第65話 暗闇のイケメン

ぐぅ・・


お腹が空いて目が覚めた。

あたりは真っ暗。もう晩ごはん終わったよね・・なにか食べるものないかな・・?

そっと扉を開けると、トコトコ歩いていく。こういうとき夜目がきくのはすごく便利だ。


一階に下りるとむわんと漂う油の香り。

うっ・・空きっ腹にはいい香りだけど・・寝起きには随分ヘビーだな。

厨房を覗くと、ジフや料理人さんがまだなにか作っている。


「どうしてこんな時間にお料理してるの?」

「あっ?!お前!起きたか!ちょっとこれ食え。・・・それで、お前・・他にも知恵もってんだろ?出してみろ。」


フライドポテトの皿を押し付けられながら、なんだかカツアゲにでもあってる気分だ。なんでそんな低い声で言うんだよ・・小さい子なら泣いちゃうよ?

「知恵って・・どんな?」

「芋や魚を揚げたヤツだ!他にもなんかいいのあんだろ?」

「そんなザックリ聞かれてもわかんないよ・・他に作ろうと思ったのは、ポテトチップスだよ?芋を透けるぐらい薄く切って揚げてみて!」




「「「うおおあ!」」」


厨房から野太い悲鳴があがる。スナック菓子なんてないもんねぇ・・確かにこれは新食感だよね。

キッチン台に座らされて、もすもすとポテトを食べながら、盛り上がる厨房を眺める。できたらポテト以外も食べたいなぁ・・。みんな、こんな夜中に揚げ物ばっかり食べたら太るよ?

みんな自分の作業に夢中なので、お口直しに野菜スティックをかじって、また捕まらないうちにそっと厨房を抜け出す。


そう言えばカロルス様の奥さまと息子さん?らしき人に会ったのに大泣きして寝ちゃったんだよね・・大恥どころか不敬罪ものだと思うんだけど・・・大丈夫なんだろうか・・。執務室に行こうかと思ったけど、今は夜の何時頃なんだろうか?館は真っ暗だし、明日の朝にちゃんと謝ろう。


部屋に戻ろうとしたら、足音が近づいて来た。ランプを持って歩いているのは息子さん?だ。ふわっと風呂上がりの香りがする。ちょっとだらしない格好でごしごし頭を拭きながら歩く姿は、やっぱりカロルス様の息子さんだなぁ・・折り目正しい姿よりこっちの方がしっくりきてしまうよ。


「うおわっ?!」

「っ?!」

ビクぅっ!

目の前で急に悲鳴を上げられてオレも驚く。

彼はランプをオレにかざして目を細め、警戒態勢だ・・。


「・・・んん?・・あーーーービックリした。嬢ちゃ・・いや、男の子なんだって?ユータっていうんだっけか。もう、なんでこんな暗闇に潜んでるんだよ!僕めちゃくちゃビックリしたよ!?」


ふぅーっと胸をなで下ろした青年は心底安堵した顔だ。なんでそんなビックリ・・・ってそうか、オレは見えてるけど普通真っ暗だと見えないよね。


「で、どうしたの?お部屋がわからない・・なんてことはないか。真っ暗で怖かったろ?」

「いいえ、オレ、夜目がきくんです。だいじょうぶです。」


「夜目がきくって・・こんな真っ暗でも見えるの?」

「はい、ちゃんとみえてます。」


「えーホントかな?」

青年は不思議そうに首を傾げると、ちょっとイタズラっぽい顔をすると、ランプを消して横に置いた。

なにするのかな?

すっ・・と背筋を伸ばして立った青年は、貴族らしい気品があって素敵だ。



なのに・・・・



「!!っぶふっ?!あは、あはは!」



彼は突如顔面を崩壊させたかと思うと、キテレツな動きでカサカサと踊り出した・・・!

・・いっ・・イケメンが・・台無し!!やめて!腹が痛い!!


