第85話 ゴブリンの集落
「なっ・・・なんだこりゃあ?!?!一体何が起こった?!」
「・・・・・あ。」
「あーーーーそれね。」
ポクポクとのんびり馬に揺られていたら突然の大声・・カロルス様たちが仰天して見つめる先には・・・そびえ立つ山。・・・セデス兄さんの視線が痛い。
「えっと・・・盗賊を追い返すのに・・ちょっと・・・。戻すの忘れてただけなの・・。」
「またお前か!!もっと普通にできんのか!!お前は・・もっと目立たん地味な魔法を使え!!」
「いやはや・・・たまげましたな。」
・・・・またこってりと怒られた。
土魔法って地味だと思うけど・・・ダメらしい。そんなこと言ったって・・地味で大規模な魔法って難しくない・・?
ちなみに山はちゃんと戻しておきました。でもこの山滑り台、規模を小さくしたら普通に遊具として使えるよね!村の広場に設置したら面白いかもしれない。
館に戻ったカロルス様ご一行を迎えて宴会場・・・もとい避難所の大広間は大いに沸いた。酒持ってこーいとか言ってるのは誰だよ!この状況にはカロルス様も苦笑いだ。
兎にも角にもキャロのもとに無事にトトを返せて本当に良かった・・わんわん泣いたキャロは何度もお礼を言ってくれた。・・でもこの大人しいキャロが騒ぐ村人を諫めたって聞いて本当にビックリだ。いざとなったときの勇気や度胸っていうのは、分からないものだね・・オレもそういう時にこそ勇気が出せる人になりたいな。カッコイイよ、キャロ。
トトは本人の記憶ではお菓子をもらって寝てただけなので、この事態に戸惑っていたが、並んだご馳走に今日は何か特別なお祭りかなんかだと思っているみたいだ。にこにこしながらカニグラタンを頬ばっている。
皆が落ち着いた所で、カロルス様から事の顛末とゴブリンの集落の話がされた。さすがに青ざめる人達がいるが、一様に皆落ち着いている。集落には冒険者や兵がメインで行き、村に戦力を残しておくこと、ゴブリンが集落から出ると分かるよう見張りを立てているので心配ないことが説明され、さらに安堵の雰囲気が広がる。
「まあ集落をつぶすまでは不安もあるだろうが、それまでは俺が村を離れずにいるから大丈夫だ。絶対守るから安心しておけ。」
不遜なほどに自信満々に宣言してニヤッとする。
漂う男の色気・・実に腹立たしい・・。頬を染める女性陣と、アニキ!と言いたげに目を輝かせる男性陣を横目に、なんとなく悔しい気がしてくる・・あのニヤッと笑い、オレもやりたい・・どうしてオレがやるとにこっ!なのか・・・。
「あれ、ずるいよねー。僕も練習してるんだけど・・なかなかうまくいかないんだよ。・・・どう?」
セデス兄さんがこっちを向いてイヒッと笑った・・・・・ぶふっ!!なんでこの人はこんな残念顔バリエーションが豊富なのか・・マッドサイエンティストになら見えるかも知れないよ・・・。
「んーやっぱりまだダメかぁ・・・。」
吹き出したオレにガッカリするセデス兄さん。いやいや、セデス兄さんはそっち系じゃないから・・無理だと思う!なぜ彼はそんな所に無駄に熱心なのか・・それより誰か彼に王子様フェイスを教えてあげて!!
「もう、そんなに笑わなくてもいいのに・・じゃあユータもやってみてよ!」
ほほう!いいでしょう・・オレの練習の成果を見せるとき!にこっとならないように・・男の色気、男の色気・・・。
「ぶっふうぅーー!!なっ・・なにそれ!あはっあははは!お腹痛い!!」
オレを見て爆笑するセデス兄さん。・・・・なんで!カッコイイでしょ?!
