、浄化!」

ピッと指さすようにカトラリーに人差し指を向けると、しゅわっと金色の霧が広がって包み込んだ。

「………簡単そうじゃのう。」

そうでしょう!いいの思いついたと思うんだ。さあどんどん浄化しちゃうよ~!さてオレがイメージしたのはなんでしょうか?!

「浄化、浄化~!」

シュッシュ、シュワッ!これは簡単便利だ…さほど時間もかからず呪いの品はただの雑多な小物類になった。軽い(?)呪いにはこれがいいね!重い呪いにはルーの時に使った浄化法、洗浄や滅菌を含めた選択的な浄化には、薬草の時に使った白血球くんがいいね。浄化だけで3種類も魔法ができてしまったけど、ルーの時のが特殊なだけだからなぁ。あれは二度と使うことはないかもね。

ついでにお部屋にもシュッシュと!完全無香料で抗菌抗呪作用がありますよ~なんてね。

「きれい~!」「きゃー!気持ちいい!」「こっちもこっちも!」

金色の霧の中を、妖精たちがきゃっきゃとはしゃいで飛んでいる。

「…高度な魔法……。」

チル爺が何やら煤けた背中で窓の外を眺めていた。



「さて、あとはこれなんだけど……。チル爺、これなに?」

「ふむ?なんじゃこれは?」

見た目は何やら色々な模様か呪文が描かれた円柱型の物体だ。中が空洞だったら花瓶に見えるかな?

「ゆーた、ここ!」「なにかかいてるよ?」「せつめい?」

謎の物体だったので他と分けてあったんだけど、説明書きがあったのか。裏返してみるとメモ用紙が貼り付けてあった。

「えーと……これは説明っていうより店員さんのメモだね。何か調べてる途中だったんだろうね……。」

そんなものをお詫びの品に入れないでほしいと切に思うが、もらってしまったものは仕方ない。そこには汚い字で『―仮:魔力を吸い取る呪い。魔力保管庫に呪いを添付したものか?敵側の魔力吸収に有効ではないか―』と書かれていた。色々検討したらしき呪いの考察が斜線で消されている所を見ると、概ねこの情報が最終決定でいいのだろう。

「魔力保管庫ってなに?」

「ほほう!魔力保管庫じゃったか。魔力保管庫はそのまま、魔力を貯めておくものじゃよ。どのくらい貯められるかで価値は変わるが、大型の魔法を使う時なぞ便利な物じゃぞ。」

へえ、いいものがあったね!充電式の電池みたいなものかな?普通に保管庫として使いたいし、呪いの効果はいらないからシュシュッと浄化してしまおう。


これ、一体どうやって魔力を貯めておくんだろうね?試しに魔力を注いでみると、土に水がしみこむように、すうっと吸い込まれていく感覚がある。おお、これは面白い。

「ふむ、なかなかの拾いもののようじゃな!こいつは魔力保管量が多そうじゃ。」

そんなの貰っちゃって良かったのかなと思うけど、呪われてる状態だと素手で触るだけで少しずつ魔力吸い取られちゃう微妙なものだったし、許して貰おう!ちなみにどうやって魔力を引き出すのかは知らないのだけど、満タンになったら引き出せるのかな?利用する予定はないんだけど、貯めていくのってなんだか貯金箱みたいでわくわくするね!

毎日寝る前に魔力を貯めようと決めて、枕元に保管庫を置いた。


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