第104話 みんな似たもの同士

「えーと・・執事さん・・あの、薬草けっこういっぱい集まったんだ・・これどうしよう?」

「おや、そんなに見つかりましたか?」

「えーと・・このぐらいは。」

どさーっとテーブルの上に出した薬草は、大きな花束みっつ分ぐらいある。

「・・・・・この短時間でどうやって?」

「あの・・ティアがね、薬草生えてる場所がわかるみたいで・・。」

執事さんは、ふーっと大きなため息を吐いて遠くに目をやった。

・・あ、執事さんなんかセクシーだな・・きっとモテてたんだろうなぁ・・。こういう大人の、クールなかっこよさもいいかもしれない。鍛えてもダメだったら・・・クールな大人目指そうかなぁ・・。


「・・・ユータ様、普通こんな短時間で薬草はこんなに採れません。」

ぼんやりと全然関係ないことを考えていたオレは、思わずビクリとしたのを誤魔化して頷いた。そうだよね、オレもそう思うよ。

「覚えておいて下さいね?成り立ての子どもの冒険者が採ってこられる量は・・・このくらいです。多くてもこのぐらいですかね。丸一日薬草に費やしはしないでしょうから、半日でこのくらいです。」

「えっ・・・こんなに少ないの・・。」

「そうですとも。森などに比べれば少なく弱いものが多いですが、この平原にも魔物は出ます。魔物を警戒しながら薬草を探すので、一人当たりこのくらいになりますし、そもそも一人では出歩きませんからね。」

あー!そうか、忘れてたよ・・そうすると薬草採りってすごく割に合わない作業じゃない?数人で少しの薬草集めても・・・その日の食事代にもならないんじゃないかなぁ。

「分かりますか?冒険者は厳しい職業です。日々食いつなぐのが精一杯の者が大半の職業ですから、悪いことを考える者もおります。ユータ様がそんなに簡単に薬草を集められるのを知ったら、例えば子ども同士でも何が起るかわかりませんよ?これから学校へ行くようになったら、十分気をつけて下さいね?」

「はい・・。」

「・・・けれど、ユータ様は実力が遥か高みにありますから、それを抑え続けるのも、もはや無理な話かも知れません。隠せない時は・・・思い切り見せてやりなさい。雑魚が適う相手ではないと、知らしめてやりなさい。」

わ・・わぁ~執事さん怖い・・フッと笑った顔がなんとも酷薄でサマになっている。優しい顔とのギャップがすごいね・・。

「で、でも・・そっちもできるかなぁ・・オレ、どっちも自信ないかも。」

「ふふ、ユータ様ですからね。・・それでいいですよ、あなたはそのままが一番素晴らしい。」

「・・そう?ありがとう。」

突然褒められて(?)嬉しかった。そのままでいいって、丸ごと受け入れてくれているようで、とても嬉しい言葉だ。ふわっと自然に浮かんだ笑顔に、執事さんもまぶしそうに笑った。


「・・・ちょっと。どうしてグレイとそんないい雰囲気なの?!私は?ユータちゃん、私ももうちょっと構ってくれてもいいじゃない・・・。」

「・・・エリーシャ様は寝起きがあまりすぐれませんので・・ユータ様、どうぞなぐさめてあげてください。」

エリーシャ様・・・寝起き悪いんだ。テーブルに突っ伏して顎をついたまま、こちらを見つめて目を潤ませている。なんだかキリッとしている時と全然違って、くすっと笑ってしまう。

「エリーシャ様、テーブルなんかで寝ちゃって大丈夫だった?お顔に跡がついちゃってるよ?」

きれいな白い肌に残る赤い跡が、なんだか痛々しく見えて、オレのまるっこくて小さな手でなでなでしながら回復する。

「わ・・これ、ユータちゃんの回復?すごいわ・・・なんて心地よくて綺麗な魔力・・。」

すっと目を閉じたエリーシャ様こそ、女神様みたいでとても綺麗だと思った。こんな綺麗なのに・・・戦闘したらカッコイイんだもんなぁ。

赤みが完全に消える頃、賑やかな声が響いた。


「あー!なに二人でいちゃいちゃしてるの!僕だってユータといちゃいちゃする!」

ヨダレを垂らして寝ていたセデス兄さんが、いつの間にか起き上がっている。

オレはエリーシャ様と顔を見合わせてふふっと笑った。やっぱり親子だなぁ・・言ってること、おんなじだよ?

