第107話 楽しい一日

そろりそろりと森から出てきたのは、森の動物?何となく言ってることが伝わってそうなので多分、低位の幻獣ってやつかな?幻獣店のルルみたいな森跳鼠フォリフォリもいるね。


うさぎみたいなの、小さなお猿さんみたいなの、そしてフォリフォリだ。かなり離れた森との境目から、物欲しそうにじーっとオレの手元を見つめている。

「こっちへどうぞ!」

にこっとすると、お猿さんみたいな幻獣が恐る恐る近寄ってきた。じっと動かずにいると、じりじり近づいたお猿さんはもの凄くへっぴり腰で限界まで手を伸ばし、ちょん!とオレの手を触ったら、電光石火で森の際まで駆け戻った。オレにぱくっと食べられるとでも思ってるんだろうか?


「ふふっ!速いね。ほら、オレこんな子どもだよ?ルーも怖くないでしょう?大丈夫だよ。」


ちょろちょろ、ちょろちょろと近づいてきたのはフォリフォリ。じーっとこっちを伺いながら左右に進路を変えつつ近寄ってくるのが可笑しい。

どうぞ、と手を差し出すと、さっきのお猿さんが凄い勢いで戻ってきてオレの手にしがみついた。「僕が先なんだから!」と言わんばかりだ。

「いいよ、勇気ある君からブラッシングしようか?」

覚悟を決めたらしいお猿さんを膝に乗せると、ゆっくり優しくブラッシングする。動物らしい、少し固めの毛並みだ。緊張している体をリラックスさせようと、ほんの少しだけ魔力を流してあげる。


最終的にオレの膝の上でぐにゃりとだらしなくされるがままになったお猿さんを見て、フォリフォリが肩に乗り、うさぎがオレの膝に前肢をかけていた。

「順番、順番ね。」

お猿さんを柔らかい草の上に寝かせて、次はフォリフォリ。次はうさぎ。その次はリスっぽいの。そしてたぬきっぽいの…………ってあれ?増えてない?

気付けばズラリと色々な生き物に囲まれていたオレ。えっ……こんなに?さすがに無理があるような……。

いつの間にか起きていたルーが呆れた目でオレを見ていた。

「お前、森中の幻獣を手入れするのか?」

「そ、そんなつもりは……。」

周囲の期待に満ちた視線が痛い……次々ブラッシングする間にもどこからともなく集まってくる幻獣たち。一体どこから聞きつけてやってくるんだろうか……。



「……はい、今日はここまでね。みんなするのは無理だから、また今度ね!」

危険は無いと判断したのか、すっかりリラックスモードになって思い思いくつろいでいる幻獣達を見回して告げる。

「きゅ!きゅう!」

―ユータは用事があるの!またね!

集まった幻獣たちは、やはりある程度言葉が通じるらしく、渋々と退散していった。聞き分けが良くて助かるよ。それにしても幻獣っていうのは結構人懐っこいものなんだな。

用事っていう用事はないけどあんまり他の幻獣に構っていると、ルーが拗ねそうだし……ブラシももう一つ買おうかな?

「ルー、起きてたの?」

「何か近寄れば起きるだろうが。」

そうかな?オレが来てもいつも寝てるじゃない。

ラピスも起きているけど、ティアはまだすやすや寝ている。寝息に伴ってふわふわ毛玉が膨らんだりしぼんだりするのが面白い。

オレはルーの上に体を投げ出して、改めて全身でさらふわを堪能する。ちなみにルーを洗って全身泡だらけになったので、オレもぴかぴかだ。

この聖域じみた場所にオレたちだけになって、再びウトウトしだしたルー。その上で、ゆっくりと撫でながら贅沢な時間を過ごす。

さすがにさっきまで寝ていたから、オレは眠くない。


……そう思っていたのに、ぽかぽかしてふわふわに包まれていたら、オートで寝てしまう機能が幼児には備わっているようだ。ラピスに起こされて目を覚ますと、もう帰る時間だ。もっと堪能していたかったのに、勿体ない……。