「げっ・・マジで見えてんの?!恥ずかし!・・・これ、ババンナマンキーの求婚ダンスなんだ、どう?結構いい感じだと思ったんだけど絶対やるなって言われたんだよ。」

頭を掻きながら壁に向かって話すイケメン・・オレはそっちじゃないよ。

あれを・・・彼は一体どんな場面で披露するつもりなのか?この世界にも飲みの席で一発芸やれとかあるんだろうか。

「ど・・どうって・・・お、面白かったです・・。」

声が震えるのは許して欲しい。

「あれ、こっちか。そう?面白い?前にやったら女子に泣かれちゃってさー、ババンナマンキーは魔物だからやっぱり怖かったのかと思ってさ。・・あ、いや今そんなことはどうでもいいんだけど。」

今度は手すりに向かって話しかける残念なイケメン。そりゃあ泣くだろうな・・・こんな王子様系爽やかイケメン君がババンナマンキーになったら・・・。あの顔はない。


「ま、まあそれはおいといて・・もう遅いし部屋まで行こうか。」

言いながらランプを探しているんだろう、わさわさと手を動かしながらうろうろしている。あんなに動くから分からなくなるんだよ・・。

くすくす笑いながら手を取ると、ランプを手渡した。

「あっ・・ありがとう。本当にランプいらずなんだねえ・・それってキミの国の人の特徴なのかな?」

「どうでしょう・・?」

いやそんなことはないハズだけど・・なんでかはオレにも分からない。


「ところで、キミは僕の弟みたいなものだと思ってたんだけど・・普通にお話はしてくれないのかな?父上やジフには普通に話していると聞いたよ?」

「そっ・・そんな、おそれおおい。」

「いやーこんなちっちゃい子にそんな態度とられると中々傷つくよ?そもそも父上の方がお偉いさんなんだから、僕に畏まるのはおかしいと思うよ?」

「う・・はい。でも・・ふつうに、おはなしして・・いい、の?」

「!!いいっ!全然!そっちの方がいいっ!!」

すごい勢いで肯定されたのでちょっとビックリしたけど、この人もいい人だな・・・さすがカロルス様の息子さんだ。思わずにっこりする。


「ありがとう!あのね、カロルス様はとってもやさしくて、オレ、すごくよくしてもらってるの。」

「うおお・・弟・・・いい!いいなこれ!!・・そ、そうか、ユータ、じゃあ明日は父上と仲良くしている所を母上にも見せてやってくれ。父上は今日ちょっと大変だったからな・・・。」

「!オレがしつれいなことしたから?!」

「違う違う、いいんだ、どっちにしたって何かしら怒られるんだから。」

「そうなの・・?ごめんなさい、オレ、いきなり泣いたりして・・・」

「いやいや、そこは普通の子どもらしくて良かったよ。むしろ他の部分を反省してくれ・・。」


他・・他の部分・・考え込むオレの頭をわしわしすると、彼は先に立って歩き出した。

「いいんだよ、ユータは何も悪くないから。さ、もう遅いからちゃんと寝よう?」

「・・はい!」

漂う雰囲気はやっぱりカロルス様と似ているな・・いつものように並んで手をつなぐ。少しビクリとした手は、カロルス様よりは大分小さいけれど、ゴツゴツとした固い手だった。すらりとして見えるのに意外だな・・見上げると、彼は顔を逸らしてやばい、と呟いたようだった。


「・・あの、お兄さんのおなまえは?」

「あ・・言ってなかったな。僕はセデスだよ。母上はエリーシャって言うんだ。よろしくね。」

彼はオレを部屋の中まで送り届けて、ちゃんと肩まで布団をかけてくれた。なんて面倒見のいい人なんだ・・ぽんぽん、と軽く布団を叩くと、おやすみ、と言って静かに出ていった。


セデス・・セデス兄さん、でいいのかな?見た目はあんまり似てないけど、中身はカロルス様だなあって思う所もある。一緒にいる時間が長い分、エリーシャさんの方が似ているね。見た目のすらりとした感じも母親譲りなんだろう。


ああそうだ・・明日はエリーシャさんに謝らなきゃ・・・。



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