「そっ・・それまた母上にやってみせてよ!あは、あはは!ああ可笑しい!!何そのふてぶて顔ー!!」
オレのほっぺをつんつんしながら笑いのツボに入ったらしいセデス兄さんは腹を抱えている。・・・・そんなに笑わなくても。
「・・・何やってんだお前ら・・人が真面目に領主してしゃべってんのによ。」
ぐいっと両手で猫の子のように掴み上げられたオレ達。そう、オレ達・・・・セデス兄さんも腰辺りを片手で掴み上げられてる。
「ちょっちょっと!父上!僕もう子どもじゃないんだからやめてよ!!」
「はっはー!大人は真面目に話してる横で爆笑したりしねーよ。」
暴れるセデス兄さんをものともせずにぶら下げて会場から出たカロルス様が、ぽいっと放り投げると、くるっと回転して見事な着地を決めるセデス兄さん・・さすがだ。続いて放り投げられたオレもくるっと回って3回ひねりを入れたら無事着地。つい両手を挙げてポーズをとったらすかさずラピスの9、3!が入った。ちょっと回転が足りなかったか・・・。
「お前はまた妙なところが上達してんな・・・。」
呆れたカロルス様とセデス兄さんの視線は見ない振りをしておいた。
「さて!諸君には聞き覚えのある輩もいるだろう!ゴブリンを使った悪しき集団の拠点が発見された!相当数のゴブリンがいる集落であることが確認されている。賊から取った証言では広範囲を襲わせる計画があるという!賊の好き勝手にさせてなるものか!!」
「おおっ!!」
館の前にできた黒山の人だかりは、ガッターの街とハイカリクの街から派遣された兵と冒険者達だ。簡易のお立ち台みたいな所で声を張り上げているのはアルプロイさん。ちょっとよそ行きの芝居がかった話し方だ。
うおおおおぉ!!
徐々に興奮の高まっていく集団が、ひときわ大きな声をあげて出発していく。ちなみに集落の手前でもう一度こんな風に発破をかけるらしい。アルプロイさん・・お疲れ様です。
今回カロルス様は不測の事態に備えて館に残るので、執事さんが同行している。広範囲魔法の使える執事さんが適任なんだそう。マリーさんはゴブリンが嫌いみたいで行かないらしい・・『あれ潰れたら臭いんですよ・・』って呟いていた。
当然ながらオレは行けないしセデス兄さんもお留守番だ。でも、オレには活躍する場があるんだ!
執務室でソワソワしながらその時を待っていると、その間中、無茶をしないこと、すぐに帰ってくること、と何度も釘を刺された。
耳にタコがみっつくらいできそうな頃に、ようやくお呼びがかかったようだ!
「じゃあ、いってきまーす!」
ウキウキしながら光に包まれるオレを、苦い顔で見送るカロルス様たち。大丈夫だよ!危ないことはしないから!でも・・せっかく冒険者が戦うところが見られるんだよ・・?!ちょっとだけ!ちょっとだけ見て帰るから。
「おお・・・!やはりすごいものですね・・」
光と共に現れたオレに、執事さんが感心してくれる。ここは集落手前の森の中、だけど・・辺りは怒号と悲鳴と・・破壊の音で満ちていた。
「さあユータ様、お願い致しますね。ユータ様は何があってもお守りします。」
「大丈夫!ラピスたちもいるしオレもレーダーがあるから。」
頼もしい執事さんににっこりして、集中する。そう、オレの役目はレーダーで人を探すこと!
こっちの味方が集落奥まで入ると見分けがつかなくなるから、早く見付けないと・・・!
「あ・・・いた!あの右端の尖った屋根のところ!崩れた煙突が庭に落ちてる家!」
「分かりました!アルプロイさん!」
「承知!」
オレを隠すために、この場にいたのは執事さんとアルプロイさんだけだ。急いで戻ったアルプロイさんがテキパキ指示を出して兵たちと突入する。オレはぺたっと地面に手をつくと、集落の中程に目印を作った。
「あの目印より向こうに人はいないよ!」
「!・・わかりました。ユータ様はどうぞお早くお戻り下さい!」
ブツブツと呪文を唱える執事さん・・すごく早口でちっとも聞き取れない。
「・・・フレアストーム!」
ごおぉぉっ!と渦巻く炎が集落の奥を飲み込んだ!ぶわっと熱い風が時間差でこちらまで届いて前髪を巻き上げ、ひどい臭いを運んできた。
「う・・。」
「ユータ様!ここは戦場です。あなたがいてはいけません!早くお戻りに!」
うん、オレがいると執事さんが戦えないしね・・。最後に念のために精密レーダーで集中する。よし、大丈・・・夫?
・・なにかが引っ掛かった気がした。
(ラピス、とても弱い気配がある気がするんだ・・あそこ、ちょっと見てくれる?)
(きゅ!)
気のせいかもしれないけど・・ラピスをコッソリ派遣しておく。
ユータ!来て!!
倉庫らしき建物に侵入したラピスから、焦る声が響いた。
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