第103話 バレンタインSS
本編と全く関係ないショートストーリーです。関連する羊毛作品は「小説家になろう」さんの方でご覧になれます。
* * * * *
「あ・・・。」
壁際に置かれている木製のカレンダーに目をやって、ハッとした。今日、2月14日なんだ・・。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもないよ!」
訝しげなセデス兄さんを誤魔化して、残りの朝食を掻き込むと、席をたった。
「ねえラピス、この世界にはチョコレートってあるのかな?」
―それなあに?ラピスは知らないの!
「そうだよねぇ。あったらいいなぁ・・すっごく甘くて美味しいんだよ!みんなにも食べさせてあげたいなぁ。」
―甘くて美味しいの?!食べたい!ラ・エンに聞いてみるの!!
今にもポンッと消えそうなラピスを慌てて止める。いやいや、そこまでしなくていいから!
「あったらきっと見付かるよ!いつか食べられるといいね!」
本当は、今日欲しいな・・お世話になってるみんなに、お礼をしたいよ。甘い甘いチョコレートで、ありがとうって言いたいよ。・・これも郷愁かな?チョコレート、食べたいな・・オレはなんだかちょっと切ない気分で、コロンとベッドに寝転がった。
―ユータ、ユータ、なんか変わった子が来てるの。
「ん・・?あれ、寝ちゃってた?」
寝ぼけまなこをこすりながら起き上がると、鼻先をふわっと甘い香りが掠めた。
あれ・・この香り・・?
―おねぼうさん、おねぼうさん♪甘~いお願い聞いちゃった、聞いちゃった♪
「え・・・きみは、なあに?」
オレの枕の上で楽しそうにポンポン飛んで歌ってるのは、黒っぽい・・・管狐?
―ぼくは、ぼくは、ショコラだよ!ショコラの魔法、お届けにきたの♪
なんだか随分楽しそうな管狐だ。
「うふふ、ショコラはどんな魔法を届けにきたの?」
―甘~い魔法だよ!まずはお砂糖たっぷりのたっぷり!もってきて、もってきて♪
「お砂糖?」
首をかしげつつもキッチンからお砂糖を持ってきて、ショコラの前に置いてあげる。
―ありがと、ありがと!いくよ!ショコラの魔法、ご覧あれ♪
ショコラはお砂糖の入ったお皿の上をぽん、ぽんと何度か飛び越えると、お皿の縁にちょこんと座って両前足を上げた。
―おいしくなぁれ、あまぁくなあれ、ハッピーハッピー、バレンタイン♪ハッピーハッピー、バレンタイン♪
たんたん、とんとん、たんとんとん!
ちっちゃな前足でタイコみたいにお皿をリズムよく叩いて、しっぽをふりふり、頭をふりふり。
何してるか分からないけど、とりあえず楽しそうで笑ってしまう。
と、ふわっと漂う甘い香り・・
―はいっ!ショコラの魔法、できあがり♪
ぽーんと目の前まで飛び上がったショコラを、思わず両手で受ける。
―ばいばい、ばいばい、また会おうね♪
ちっちゃなお手々でオレの手をてんてん、と叩くと、ショコラはくるっととんぼ返りをうって・・ふわっと消えた。残ったのは、甘い甘い、チョコレートの香り。
―ユータ、ユータ、いい匂い!これなあに?!
ラピスがお皿の前でぽんぽん飛び跳ねて興奮気味だ。
「・・・わぁ・・!!チョコレートだ!!」
お皿に盛られていたのは、ころりとかわいいチョコレート!
―これが、チョコレート!いっぱいあるよ!ラピスも食べていい?!
「ふふ、いいよ。ラピス、いつもありがとうね!」
一粒つまんでラピスに差し出した。
「ピピッ!ピピッ!!」
「大丈夫、ティアもどうぞ・・いつもありがとうね!」
うっとりと至福の表情を浮かべる2匹に、にっこり笑う。
「ゆっくり食べていてね!オレ、みんなにも渡してくるからね!」
きっと、オレがお世話になった人達みんなにあげられる。小洒落た包装紙も、ブランド名もないけれど、一粒一粒、感謝の気持ちをこめて渡そう。この小さな手で、お口まで運んであげる!
不思議なショコラ・・ありがとう。
もしかして、神様からのバレンタインプレゼントだったりして・・。
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