「じゃあ、またね。ルー、ツヤツヤピカピカだよ!やっぱりたまには洗おうね!」

「……フン。」

そっぽを向いたけど、この毛皮には満足しているみたいで否定はしなかった。よし、もっと簡単に洗える魔法とか考えてみようかな。そしたらルーも嫌がらずに定期的に洗えるかも知れないね!食洗機もほしいなって思ってたし、洗うことに特化した魔法って便利かも知れない。



「ちょっとちょっと!ユータ一体何してきたの?動物ととっくみあいでもしたの?!」

館に帰ると、セデス兄さんが目を丸くした。見るとオレの全身毛まみれだ。ルーはほぼ毛が抜けないので大丈夫だったけど、他の幻獣は普通の動物と一緒だからなぁ……色んな毛にまみれたオレはすごいことになっていた。

「わぁ……気付かなかった。あのね、森でブラッシングしてたの。」

「何をどうブラッシングしたらそうなるのか知らないけど……お外で払っておいで。お掃除したメイドさん達が泣いちゃうよ!」

そうだね!慌ててお外に出て服を払ったけど、なかなか毛は落ちない。もういっそ洗濯しちゃった方が落ちるかな?そうだ、さっきみたいに全身洗っちゃえばいいんじゃない?

人の目がない裏庭の方へ行くと、土魔法で大きな四角いプールを作った。オレは深いのが好きだから、高さも結構なものだ。お水だと寒いので、ぬるめのお湯を満たして完成!わーい!

さぶーん!と飛び込んだら、ゆっくりと体が沈んで浮き上がる。こぽこぽ……と耳元で聞こえる泡の音が心地いい。

「ぷはっ!最高!」

肌着以外はプールの中に脱ぎ捨てて、思いっきり水中を楽しむ。プールなんて、いつぶりだろうか?そうだ!滑り台も作ってみよう!


「きゃー!」

「きゅきゅー!」

ばしゃーーん!小さな滑り台を設置したら、いつの間にかラピスや管狐たちもしゅーっと上手に滑っては飛び込んでいた。ティアは滑り台のてっぺんでウトウトしている。

スライディング滑りー!

うしろ滑りー!

ぜいはあしながら何度も何度も往復する。滑り台、楽しい!お水に飛び込むってなんでこんなに楽しいんだろうね!


「ユータ、たのしそう!」「やりたーい!」「おみず、あったかーい!」

あっ、妖精トリオだ!

「一緒に遊ぶ?でも、はねが濡れても大丈夫なの?」

「虫みたいに言うでないわ!大丈夫に決まっとろうが。」

チル爺!なんだか久しぶりだ。その翅、すごく虫っぽいけど大丈夫なんだ!チル爺は遊びそうになかったので、一画を浅いお風呂にして熱めのお湯を入れてあげた。

「ピピッ!」

「ほほっ!これは良いの。」

ティアとチル爺がのほほんと浸かって目を細める横で、オレたちは水しぶきをあげて遊ぶ。


「きゃーー!」

「「「きゃー!」」」

ばしゃーん!ポシャポシャポシャ!

妖精の翅は本当に濡れても大丈夫そうで、しっかりと水を弾いている。



「…………お前……どんだけ規格外な遊びしてんだよ……。」

きゃあきゃあ言いながら遊んでいると、いつの間にかカロルス様たちがプールの外に揃っていた。

「楽しそうねー!でもユータちゃん、もう夕方になっちゃうから上がっておいで~!」

「おかしいな……僕、お外で服を払っておいでって言っただけのハズ……。」


「うふふっ!楽しいよー!!ねえ!みんなもどうぞー!」

「いや……まぁ楽しそうだけどよ。」

「私はそっちのお風呂の方がいいわぁ。」

「ね、ねえもしかしてだけど……妖精が来てる?さっきから変な場所で水しぶきがたつんだけど?」


あ、そっか妖精は見えないけど水しぶきが見えるもんね。うん、あっちこっちではしゃいでるよ!

「うん!来てるよ!チル爺はそっちのお風呂にいるよ!」


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