「ごめんね!寂しかった?!私のセデスちゃん!」

「ぎゃー!ちょっと!母上!体術使うのは・・反則!反則!!僕はユータとっ・・ユータといちゃいちゃしたいって言ったんだけど!?」

「うふふ!そんなこと言って~ママが取られて寂しかったんでしょ?!大丈夫、ママはセデスちゃん大好きだからー!」

「うくっ・・絞めながらスリスリしないで!!恥ずかし苦しい!!いたっ!痛いってー!」


あはは!この間のカロルス様を思い出す・・これもまた、似たもの夫婦ってやつかな?エリーシャ様はさすがに加減をしているようだけど。セデス兄さん、愛されてるなぁ!


相変わらず寝こけているカロルス様を放置して、午後の穏やかな(?)時間が過ぎていった。



「んんーーっ!!あー、よく寝た!!いいな、こう開放的なとこで寝るってのはよ!」

普通開放的な所って寝にくいんじゃないかと思うけど、ワイルドな人は違うらしい。さすが、完全捕食者はすごいなぁ・・。

カロルス様がようやっと起きてきたのをきっかけに、ピクニックは終了を告げる。

街の門をくぐる時、門番さんがやたらキラキラした目でカロルス様を見つめていた・・・冒険者さん達、門番さんに言ったんだろうね・・。



「きゃー!カロルス様ぁ!」

宿に向かっていると、ギルドから飛び出してきたジョージさんが、低い声でキャーキャー言いながらまとわりついてきた。

「・・・なんだ?」

ジョージさんを避けようと、カロルス様がジリジリと後退していく・・これは・・狙った獲物を群れから引き離す、肉食獣の動きッ?!

まさに獲物を捕らえんとした瞬間、ジョージさんの体がぶらんと宙に浮いた。

「ジョ・オ・ジ!・・他人の旦那はお触り禁止よ!久しぶりね?」

「エリーシャ様ぁ!今日も麗し・・あらっ?!そこにいる王子様はセデス坊っちゃん?!ああっ!天使ちゃんも?!きゃーー!」


ジョージさんは、エリーシャ様に片腕一本でぶら下げられながら、こちらへ寄ろうと手足をシャカシャカさせる。あ・・ちょっと虫っぽくて気持ち悪いかも。

「他人の息子もだーめ。自分のものだけにしてちょうだい。」

「そんなっ?!」

「で、何の用かしら?」

「おう!お前らか、アレ倒してくれたってな!助かったぜ!」

二階の窓からギルドマスターが顔を出した。

「そうっ!巨大な二体のゴブリンイーターを容易く討伐・・ああ!見たかった!素敵!」

「いや・・お前もできるだろうが・・。」

ジョージさん、さすがサブギルドマスター!強いんだね。

「ちょうど良いところに出てきてくれたから、ついでよ、ついで。それよりコレをちゃんと見張っててくれるかしら?」

「おう、悪い悪い!こっちに投げてくれ。」

・・・投げる?何を・・?

「えっ?ちょ、ちょっと待ってー!」

「えいっ!」

かわいいかけ声ひとつ、エリーシャ様が右手にぶら下げたジョージさんを、振りかぶって・・・投げたぁー!?

「ぎゃあああー!」

野太い悲鳴を上げて宙を飛んだジョージさんは、見事ギルドマスターがキャッチ!うわ、どっちも凄い・・凄いけど・・。


「ひどぉーい!」

ジョージさんの非難の声は窓の中に吸い込まれていった・・。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る